第38話:それぞれの思惑
事件発生から2日後。
薄暗く窓ひとつない広い会議室の様な部屋に、10人の妖精が集まっていた。
ここは妖精界の遥か天空に位置する"妖精議会所"。
集まる10人は現在の"妖精議員"。
"妖精議員"とは、妖精界に住む妖精"民精"から選ばれた10人のこと。
その10人全員が"RUNAR"で、若い者から年老いた者まで様々な者が選ばれている。
唯一の光である数本のろうそくがゆらゆらと部屋を微かに灯していた。
「報告を聞こう…」
部屋の奥の席に陣取る長老らしき人影が視線を向ける先には、サファイアが最初の事件で出会った妖精のカルメンがいた。
カルメンはナディーにやられた傷を引きずっているようで、全身包帯だらけだった。
「カルメン、なぜ貴様ほどの実力者が人間ごときに苦戦したのか?」
「は。一昨日、私はご命令を遂行すべく人間界へと降り、目標を定め捕獲を実行しようとしたところ、邪魔が入りまして…まだ15,6位の少女でしたがelfingに関しては腕のたつ者で…」
「ふんっ、どんな者であれ我々に敵う者はごくわずか。たかが少女に我らの本気をしのぐ力などありはしない」
長老らしき男の前に座る年若い男は、カルメンを嘲るように鼻で笑った。
「私もそう思い、邪魔者を排除していると更に邪魔が入りまして…。次に現れたのは10歳前後の少女で、先に現れた少女の仲間の様でした」
「何の問題もない。排除すればいいこと」と先程の若い男に寄り添う女が言う。
「いえ、問題なのはその直後です。少女の妖精がやってきて、私はその妖精と戦いになりました。
その妖精は少女に終始"ナディー"と呼ばれていましたが…その闘う姿はまるで閃光の"ナディリア"にしか見えませんでした」
その名前を出した途端、集まる10人の顔色が変わった。
「ナディリア…だと…」
長老らしき男も明らかに動揺していた。
「その妖精は本当にナディリアだったのだろうか?証拠は?」
一人の男が言った。
「武器が三叉錐で、来光がはしるエナジーボール。それに"RUNAR"としか思えない戦闘妖力…」
「たしかにそれはナディリア…」
「にわかには信じられない話だが…」
「…十年前に姿を消した彼女がなぜ人間界に!?」
様々な意見が飛び交う中、
「…な、なぜナディリアが…」
カルメンの側に座っていた女が一番驚いていた。
「その少女の妖精がナディリアであるというのが真実であれば、我々が探し求めていたモノに関係があるのでは?」
一人の女が言った。
「…ふむ。直ちにナディリアを探し出してここに連れて来るのだ!多少の手荒な手段は仕方あるまい。何が何でも連れてくるのだ!」
長老らしき男がカルメンに命じた。
「仰せのままに…」
カルメンは跪き、下がった。
その後、長老らしき男は先程カルメンの側に座っていた女を見た。
「そういえば、逃がした目標の捕獲はどうなっておる?」
「ええ…もう第2手を放っておりますわ」
そう答えた女の後すぐに男の妖精に寄り添っていた女が、
「しかし相手がナディリアとなれば、ただの兵士では相手にならぬだろうな」と笑いながら口を挟んだ。
「ではその時は、私が自ら迎えに行きますわ!ナディリアとは古い仲でもありますし。再会が楽しみで仕方ありませんわ!!」と強く出る女。
「うむ、その判断は任せよう。期待しておるぞ、レディー」
「ええ、お任せを」
レディーと呼ばれた女は余裕の笑みを、睨みつけている、口を挟んできた女に見せつけるように浮かべた。
・・・
話は変わって人間界、とあるアパート。
「ぅ…?」
サファイアが目を覚ました。
そこはサファイアの家の寝室だった。
「あれ…何でここに?」
サファイアは起き上がり、ナディーやアイビーがいるであろうリビングに向かおうとした。
「!」
急に立ち上がったので、一瞬目の前が暗くなった。
すぐに床に座り込み、視界が戻るのを待つことにした。
もともと貧血気味でよく立ち眩みを起こす体質だったのだが、今回は正常に戻るまで時間がかかった。
「ぅぅ〜…」
その上、頭痛や身体中の重いダルさに唸りを上げていると、
「大丈夫ですか!?」
突如ドアが開き、ナディーが駆け寄った。
「ぅ…大丈夫、立ち眩み」
しかしサファイアは立てそうになかった。
「…まだ寝ていてください」
ナディーはサファイアを抱き上げてベッドに寝かせた。
「…ナディー、あれからどうなったの?ナディーが助けてくれたの?」
サファイアはベッドからナディーを見上げて尋ねた。
「あ、ナディーは来てくれたね」
サファイアは思い出したように言い、安心しきった笑顔を向ける。
しかしナディーは複雑な表情を浮かべた。
「…サファイア、あの時の事をどのくらい覚えていますか?」
真剣に尋ねるナディー。
「えっと・・・。車が急停車して…運転手が妖精で、他にも妖精がいてて。
リクとソラさんが狙われてたから…私が守らなきゃって…それで。
それから………首を鷲掴みにされた時に、ナディーが来てくれて…」
サファイアはナディーを見た。
「助けてくれてありがとう。パトロールの時に怒鳴ったり命令したりしてごめんね」
「い、いえ…」
ナディーは眉をひそめた。
「…覚えてないのですか?」
「その後の事?覚えてないなぁ…。ナディーが来て、気絶しちゃったみたいなの」
サファイアは目を閉じてその時のことをもう1度考えたが、何も思い出せなかった。
「…本当に何も?」
「うん」
「青い光も…」
「青い光?」
サファイアは覚えていない様だった。
「…ナディー?」
黙り込むナディーを心配そうに見上げた。
「…大丈夫。何でもありません」
ナディーがそう答えると、サファイアは安心した様で微笑んだ。
「あ、リクとソラさんはどうなったの!?」
「無事に病院に届けました。今はもう退院しています。今朝電話があって、サファイアにありがとうと言っておりました」
「そう、よかった…」
サファイアはまた微笑んだ。
「…ではもう少し、お休みください。学園には欠席の連絡を入れてありますから…」
ナディーは掛け布団をかけた。
「うん、ありがとう。おやすみ」
「おやすみなさい、サファイア」
ナディーは優しく頭を撫でて、部屋を静かに出ていった。
(サファイアは何も覚えていない様でした。…でもその方が都合がいいかもしれない)
ナディーは思った。
(…この事は私とアイビーしか知らない。アイビーとも協力して黙っておこう。
その方がいい。その方が幸せに暮らせる。
サファイアにあの方の望んだ暮らしをさせてあげれる。サファイアには秘密にしなければ。絶対に!)
ナディーはそう固く決意をしたのだった。




