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Elfing  作者: ドライマンゴ
第2章:覚醒
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第36話:襲撃

午後7:45


事件後、学園に戻ったサファイアたち。


サファイアは保健室にて、目を覚まさない男の子の妖精の看病をしていた。


と言っても怪我はとっくにアイビーによって治療され、後は意識が戻るのを待つだけ。今は使いきった妖力を回復するために眠っているのだ。


男の子も妖精の隣で疲れて眠ってしまっている。


可愛い寝顔を眺めて心がほっこりするサファイアとアイビーだったが、保健室は凍てついたように冷たい空気に包まれていた。


保健室の扉から1ミリも動かないナディー。


両手を組んで目を閉じ、無音で壁に寄り掛かっている。


誰も寄せ付けない空気を醸し出し、誰とも目を合わせない。サファイアでなくとも機嫌が悪いのが読み取れるくらいだ。


そこへ、この険悪なムードを破るかのように、


「サファイア、あなたからも事件の経緯を聞きたいそうよ。ナディーも一緒に会議室に来て欲しいって…」


生徒会に報告を終えたルキアが2人を呼びに保健室に戻って来た。


「はい。わかりました」


サファイアは微動だにしないナディーに視線を移す。


「…」


「ナディー、行こう?」


「…私は行きません」


「ナディー…」


「どうしても行かせたいのなら、また命令してはどうですか?私たち妖精はパートナーの命令は絶対で、拒否することはできませんよ」と冷たい目で笑うナディー。


「…命令なんて、しないよ」


視線を下げ、ナディーに背を向けるサファイア。そして男の子の眠るベッドの上にそっとアイビーを下ろした。


「アイビー、この男の子と妖精を看ててくれる?」


「ビー!」

(任せて!)


「お願いね」とアイビーの頭を撫でると、ナディーの横を通り過ぎて、ルキアと共に会議室に向かった。


保健室を出てしばらくして立ち止まってみたが、ナディーのついてくる気配は無い。


「はぁ…」


サファイアは大きく息を吐き出すと、先を行くルキアの元へと駆けていった。



「失礼します」


ドアを開けたサファイア。


「あら、1人?」


会議室に入ると他の生徒会メンバーも席に着いていた。その中でも長テーブルのセンターに着くサラとは真っ先に目が合った。


ナディーと一緒に来ることを期待していたのだろう。

サラの熱視線がサファイアに向けられていた。


「…まぁいいわ。疲れているところ悪いのだけれど、今回の件で話を聞かせてほしいの」


「はい」


サファイアはサラの正面に用意されたイスに座り、ルキアは空席だった紲の隣に腰を下ろした。


「それじゃあ…」


それから幾つか質問をされ、サファイアは知る限りの事を丁寧に答えていった。


・・・


「最後に、主精のことだけど…ナディーがLUNARって本当なの?」


サラを含む全員が息を呑んでサファイアを見る。"期待"を込めて。


しかしサファイアはひとり眉を下げて首を横に振る。


「…すいません。私、それについてはわからないです。何も知らないの…」


「…ナディーは今どこ?」


「たぶん保健室に」


「ここに呼べないかしら?」


サラはナディーに直接真偽を確かめる事を望むが、今はナディーと向き合いたくないサファイア。


「今はちょっと…呼びたくない…です」


率直に述べる。


「…そう。なら、落ち着いたら教えてもらえるかしら?

今はここに呼ぶことよりも先に、当人同士で話し合った方が良さそうだもの。ね、皆もそう思わない?」


「…そうですね。急ぎの情報でも無いですし」


残念がるサラだったがそれ以上無理に聞き出そうとはせず、周りにも納得させた。そしてそれをアシストする月臣。


それから時計を確認すると、


「では、時間も遅くなってしまって皆も疲れているでしょうし、今日は解散しましょう…」と立ち上がった。


全員が時計を確認する。


PM8:09


「…そうですね。会長、あの男の子はどうしますか?ずっと保健室に?」と尋ねるレン。


「私が看ます!」


すかさずサファイアは手を上げた。


「え…?でも、疲れているでしょう?今日はもう帰っていいのよ?あの男の子と彼の妖精は学園に頼んで病院に連れていってもらうから」


「あの男の子の家族の方は?」


今度は紲が尋ねた。


「彼のご両親は共働きで、2人とも遠い街に単身赴任中だそうよ」と答えるサラ。


(おうちに帰っても1人なんだ…)


