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トリプルスターズ誕生の前の前

スマホでも読みやすいように編集しました。

「それで、なぜ、真理っぺ、じゃない、真理さんは、その二人が刑事だと分かったとかな? 」


 田畑君が、ソースがたっぷりかかったトンカツの一切れを口に運びながら首を傾げた。

 今、僕と田畑君は、聖技能学園の寮の食堂で夕食を食べている。寮の食堂で出る夕食は、A定食とB定食の二つから選べる。今日のメニューは、豚カツ定食と塩鯖定食だ。僕は塩鯖定食を選んだ。      


「真理っぺ、いや、真理さんはエスパー系の能力者じゃなかけん、分からんだろうもん。シュン君、真理っぺ、じゃなかった、真理さんから、そのことの説明してもらった? 」


 田畑君は、以前、僕の前では『ドSのやつ』と呼んでいた真理さんのことを、普通に真理さんと呼ぶことに苦労しているようだ。通学組の真理さんは、当然、今この場所にはいるはずもなく、僕と田畑君の二人だけなのだから(と言っても、他の寮生たちも周りで夕食を食べているけど)、真理さんの呼び方にそんなに気をつかう必要はないと思うのだけど。

 いくら、真理さんがドSでも、僕たちの周りに密偵を放って僕たちの弱みを握って、それをネタに僕たちを操ろうとまでは考えないと思う。


 いや、心配になってきた。後から、来ると言っていた田畑君から、真理さん宛に『手続きが長引いて来られない』とメールがあったとき、ちょっと怒ったような表情を見せた真理さんが、「帰ったら、ターにこれを渡しておいて」と僕に言付けた小さなバッチ。


 気になる。


 バッチに見せかけた盗聴器だったのかもしれない。指紋認識解除装置なる他人の指紋を施したゴム手袋を作る事が出来る人だ。小型盗聴器など簡単に作ることが出来るに違いない。


 田畑君、その前に、今日真理さんからもらったバッチを見せてもらえないかい。


 僕は声に出さずに田畑君に頼んだ。

 声に出さなくても、田畑君は僕が考えた事などはニオイで分かるからだ。


「ああ、よかけど」


 田畑君が、上着に付けていたバッチを外して僕に渡した。

 バッチには、女の子が頬を膨らましている絵が描いてある。真理さんに渡された時には、真理さんの機嫌をそこねるのが怖くて、じっくりバッチを見なかったので、そんな絵が描いてある事にも気付かなかった。よく見ると、その絵の女の子は、真理さんに似て無くもない。バッチを裏返して裏を見る。どう調べてみても普通のバッチだ。盗聴器の心配は無いのかもしれない。


 それにしても、何なのだろう、このバッチは?


 僕は、バッチを田畑君に返しながら思った。


「それ、わが輩の評価バッチだそうだ」

「評価バッチ? 」

「そのプンプン顔した絵のバッチが、五個になった時点で、わが輩は真理っぺの彼氏候補から外される。それから、今何個になったか分かるように、いつも服に付けておかなければならない」


 うわー、ドSの人を好きになってしまったら大変だ。


「わが輩もそう思う」


 田畑君が力無く笑った。


「だけどもな、真理っぺは可愛いかとよ」


 それは、認める。確かに、僕が今まで会った中で、真理さんは最高に可愛い。外見上は。


「いや、シュン君は知らんかもしれんけど、真理っぺは、小さな子には、とても優しかとよ。ドSの片鱗も見せん。そして、責任感もある。まあ真理っぺのニオイからは、相変わらず何の情報も伝わってこんから、考えている事は読みとれんけど」


 ふーん、そうなんだ。真理さんて、そんな一面もあるんだ。


「ところで、シュン君。さっきの質問。どうして、真理っぺは、その二人が刑事だと分かったとかな? 」

「その質問に答える前に、田畑君に忠告。さっきから真理さんのことを、真理っぺと呼んでいるよ」

「えっ! わが輩、真理っぺって言ってた? 」


 僕は力強く肯いた。


「いかん、いかん。またプンプンバッチが増えるところだった」


 田畑君の動揺が治まったところで、僕は真理さんに教えてもらったことを田畑君に伝えた。

 まず、スマホを片手に佇んでいるのに、スマホの画面を見ていなかったこと。 次に、その視線は誰かを捜しているみたいに絶えず動いていたこと 。三つ目に、片方の耳にイヤホンをしているのに、そのコードがスマホにはつながっていなかったこと。そして、時々、呟くように何か言っていたこと。おそらく、連絡を取り合っていたのだろう。四つ目に、二人とも同じようなスーツを着ていたこと。でも、サラリーマンにしては、バッグ類も持っていなくて雰囲気が違っていたこと。五つ目に、履いていた靴が、ずいぶん歩き回った靴のように踵の部分がすれていて、靴全体が薄汚れていたこと。以上のようなことから、真理さんはあの二人が刑事さんだと気付いたらしい。

