第五十三話:最終決戦8
「無駄だよ。あなたが"魔術師であった事実はもう、どこにもない"」
「なん、だと……?」
「私の新たに開花した能力は、おそらく、"事象を、理を、創造し、創り変える力"。あなたが魔術師であった事実は、もうどこにもない。私はドラゴンを、デビルファング達を"倒した"訳じゃない。その存在を"なかったことにした"だけ。そして、あなたも」
深琴の身体はみるみる内に光の粒子へと変わっていく。
「そんな……!俺は……俺はただ……!九条家の期待に応えたかっただけ……だからあの人に力を借りたんだ……!」
深琴の言葉はそこで途切れた。その姿が、跡形もなく消え失せたからだ。
「あの人……?」
「気にするな。ただの戯れ言だ」
気になる一言に、眉をひそめた私に、琥珀がいう。
直後に真琴さんの悲しみに満ちた声が耳に届いた。
「兄貴は、九条家の異常とも呼べる重圧に耐えきれずに壊れたんだろうな……」
「はい……」
そういって、真琴さんは静かに涙を流す。やり方は間違っていたかもしれない。けれど、彼にとってはたった一人の兄だったのだ。
九条家は力を得ることに異常なこだわりを持っていた。その異常なまでの圧力が、九条深琴の心を壊したのかもしれない。
私は彼の涙が止まるまで、その背中を擦り続けた。
時計店へ戻る帰り道、私は琥珀、未玖さん、真琴さんと一緒に兄貴が亡くなった場所に来ていた。全てが終わったことを報告するためだ。
「兄貴。遅くなってごめん。全部、終わったよ」
そう呟くと、まるで私の頬を撫でるように優しい風が吹いた。
唐突に兄貴の温かな手を思い出し、私の双眸からは堰を切ったように大粒の涙が溢れ出す。守ってあげられなくてごめん。いつも支えてくれてありがとう。込み上げてきたのは兄貴への懺悔と感謝だった。
しゃがみこんで泣きじゃくっていると、力強い腕が私を気遣うように抱きしめてくれた。おそらく、真琴さんだ。
琥珀達は私の涙が引っ込むまで静かに見守ってくれていた。
もうすぐ、日が暮れる。少しだけ肌寒い風が私の涙をさらっていった。
※いよいよクライマックスです。
次回更新は明日の予定です。
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