番外編:書道を愛する妖1
※更新が一日遅れてしまい、すみません。
「へぇ。幸子さん書道教室の先生だったんですね」
「そうよ。小さな教室だけれどね」
私の目の前で朗らかな笑顔を見せるこの女性は、新田幸子さん。祖母の友人で、この水無瀬時計店の顧客でもある。
「それにしても、千暁ちゃん腕を上げたわね」
「いやいや。まだまだですよ」
私が差し出した女性物の腕時計を見て、幸子さんは嬉しそうに笑う。この腕時計は数日前に修理を依頼されたものだ。なんでも、長年愛用しているものらしい。無事に修理が完了した今日、彼女には腕時計を受け取りに来てもらっていた。
あまりに嬉しそうに笑うものだから、私の心もじんわりと温かくなった。
「最近はね。新しい子も入ったのよ」
幸子さんは腕時計を早速左腕につけながら楽しそうに続けた。
「まだ小学校に上がったばかりか……上がる前の年頃かしら。小さな女の子が入ってくれてね。ちょっと不思議な子ではあるんだけれど」
「不思議?」
「あっ、不思議といっても悪い意味じゃないのよ?なんというか、纏ってる空気が独特いうか。小さな女の子相手になにいってるのって思われるかもしれないけど。まだ慣れない平仮名や漢字を学びに来ているみたいなの」
オーラ……というべきか、その人が纏う空気というものは、その人自身の性格や、育った環境によっても変化するものだ。その女の子には他の同年代の子どもにはない大人びた空気が漂っているのかもしれない。だからこそ、幸子さんは違和感を感じたのだろう。
「楽しそうに習字をやっているから心配することないと思うんだけれど。他の子ども達とはあまり話さないし、なにか困ったことはないか心配でね」
幸子さんは子どもが好きな優しい女性だ。お節介であることは理解しつつ、周囲に馴染めていない女の子のことを心配しているようだった。
「そうだ。千暁ちゃん。今度、教室に来てみない?」
「私が?」
「千暁ちゃん人との距離を自然に詰めるのが上手いじゃない?習字を学びながらそれとなく話を聞いてみてくれないかしら」
その言葉を聞いて、私はちらりとすぐそばにいた琥珀に視線を移す。
琥珀の顔には言葉にせずとも分かる程はっきりと「お人好しめ」と書かれているが、無視することにした。
この店の顧客であり、しかも祖母の友人である幸子さんからのお願いを断れるはずがない。
「分かりました。伺わせて頂きます」
「水無瀬~千暁は~お人好しの魔術師よ~♪」
「なにその変な歌」
琥珀を抱っこしながら幸子さんの書道教室に向かって歩いていると、腕の中で琥珀がおかしな歌を歌い出した。
「水無瀬千暁~お人好しの歌~だ」
「やめてくれる?変な歌作るの。そしてネーミングセンスがない」
幸子さんから書道教室へ来て欲しいと依頼があった数日後。
私は時計店の仕事を祖父母に任せて早速、書道教室へと足を向けていた。
琥珀を連れてきてもいいと言ってもらえたので、私と一緒に相棒も強制的に書道教室へ向かうことになった。
「考えてもみろ。心配なのは分からなくもないが、本人にしか分からない重大な悩みや事情を抱えているのかもしれないぞ。その場合、外野がとやかく口を出すのはタブーだろう」
琥珀の言い分は最もだった。人によっては、触れられたくない問題を抱えている場合もあるだろう。
「琥珀の言いたいことは分かるよ。だから、私はあくまで様子を見るだけ」
「それだけで済めばいいけどな」
「どういう意味?」
「これまでの経験上、こういう場合は大抵、トラブルが発生する」
「不吉なこと言わないでくれる!?人をトラブルメーカーみたいに!」
「違うのか?」
「違うわっ!」
盛大なツッコミを入れながら、私は幸子さんが待つ書道教室へと急いだ。
※ 諸事情により、次回更新は水曜日の予定です。
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