 それにしても、通りを歩いている途中で、瞬時にそんな人間観察をしているなんて、真理さんのもつシャーロック系の能力って、すごいと思った。


「でも、それだけで刑事と決めつけてよかとかな? 」


 僕の説明を聞き終えた田畑君が、首を傾げた。


「それは真理さんも言っていた。それだけのことで刑事さんだと決めつけるのは、素人には危険だって。他にも理由はあるって」




 僕は、真理さんが説明してくれた時のことを思い出していた。

 あの後、真理さんはスマホを取り出して、誰かにメールを送信した。

 送信してからの真理さんは、少し落ち着きがなかった。何かに焦っているのか、左手の人差し指でテーブルの天板をトントントントン叩いていた。

 僕は真理さんに話しかけるのを止めた。こんな時に話しかけるのは、愚か者がすることだ。僕は愚か者にはなりたくない。


 ダンダンダンタタタ、ダンダンダンタタタ、ピュルルー、ピュルルーという、どこかで聴いたような音楽が、真理さんが右手に持っているスマホから流れた。

 ミッションインポッシブルのテーマ?

 メールの着信音だったのだろう。真理さんがスマホを操作し、スマホを見ている。


「良かった。あの二人の男の人は、やっぱり刑事だった」


 そう言って、真理さんがふーと長い息を吐いた。緊張が解けたみたいに、表情が穏やかになった。


「やっぱり刑事だったって。どういうこと? 」


 僕は真理さんに尋ねた。もう質問をしても大丈夫だろうと思ったからだ。

 真理さんは、あの二人の男の人を刑事と判断した5つの基準を説明してくれた後、こう付け加えた。


「主に5番目の判断基準で間違いないわね。刑事は脚で稼ぐって言うでしょ。つまり、捜査のために歩き回っているから、靴の傷み方が早いのね」

「でも、真理さん。さっきメールして確認してたよね。誰にメールしたの? 」

「うっ、それをボクに訊く気? 」


 質問してはいけなかったんだろうか。あちゃー。

 と、思っていたら、真理さんが今度は「はぁ…」と大きなため息をついてから、「いいわよ。教えてあげる」と言った。


「ボクが、あの二人を刑事だと判断した基準は他にもあった。腰の辺りに何かがあるように、少し膨らんでいたこと。おそらく、警棒とか手錠とかを装備したホルダーね」

「あ、知ってる。ピストルもだよね」

「日本の刑事は、普段は拳銃は持ち歩かないの。これって常識だからね」

「あ、そうなんだ」

「ったく。聖技能学園の生徒なら、それぐらいは知っておいてよね」


 真理さんが二度目のため息をついた。


「でも、今までボクが示した判断基準で、刑事以外にも当てはまる人たちがいる。探偵か犯罪組織の人間が、それ」

「どういうこと? 」

「何か目的があって、ターゲットを探しているのなら、刑事と同じような動きをしていてもおかしくないってこと。誰かを捜しているのなら、視線はあちこちに動くだろうし、仲間と常時連絡を取り合うためにハンズフリーの無線も持っているだろうし、さっきシュン君が言った拳銃とかも、服の下に隠して持っているかもしれない。靴に関しては当てはまらないと思うけどね。ただし、二人ともファッションセンスが無くて、もしくはケチで、靴を履きつぶすまで使用していることも考えられる」

「真理さん。確認したよね、メールして。二人が刑事でない可能性があったの? 」

「あの女の人が、ジュエル黒崎の従業員だったからよ。正確に言うと元従業員ね。ジュエル黒崎は、あの事件の発覚後、倒産したから」

「えっ、倒産したの? 」


 僕は何だか複雑な気持ちになった。僕らが詐欺事件を公にしたせいで、何の罪もない従業員の人たちを路頭に迷わせる事になったのかもしれないからだ。


「仕方がないんじゃない。どうせ、悪い事をやっていたら、いつかはバレるし、従業員の人たちも、もっと大きな犯罪に巻き込まれていたかもしれないから。というか、巻き込まれかけているんだけど」

