番外編:琥珀の大冒険4
綾子に別れを告げ、元来た道を戻る。しかし。途中で私は足を止めた。なぜかって?思った以上にスカーフの中身が重いからだ!本当に不便だな、この小さな身体は!
ゼーハーいいながら必死に歩いていると、聞き覚えのある声が上から振ってきた。
「あら?琥珀?」
少しだけ顔を上に向けると、そこには予想した通り、未玖の姿があった。
その右手にはなぜかケーキが入っているであろう、四角い箱が握られている。
「なんだ。お前か」
「なんだってなによ。失礼ね。こんなところでなにしてるのよ」
「ただの散歩だ」
「千暁ちゃんは?」
「千暁は今、時計の修理に苦戦中だ」
それを聞いて、なにかを悟ったらしい未玖は、「ははーん」といいながら意味ありげにこちらを見つめてきた。全く。余計な時にばかり勘が働く嫌なやつである。
「この道は和ごころに続く道ね。忙しい千暁ちゃんのために差し入れ調達しに来たの?」
「そうではない。単なる気まぐれだ」
「素直じゃないわね。というより、琥珀ったら本当に千暁ちゃんのこと大好きね」
「当たり前だ。あれは私の唯一の主だからな」
そう返した私に意表を突かれたのか、未玖はその双眸をまん丸にしている。これは面白いものを見た。
「今度は逆に素直ね。その荷物、重いんでしょう?持ってあげるわ。私もちょうど、千暁ちゃんのところに行く予定だったの」
未玖は右手に持ったケーキの箱をちょいと持ち上げてそういった。
どうやら、最近会う機会が減った千暁の様子を見に行くところだったらしい。
ならば、お言葉に甘えるとしよう。私は和菓子を未玖に託し、彼女と共に水無瀬時計店へと歩を進めた。
時計店に戻ると、千暁はちょうど作業を終えたようだった。
孝之と千代子は奥の作業部屋へ向かったのか、表にその姿はない。
「未玖さん!いらっしゃい。あれ、琥珀も出かけてたの?」
「千暁ちゃんこんにちは。たまたま外で琥珀に会ったの。これお土産」
「わぁ!ケーキですか!?ありがとうございます!」
「それから、こっちは琥珀から」
差し出された和菓子の袋を受け取った千暁は目を見開き、私を見た。
「琥珀が?まさか、おつかいに行ってくれたの?」
「そうみたい」
未玖の言葉に、千暁は私をまじまじと見つめてくる。そして、気のせいかもしれないが心底嬉しそうに破顔し、大事そうに和菓子を抱え直した。
「ありがとう。琥珀」
皆でティータイムにしましょう。と千暁は奥へと引っ込む。
待て。私の昼ご飯を忘れるなよ。
「良かったわね。琥珀」
「やかましいわ」
周囲に聞こえないようにごく小さな声で呟く。
すると、未玖はふふっと楽しそうに笑うのだった。
重度のお人好しだろうと、魔術師として未熟だろうと、彼女が私の唯一の主であることに変わりはない。それに。
なんだかんだいいつつも、私は水無瀬千暁という一人の人間を気に入っているのだ。
彼女の魔術師人生に幕が閉じるその日まで。私は千暁のそばにいよう。従者として、支え続けよう。
そう改めて強く誓ったのであった。
※琥珀の大冒険、完結です。
次回更新は明日です。
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