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第十二話:現実と幻想の狭間で5

一瞬。甘い呪いのような言葉が、脳を溶かすようにどろりと流れ込んできた。

ここにいれば、また深琴と過ごせるのか。大好きな兄と。

しかし、その時。とある声が、どこからともなく大切な人の声が、聞こえてきたような気がした。

ーー真琴さん。

今や、俺にとってかけがえのない存在となった少女の声だ。

小さな身体で魔術師界を背負い、弱さを認め前に進むことを決して諦めない、強くて優しい少女。彼女の信頼を裏切る訳にはいかなかった。

「違う。お前は深琴じゃない」

その言葉を振り切り、俺は目の前の人物を睨みつける。

すると、目の前にいる二人は驚きに目を見開いた。

「なにいってるの?真琴。ここにいれば、辛いこともなくなるのよ」

未玖の方こそなにをいっているのかーーそう問おうとしたところで異変に気づいた。

彼女の瞳からは光が消え、焦点が合っていない。そこでようやく気づく。

「赤羽の術式の真髄は、相手の悲しみや弱さに漬け込み、心を壊すことだったのか」

おそらく未玖は、赤羽の術中にはまってしまっている。

「なら、千暁はどうする?お前が、水無瀬暁人の代わりに守り、支えると誓った千暁はどうする」

「私は、真琴や千暁ちゃんみたいに強くないっ!もう大切な人を失いたくないの!暁人と一緒にいたい……!」

「誰かが傷ついても、立ち上がれるように支え合うのが仲間だろ。お前は一人じゃない。俺達の居場所はここじゃない」

顔を両手で覆っていた未玖が、顔を上げて目を丸くする。

「俺達の帰りを、待ってるやつらがいる」

俺はそういって、水を使っていくつもの雫を作り出す。

そして、目の前にいる幻の人物に、それを突き立てた。

小さな雫は鋭い刃へと形を変え、二人の身体を容赦なく貫く。実体のない幻影だからか、一滴の血液も出てこなかった。

それにやはり、赤羽の能力はあくまで、他者の弱味に漬け込み、心を破壊することのようだ。先程から目の前にいる水無瀬暁人と深琴は、甘い言葉をかけてくるだけで、攻撃らしい攻撃はしてこない。今だって、俺の攻撃を防ごうとはしなかった。

「消えろ。お前達は九条深琴でも、水無瀬暁人でもない」

水の刃が元の液体に戻った時。空から薄らと光が零れ始めた。

「真琴……」

声がした方に視線を向けると、未玖の瞳にはいつも通りの気の強い光が宿っていた。

「やっと目を覚ましたか。帰るぞ」

そういうと、未玖は小さな消え入りそうな声で「ありがとう」と呟いた。

「貸し一つ、な」

「なによ。偉そうに」

すっかりいつも通りの会話に、二人で小さな笑い声を漏らす。

「ここから出る条件はどうやら、自分の弱さに打ち勝つこと、だったみたいだな」

空から漏れる光がどんどんと強くなる。元の世界に戻る予兆だろう。

「無事に戻れるようね。あなたのおかげで」

「その通りだが、素直なお前はなんだか気味が悪いな」

「本当に失礼ね」

やいやいといい合いながら、俺達は千暁と琥珀が待つであろう現実に戻っていった。

※次回更新は明日の予定です。

Copyright(C)2023-音愛

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