「えっ、どういうこと? 」


 二度目の、どういうことだ。


「何かの犯罪があって、その犯人が警察に捕まったら、それで解決じゃない事は、シュン君でも分かるわよね」

「もちろん」


 多少自信がない部分もあるが、真理さんの手前もあり、力強く肯く。


「じゃあ、説明してみて」


 げげっ、やっぱりそうきたか。僕はゴクリと唾を飲み込んでから、口を開いた。


「えーと、警察で取り調べがあって、それから検察で取り調べがあって、起訴されたら地方裁判所で裁判があって、判決が出て、その判決が不満だったら控訴して、高等裁判所で裁判があって、判決が出て、その判決が不満だったら」

「ストップ! 」


 真理さんが手のひらをパーの形にして僕の口元にもってきた。


「ボクは日本の裁判制度についてシュン君に質問したんじゃないの。その他には考えられないの? 」


 僕は考えるふりをしてから、「分からない」と答えた。

 真理さんがため息をついた。三度目だ。


「もしも、ある事件の犯人が単独犯じゃなかったら、組織的な犯罪だったら、一人を捕まえたとしても、事件は終わっていないわよね」

「まだ捕まっていない仲間がいるってこと? 」

「そう」


 真理さんが肯く。

 僕は、やっと事情がのみ込めた。


「じゃあ、ブルーダイヤモンドの詐欺事件は、黒崎の他にも捕まっていない仲間がいたってこと? じゃあ、刑事さんに捕まって連れて行かれた女の人も犯罪組織の仲間だったの? 親切なお姉さんだったから、悪い事をするような人には見えないけど…」


 真理さんは、「チッ、チッ、」と舌打ちするような音を出しながら、人差し指を立てて左右に振った。


「違う。彼女は刑事さんに捕まったんじゃなくて、彼女が自分を保護してくれるように求めたの。さっきのことを思い出してみて。容疑者の身柄を確保しているような様子じゃなかったでしょ。それに、刑事さんに会った後の彼女の横顔がちらっと見えたけど、穏やかな表情だった。あの表情は、それまでの緊張から解き放たれて、安心したような表情だったわ。でも、彼女が騙されている可能性もあったから、気になったんだけど」

「さっき、真理さんは黒崎の会社の従業員だった人たちが、もっと大きな犯罪に巻き込まれかけていると言ったよね? 」

「ボクの言った事をきちんと聞いていたのね。そうよ」

「そんなことまで分かるの? 」

「分かるわ、と言いたいところだけど、それは無理。ただ、さっきシュン君が、あの女の人が黒崎の会社の人だと言った時、もしかしたら、あのブルーダイヤモンド詐欺事件は、まだ終結していないんじゃないかと思ったの」

「なんで? 」

「誰かを捜している刑事らしい人に接触した人が、かつての事件の関係者だった場合、何らかのトラブルが残っている場合が多いからよ。考えてみて、事件に関係のあった人物が、新たな別の犯罪に、短期間の内に巻き込まれてしまう可能性は、極端に低いわ。ということは、まだブルーダイヤモンド詐欺事件は終わっていなかった、と考える方が筋が通るでしょ」

「でも、あの事件は花谷さんが取り調べに立ち会ったらしいから、黒崎がいくら隠し事をしていても、すぐに見抜かれたはずだよ」


 真理さんが窓の外に視線を移した。


「そこなのよね。華菜さんは、全てを知っていた。ター君とシュン君が、ジュエル黒崎に忍び込んで、偽物の宝石を盗み出した事も。その偽物の宝石をきっかけとして黒崎の詐欺が暴露されたわけだけど、一つだけ謎が残った」


 遠くを見つめながら、真理さんが呟くように続ける。


「ボクの失策ね。ボクがこんなミスをおかすなんて、信じられない。でも、その時はまだ中学生だったのだから、そんなミスをおかしても仕方がない。そう、仕方が無かったのよ。うん、ボクは悪くない」