サファイアは男の子と自分を重ねる。尚更放ってはおけなかった。


「…私、病院まででも付き添います!」


一方のサラも、サファイアの身の上を知っている者として、サファイアの強い思いを無視することはできず、


「…そう。それなら、任せたわよ」


「はい!」


任せるしかなかった。




保健室に行くと、やはりナディーはいた。


しかし、ナディーには目もくれずに男の子の元へ近寄るサファイア。


男の子は目を覚ましていて、アイビーと遊んでいた。


「…ぼく名前は?」


「リクだよ。こっちはソラ」


横で眠る妖精を見た。


「そう。リクくんとソラさんね。…これからソラさんは病院に行くんだけど、リクくんも私と行きましょ?」


サファイアは手を差し出した。


「…お姉ちゃんは誰?」


「私はサファイアよ。それからアイビー」


サファイアはリクの膝の上のアイビーを撫でた。


「…病院怖くない?もう悪いやつ来ない?」


怯えきった表情でサファイアを見上げる。


「大丈夫よ。お姉ちゃんと一緒だもん」


微笑むサファイア。


「一緒に病院に行こう?」


「…うん」


男の子は頷いた。


そこへサラが手配した学園の人が来て、ソラを運び出し、サファイアも一緒に車に乗り込んだ。


車内から終始見届けていたナディーを見る。


「先に帰ってもいいよ」


「…では、そういたします」


いつものナディーならば、どこまでも付いてくるというのに、今回はあっさりお辞儀をして霊化して消えてしまった。


「…」


消えた後を見つめるサファイア。


「頼みましたよ、サファイア。」


「はい!」


それから積込みが完了すると、サラに見送られ、一行は病院に向かって出発した。


しばらくすると車は高速に入った。順調に目的地に進む一方でサファイアの表情は険しくなってきていた。


「お姉ちゃん、どうしたの?」


「ビー?」

(何かあったの?)


「…ちょっと気持ち悪くて」


リクとアイビーにそう答えた。


「車酔い?」


心配そうに尋ねるリク。


「…うん、酔っちゃったみたい。しばらく外見てるね」


そう言って窓の外に視線を移すサファイア。


リクはまたアイビーと遊び始めた。


(アイビー、悪い予感がする…)


リクに気付かれないように心で話しかけるサファイア。


(悪い予感って?車酔いじゃないの?)


アイビーもリクと遊びながら応える。


(酔ってないよ。けど気持ち悪い。胸がムカムカ?するの。前にもこうゆうのあった。4丁目を通った時)


(ここは4丁目じゃないよ)


アイビーは一瞬窓の外を見た。


(うん…だから悪い予感)


(気にしすぎだよ!)


(…そうかも)


サファイアは微笑んで、胸を押さえた。


(このまま何も起こらなければいい…)


サファイアは願った。


その時だった。


「「「!?」」」


車が突然急ブレーキをかけた。


「キャーーーーー!」


車は左右に激しく揺れながら進み、しばらくして止まった。


「…な、何!?」


すると運転手のおじさんが、振り返った。


「わりぃ、でぇじょうぶか?急に人さ飛び出して来て…」


「人?」


サファイアは窓から外を見た。


確かにそこには誰かが立っている。


「人なの?…何か…」


少し違和感を覚えたサファイア。


その人影からは禍々しい気配が溢れ出ていたのだ。


「あ、違っ…アイビー、悪い予感が当たったわ。あれは人じゃない…妖精だよ!」


「えぇ!?」


襲われた恐怖が蘇り、怯えるリク。


サファイアはすぐにリクを抱きしめた。


「おじさん、車…早く出して!」


サファイアの脳裏には逃げる選択肢しかなかった。


「それはできねぇべ…」


シートベルトを外すおじさん。


「何で!?」


サファイアが尋ねると、おじさんは振り向いて背に羽を出して答えた。


「忘れモンを回収に来たんだべさ!」


「!?」


サファイアは目を見開いた。


「カッカッカ…驚いたべか?いや、驚いたか?」


おじさんは訛りを言い直した。全て演技だった。


「…っアイビー!」


サファイアは叫び、リクを連れて車から出た。


「あ、ソラが!」


「大丈夫よ!」


サファイアが出た後、人型になったアイビーがドアを蹴破ってソラを抱えて出てきた。


「ソラ!良かった…」


リクはソラに駆け寄る。


「…ごめん、あの運転手が妖精って気付けなかった」


「サファイアは悪くないよ。それよりナディーを呼んだ方がいいよ!」


「僕だけじゃ厳しい」と額から汗が流れるアイビーが付け足す。


「そうだね!」


サファイアの意識がナディーへと向けられた時、


「ナディリアは呼ばせませんよ!」


さっきの運転手が飛び蹴りをしてきた。


「邪魔はさせないよ!」


アイビーは咄嗟に運転手に飛び込んだ。


2人は空中で接触し、地面に打ち付けられ転がった。


(ナディー、早く来て!)


