第37話:密会
これは事件が起きる少し前の時間。
学園でサファイアに「先に帰ってもいい」と言われ霊化して消えたナディーだったが、向かった先は家ではなかった。
疾風の如く通り抜ける森。
目の隅に時々映る眠る動物達。
高度な霊化に気付かない彼等は、ナディーが通っても安心して眠っている。
あぁ、あの方は好きなのだろうな…
ふと、懐かしい人物を思い出すナディー。
しかしすぐにサファイアの存在が脳裏を過ぎる。
「っ…!」
ナディーはそれを振り払うように首を横に振るった。
そして木々を抜けた先に見えてきたのは、王宮だった。
かなり距離は遠く山を3つも越えなくてはならないが、霊化さえすれば一瞬だ。
そこで霊化したまま王宮の中を巡っていると、マリアと出会った。
「これは珍しいお客だ。ナディー…」
マリアは霊化したナディーの気配に気付いて出向いてきたのだ。
「マリア、先日ぶりです」
ナディーは霊化を解いて、深々とお辞儀をした。
「…こんなに堂々と王宮に侵入するとは、いい度胸だな、ナディー?」
「堂々とではありませんよ?しっかりと気配は消しましたし、他の者には見つかってませんし…それを堂々とと表現するのは心外ですよ?」
「いや、それは不法侵入と同じだからな?」
「それでも、いくら私が上手く気配を消してもマリアは気付くでしょう?」
「当たり前だ。誰がお前を鍛えたと思っている?
そんな事より、彼女は?」
友好的な雰囲気から獲物を突き刺すような鋭さに変化したマリア。
「今車で…」
「目を光らせておけと言ったはずだが?」
少し怒った口調で続ける。
「ナディー、あなたは理解しているのだろう?彼女が何者なのか…」
マリアの問い掛けに頷くナディー。
「解っていますよ。でも考え方が…私たちともあの方とも全く異なっていて、どうすればいいのか・・・」
「…考え方が違うのは当たり前だ。私たちとは育った世界が違うのだから…それで、喧嘩でもしたのか?」
「はい。私が敵に留目をさそうとした時に止められたのでつい…」
「あのお方に似てお優しい子に育ったということではないのか?」
「…はい、ですが・・・」
「…ん、待て。敵?」
マリアはナディーの言葉を遮り、目付きが変わった。
「あぁ、あの妖精略奪事件の犯人と出会ってしまって…」
「事件はどうなった?」
「無事にパートナー共々妖精を保護しましたが、犯人は逃がしてしまいました…」
「それで、犯人は何者だったのだ?」
「妖精でした。おそらく妖精議会も関わっています」
「妖精議会が…一体何のために・・・」
マリアは考え込んだが、はっと顔を上げた。
「ナディー、マズイのではないか?
犯人に妖精議会が関わっているのなら、今彼女を一人にすべきでない!」
「?」
首を傾げるナディー。
「忘れたか?妖精議会と言えば、実力行使。手に入れると決めたものはどんな手を使ってでも手に入れにくる奴等だ!
彼らの目が彼女にとまれば…」
「!」
ナディーの目付きも変わる。
(ナディー、早く来て!)
丁度その時、サファイアから呼び出しがかかった。
「サファイア!」
ナディーはすぐに霊化してサファイアの元へ向かった。
「私も向かうべきか・・・」
マリアが迷っていると、そこへジョセフィリーがマルクとやって来た。
「あら、マリア。こんなところでどうしたのですか?」
「あ…いえ…」
「今からマルクちゃんとゲームをするのだけど、あなたもどう?」
するとマルクがマリアの手を取った。
「一緒に遊ぼう!」
「…ええ、いいですよ」
マリアは微笑み、ジョセフィリーとマルクについていった。
(まぁ、ナディーがいるから大丈夫だろうが…。
しっかりと彼女を守れ、それがあなたの役割だ。ナディリア!)
マリアは心の中にその言葉を仕舞い込んだ。