 真理さんが、僕の方に向き直った。


「ブルーダイヤモンド詐欺事件で残った謎。誰がジュエル黒崎の金庫から偽物の宝石を盗みだし、それを子どもたちを使って交番に届け、そして電話で警察にリークしたか」

「それは、分かっている。盗み出したのは、僕と田畑君。警察に電話したのは、真理さん」


 真理さんが、キッと僕をにらみつけた。


「シュン君、それ冗談で言っているわよね? 」


 何やらやばそうな気がして、僕は二度三度、首を縦に振った。


「取り調べに立ち会った華菜さんも、そのことはもちろん知っていた。だから、ボクたちに影響がでないようにして捜査を進めた。だから、ジュエル黒崎から偽物の宝石を盗み出した人物は、今も捕まっていない。だけど、 」


 真理さんが、そこで一旦言葉を切った。僕は、何故かゴクリと唾を飲み込んでいた。


「だけど、偽物の宝石を盗み出した人物が特定されなかったことが、事件を大きくしてしまった」

「どういうことなの? 」

「偽物の宝石のことについて調べが進むと、どうしても盗み出した人物のことについても捜査の手が伸びることになる。盗み出した人物は、ジュエル黒崎の金庫の中に、高価な宝石があるかもしれないと知っていたわけだから」


 知っていたのは、と言うか、予測したのは真理さんだ。


「だから、偽物の宝石については、真実を深く追求するわけにはいかなかった。深く追求すると、ボクたちのことが明るみに出てしまうから」


 そうなったら困る。いや、困っていた。


「深く考えたら、気付かなければいけない事だったのよ。成城に住む老夫婦が持ち込んだブルーダイヤモンドの精巧な偽物を短期間で作る技術をもっていたのは誰だったのか。なぜ、他にも精巧な偽物が3個もあったのか」

「偽物を作ったのは黒崎じゃないの? 」

「黒崎にそんな技術力があったとは思えない。ガラス玉で作ったような偽物なら、プロの宝石の鑑定士なら一目見るだけで偽物と見破ってしまうから。つまり、こう考えた方がつじつまが合うわ。大きな詐欺組織があって、黒崎はその組織のコマの一つにすぎない。黒崎が逮捕されても、組織には影響がないようにしてあった。実際に、黒崎の口からも、そんな組織の事は語られていない」

「じゃあ、そんな組織は無かったんじゃないの? 」

「あ・る・の・よ」


 半眼になった真理さんが言った。やばい! 真理さんを怒らせてしまったかもしれない。


「ボクの推理に間違いはない。黙って聞きなさい」


 僕はコクコクと肯いた。


「組織の人間は、ジュエル黒崎の金庫の中に宝石があると知って盗み出した人物が、未だ捕まっていない事に危機感をもった。当然捕まるだろうと思っていた人物が一年近くも逃げおおせている。それだけの力量をもった者なら、自分たちの組織の内情まで知っているのではないか。もしかすると組織の中に裏切り者がいるんではないか。そんな疑念が生まれてきた。そういう時、どうすると思う? 」

「うーん、盗み出した人物を捜す」

「そう。組織は自分たちで宝石を盗み出した人物を捜し始めたのよ。そして、ジュエル黒崎の営業時間外に入り口の鍵を開けた人物を見つけだした。それが、あの女の人」

「えっ、あのお姉さんがそんなことしたの? 」

「実際には、あの人は鍵を開けたりなんかしてないわよ。開けたのは、あの人の指紋が複製してあるゴム手袋をはめていた、あなたたち」


 あのとき、僕と田畑君がジュエル黒崎に忍び込んだ時、僕たちがはめていたゴム手袋の指紋は、あのお姉さんのものだったんだ。僕は、あの美人のお姉さんに手を握られた時の感触を思い出した。


「シュン君、なぜか顔、にやけているよ」


 真理さんに指摘されて、僕は慌てて真顔に戻した。


「でも、組織の人が分かるくらいなら、警察も当然調べたんだろうから、分かるはずだよね」

「もちろん警察も、ジュエル黒崎の指紋認証装置の履歴や、室内の防犯カメラの映像は調べたわよ。エレベーターについている防犯カメラの映像もね。でも、何も見つけられなかった」

「故障してたの? 」

「ジュエル黒崎の室内にあった防犯カメラには、不審な人物は誰も映っていなかった。でも、エレベーターに設置された防犯カメラの映像には、しっかりとトム様の顔をした不審な人物が二人映っていたのよ」