サファイアはアイビーを見ながら必死でナディーを呼ぶ。


「こいつはもらった…」


その時もう1人の妖精がソラに手を伸ばした。


側にいたリクは怯えて声もでない。


「させない!」


それに気付いたサファイアが、背負っていたリュックを妖精に投げつけた。


「っ小癪な!」


妖精はサファイアを睨んだ。


「私が…相手よ!」


サファイアの足は鋤くんでいたが、諦めなかった。


「人間に何ができると言うのだ!」


妖精がサファイアに向かう。


「っ!」


サファイアは避け、少しの距離を退いた。


「逃げても無駄だ!」


更にサファイアに手を伸ばす妖精。


「…!」


サファイアは閉じた目を見開くと、散らばった車の部品が空中に浮き上がった。


「そんな物で!」


妖精は動じずに手を伸ばしてきた。


「!」


サファイアは浮かせた部品を目の前に集結させて、盾を作り出した。でもそれが限界で、今のサファイアには宮警備隊のサリーの様な投げ技は繰り出せなかった。


そんな壁はいとも簡単に突破され、


「キャア!」


サファイアは首を掴まれた。


妖精はサファイアを持ち上げた。


「くっ…あぁぁ!」


サファイアは足をばたつかせたり爪を立てて妖精の手を掴んだりと抵抗したが、まったく効かない。


「サファイア!」


アイビーは運転手を蹴飛ばすと、サファイアを掴む妖精に向かった。


が、


「ダークボール!」


運転手が黒いエネルギーの様なモノを放った。


サファイアしか視界に入っていないアイビーは背後から迫る攻撃に対応できず、


「うわっ!」


直撃し、空中に投げ出された。


Bom!


アイビーの変化が解けた。


サファイアからの妖力供給が途絶えたのだ。


もうアイビーに抵抗する力は残ってはいない。


運転手は留目をさそうとしていた。


「ダーク…」


サファイアは擦れゆく司会の隅にそれを見た。


「あっ…」


ドクン ドクン ドクン…と心臓が高鳴った。


(ア…イビ…だめ…やめて…)


呼吸もままならない中、サファイアは自分の事よりもアイビーの危機に思考は集中していた。


そして妖精が攻撃を放った時、


「や…止めてーーー!!!」


サファイアが叫ぶと、青白い光が体中から放たれた。


「何!?…うわぁっ!」


青白い光を纏ったサファイアの首を掴む手は溶け出した。


妖精は慌ててサファイアから手を離し、溶けかけた手を抑えた。


「小娘…ただの人間ではないな!」


妖精は睨み付けた。


サファイアはゆっくり地面に着地し、アイビーを見た。


先ほどの攻撃はサファイアによって相殺されていた。


「バリアー!」


サファイアがそう言うと、アイビーの回りに青く透明なバリアーが張られた。


「ダークボール!」


アイビーへの2撃目の攻撃を弾いた。


そこでやっと自分の体へのダメージに気付いたサファイア。


「っ…ゲホッゲホッゲホッ!」


地面に膝をつき、噎せかえった。


「小娘…いったい何者なのだ?」


妖精は驚いた様子でサファイアに恐る恐る近付いてきた。


「サファイアに…近づくな!」


そこへ凄いスピードで三叉錐を突き出しながらナディーが、サファイアに近づいた妖精に突っ込んだ。


グサッと矛先が迷いなく妖精の心臓部に刺さる。


「ナ、ナディリア…よく…も!」


妖精は手を伸ばしたが、躰は灰になって消えた。


「大丈夫ですか、サファイア!?」


ナディーはさっきまでの学園での態度とは打って変わって、別人の様だった。いつものナディーで、心配そうにサファイアを見る優しい眼差し。


「サ、サファイア…?」


しかし、サファイアを見て驚くナディー。


サファイアから青白い光が出ているのだ。


「私は…大丈夫。それよりアイビーを!」


サファイアはアイビーを見た。


運転手の連続攻撃で、バリアーはもう持ちそうになかった。


「!」


ナディーはすぐに運転手に向かった。


「覚悟!」


ナディーは躊躇なく運転手に三叉錐を突き刺した。


突然の介入に対処する暇もなく、三叉錐は運転手の心臓を貫いた。


「ぐあぁぁぁぁ!」


運転手は灰に変わった。


「…アイビー!」


バリアーが解けると、ぐったりと倒れ込んだアイビーをナディーは抱き上げた。


そしてサファイアの元に戻った。


「ナディー、急にごめんね。まだ疲れてるかもしれないけど、ソラさんとリクを病院まで運んで…怖い思いをさせてしまった…」


サファイアは側で気絶していたリクを抱きしめた。


「サファイアも一緒に…」


「うん、そうだね…」


サファイアがそう応えて立ち上がると、フワリと風に飛ばされたように青白い光は消えた。


「っ…」


それと同時にサファイアは目の前が真っ暗になり、倒れた。


「サファイア!」


ナディーが叫ぶ声が聞こえたが、サファイアは意識を手放した。



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