第十話:現実と幻想の狭間で3
※続きです。
泣き笑いのような笑みを浮かべながら兄貴を見つめると、彼は驚いたように目を見開いた。
「兄貴がいない世界は今でも辛いし、魔術師として任務をこなすことだって楽しいことばかりじゃない。でも、私には琥珀や未玖さん、真琴さん……互いに支え合える仲間がいる。全部、兄貴がくれた縁だよ」
分かっている。これは、いつか私が夢見た幻想だ。叶うことのなかったーー否、叶えることのできなかった願い。
この世界が私の願望が創り出した世界なら、それを終わらせることができるのもまた、私だけのはずだ。
「だから、大丈夫。辛いことがあっても、なんとか進んで行けるよ。だからもう、心配しないで。いつも守ってくれてありがとう。愛してくれて、ありがとう」
ずっと、伝えたくて、伝えられなかった言葉を告げる。涙を拭うことなくそう告げれば、兄貴は柔らかな笑顔を浮かべて私を見つめ返した。
「……強くなったな。千暁」
いいながら、兄貴はそっと私を抱きしめる。腕の強さも、抱きしめられている温度も、なにもかもが妙にリアルだった。
「俺の方こそ、お前と過ごせて幸せだった。幸せをありがとう。例えそばにいられなくても、ずっとお前を見守ってる」
「うん……知ってる」
「お前は俺の妹だからなんだってできる」
「なにそれ」
思わず、小さな笑いが漏れる。まるで、昔に戻ったみたいだ。
「だから、いい時計師にもなれるはずだ。めげずに頑張れ」
「私より兄貴の方が作業着似合ってるの、なんだか不服だけどね」
「ははっ。そんなことないさ。俺に似合うなら、お前にも似合う」
兄貴がそっと、身体を離す。
「そろそろ帰る時間だろ」
「……うん」
今の私には、私の帰りを待ってくれている人達がいる。
「頼んだぞ」
兄貴からの視線を受けて、琥珀が力強く頷く。
「それじゃあ、またね」
「あぁ、またな。未玖にもよろしくいっておいてくれ」
私は涙を拭って、兄貴に背を向ける。琥珀と共に時計店の扉の前に行き、そして、一度だけ振り返る。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
※次回更新は明日の予定です。
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