「そっくりに出来てたでしょ? 」

「知らない。ボク見てないから。でも、エレベーターの防犯カメラには、何も映っていなかったことになっているわ」


 僕の頭の上に、?マークが浮かんだ。


「映像を確認した時、華菜さんも立ち会っていたからよ。あなた達二人が映っている映像の部分では、華菜さんが能力を使って、検証している警官たちに、何も映っていないと思わせていたから」


 僕の頭の上に、もう一つの?マークが浮かんだ。?・?が頭の上で3回転サルコーを決めた。


「つまりね。華菜さんが能力を使って、何も映っていない映像を警官たちの意識下に送って錯覚させたの」


 何となく理解できた。


「でも、僕たちはトム・クルーズのお面を被っていたから、そんなことしなくても正体はバレなかったんじゃない? 」

「顔はね。確かに分からなかったと思うわ。でもね、あなた達の服装が、と言うより防犯カメラに映っていたター君の服装が、問題だったわけよ。ター君、防犯カメラに記録されていたのと同じジーンズで、交番に行ってたでしょ。普通のジーンズなら大して問題なかったけど、あのター君のダメージジーンズ、いや表現が生ぬるい! あの痛すぎるジーンズは特徴がありすぎるもの」


 僕は、当時田畑君が着ていた服を思い出した。あの頃の田畑君はファッションセンスにうとくて(今はどうなんだろう? )、あの痛すぎるダメージだらけのジーンズ姿は、誰の記憶にも残っただろう。防犯カメラに映った人物と田畑君を結びつけるのは、誰でも簡単に出来ただろうと思う。


「話を元に戻すわね。とにかく、あの女の人が自分たちの組織を脅かす存在だと、組織の人間が思ってしまった。そして、あの女の人の後ろに黒幕がいるんじゃないかとも思った。だから、女の人の身辺を探り始めた。あの女の人、よっぽど勘のいい人みたいね。自分の周りに見え隠れする怪しい者たちに気がついた」


 確かに、あの美人のお姉さんは勘が働く人だ。だって、ゲリピー作戦をやったとき、即座に僕が漏れそうな方だと判断したのだから。


「だから、彼女は警察に保護を求めた。改正対ストーカー法が出来てから、警察は保護を求められたら即応しなければならなくなったから、彼女を保護した」

「あのお姉さんが保護を求めて保護されたというのは、真理さんの推理じゃなくて事実だよね。誰からの情報? 」

「華菜さんよ。ボクが、さっきメールしたのは華菜さん。そして、あの女の人の心の中を覗いて、彼女が怪しい人たちの影におびえている事を教えてくれたのも華菜さん」

「華菜さん、どうして僕たちに、いや真理さんに、そんなことを教えてくれたんだろう? 守秘義務があるよね? 」


 ?マークが、頭の上でトリプルトウループを決める体勢に入った。


「そんな疑問なら簡単に答えられるわよ。つまり、華菜さんは、ボクにこの事件を解決してほしいのよ。あ、ごめん。言い間違えた。この事件を、ボクとそのしもべたちが解決する事を期待しているのよ」


 ?マークは、ジャンプするタイミングを見失った。ジャンプしようとした途端、思いっきり滑って転けた。


 なんで、そうなるの? 


 真理さんが怖いので、口に出しては言わなかったが、やっかいなことに巻き込まれてしまうのではないかという不安感が、罰ゲームで使う風船のように膨らんでいった。


「ふーん。そげんことになったんだ」


 僕の話を聞いていた田畑君が、人ごとのように感想を言った。


「ねえ、田畑君、分かっているとは思うけど、真理さんの言う、しもべっていうのは僕たちのことなんだけど」

「あっ、そやった。と言うことは、わが輩たちが動かんといけんことになるのかいな? 」

「たぶん」


 僕は肯いた。


「カァー、真理っぺの言い出しそうなこつやなぁ。なあ、シュン君、わが輩たちはどうなるんやろ? 」

「それは、真理さん次第だと思うけど」

「また、指令とかミッションだとか言うて、命令するとかいな」

「たぶん」


 僕はまた肯いた。


「前の時は、以外とうまくいったけど、今度はそげんうまくいくとは限らん。何か急に食欲が無くなってもうた」


 田畑君は、そう言ったが、田畑君の食べていた豚カツ定食は、キャベツが一口分残っているだけだ。


「とにかく、明日詳しく話すって、真理さんが」


 僕は、僕にそう告げた時の真理さんの口角が少し上がっていたのを思い出した。


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