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演じていたヒーローが本物になったので、異世界の女勇者を支えることにした~時空騎行グランゼイト異世界英雄譚~  作者: 水辺野かわせみ
第一章

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【第2話】ヒーローは異世界へ

 虹色の光が消えて、徐々に周りの景色が見えてくる。


 漣の降り立った地は、木々が生い茂り穏やかな風に木漏れ日が揺れる、至って平和な森の中だった。


 仰向けに寝転がったまま、息を吸い込む。


 樹の匂い、草の匂い、土の匂い。


「なんか、田舎を思い出すなぁ」


 どこか懐かしい風。


 最後に実家に帰ってから、もう3年近くになるだろうか。


 親や兄妹なんていつでも会える。


 そう思っていた。


 それなのに――。


「……帰れないんだよな……」


 家にも、元の生活にも。


 まさかこんなに突然、人生が終わるとは思ってもみなかった。


「ああ、やめやめっ」


 やるせない喪失感が込み上げきて思わず泣きそうになり、漣はそれ以上考えるのを止めた。


 こうなった以上、もう受け入れるほかない。


 身体を起こそうとして――。


「……ん?」


 思わず、声が漏れた。


 軽い。


 信じられないほど、身体が軽い。


 寝起きの重さも、刺されたはずの腹の痛みもない。


 反射的に腹へ手を当てる。


「傷が……ない?」


 服をめくっても、傷跡どころか血の跡すらない。


「あれ、服が……?」


 変わっていた。


 赤いジャケットに黒のカーゴパンツ。


 足元は編み上げのコンバットブーツ。


 更に。


 手の甲から手首にかけて刻まれた、白い紋章(エンブレム)。


「……これ」


 少年の言葉が蘇る。


 ――君、もう〝人間〟じゃないからね――


「冗談だろ……」


 乾いた笑いが漏れる。


 だが。

 

 その笑いも、目の前の現実に消えていく。


 呼吸の感覚が違う。


 鼓動が異様に落ち着いている。


 身体の内側に、何かが流れている感覚。


 熱でも冷たさでもない。


 力そのものが、血管を巡っているような感覚。


「まさか、本当に……?」


 思わず立ち上がった瞬間。


 足元の土が、弾けた。


「!?」


 一歩踏み出しただけで、数メートル先まで身体が飛ぶ。


 自分でも止められず、木にぶつかりそうになって慌てて身体を捻る。


 軽やかに着地した。


「何だ、今の動き……」


 絶対に、普通ではない。


 明らかに、身体能力が人のそれとは大きく違う。


「……グランゼイトの、力……」


 そう口にして、妙に納得してしまう。


 あの少年は、本当に力を与えたのだ。


 役ではない。


 着ぐるみでもない。


 ――本物のヒーローの力を。


「……マジか」


 思わず空を見上げた。


 現実感がないのに、風の感触はあまりにも生々しい。


 ――ふと、腰に手を当てる。


「……これ」


 右手が自然とグリップを握り、引き抜く。


「バスターガン……」


 思わず口に出る。


 見間違えるはずがない。


 何度も見た。


 何度も動きを真似た。


『時空騎行グランゼイト』で、主役が使っていた武器。


「いや、ホントに?」


 現実には存在しないはずなのに、手に馴染む。


 構えれば分かる。


 撃てる、と。


 ゆっくりと銃を戻し、今度は反対側へ手を伸ばす。


 そこには、黒いレッグバッグ。


「これも……」


 主人公の装備一式が納められた、亜空間収納バッグ。


 そして、もう一つ。


 指先に触れる、硬い感触。


「……イルミナルソード」


 それも知っている名前だった。


 引き抜く。


 刀身のない、柄だけの剣。


「さすがに、再現できるわけ――」


 試しに軽く振る。


 その瞬間。


 ――フィィン。


 澄んだ音とともに、光が走った。


「っ!?」


 空中に光の線が描かれ、淡く輝く、細身の刃が形成される。


「……そうか」


 本当に、与えられているのだ。


 力だけではなく、戦うための全てが。


 そう考えていた時――。


 ドオォォォォン!!


 森を揺らす轟音が響いた。


 雷……ではない。


 樹々の隙間からは青空が覗いている。


 続けて、短い破裂音の連続。


 漣は音の聞こえた方に目を向ける。


 すると。



【ENEMY(エネミー)!】



 視界の隅に、敵対者を示す赤い文字が浮かんだ。


「うぉ!?」


 思わず声が漏れる。


 これはグランゼイトの基本的な能力の一つで、敵対者の存在を網膜に直接表示させるものだ。


「……マジだったのか、やっぱり」


 考えるよりも先に、漣は動いた。


 樹々の間を駆け抜け、枝を払い、斜面を飛び越える。


 身体が重力を感じないほどに軽い。


 常人ではあり得ないスピード。


 明らかに、今までの自分ではない。


「……本物の、ヒーロー」


 樹々を抜ける。


 やがて視界が開けた、その先。


 そこに見えたのは、異形の怪物と戦う一人の少女。


 白銀の鎧に身を包み、輝くブルーシルバーの髪をなびかせ、舞のように優雅に、神楽のように力強く剣を振るう。


 少女が踏み込む。


 雷光が弾け、一瞬のうちに怪物二体を斬り伏せる。


 人の姿に近いが、顔は猪のような怪物が七体。


 体格は2m以上あり、長剣を持っている。


 狼顔で猪顔よりも一回り大きなヤツが五体。こっちは、棘の付いた戦棍。


 更に、金属製の鎧に巨大な戦斧を振り回す、3m近い巨体の鬼顔が二体。


 その後ろに、青白いが美しい顔で耳の長い男女が二人。


 十六対一。


 圧倒的に不利な状況。


 それでも、少女は怯まない。


 続く斬撃で、一体の猪顔を倒す。


 速い。


 狼顔の戦棍を躱し、瞬きの間に、二体を。


 鬼顔の斧を避け、更にもう一体。


 あっという間に十二対一だ。


「強い……」


 数の不利をものともしない戦いぶり。


 介入の余地がない。


 だが、状況は一瞬で反転する。


 空から、無数の黒い礫が少女を襲う。


「くっ……!」


 少女は間一髪、バックステップで躱す。


 黒い礫は空中の四方から次々と飛んでくる。


 空に目を向ける。


 大きな鳥の怪物が四体。


 翼を羽ばたかせ、羽を手裏剣のように撃ち出す。


 地上と空中の、同時攻撃。


 手裏剣を躱した先に、狼顔の振り下ろす戦棍が。


 剣で逸らし、踏み込む。


 そこに、もう一体が割り込み、飛び下がった先に鬼顔が待ち構え、戦斧を振るう。


 ギリギリで身体を逸らし、躱す。


 更に、羽手裏剣。


 剣で落とす。


 息つく暇もなく、狼顔が取り囲む。


 戦棍を潜り、走る。


 羽根手裏剣が追う。


 戦斧が迫る。


 さっきまでは優勢に戦っていた少女が、防戦一方になる。


 息が上がり、動きが鈍る。


「こんなモンで限界か?」


「その程度で〝勇者〟? ちょっと恥ずかしくない?」


 青白い顔の男女が笑う。


 笑いながら、少女が疲弊していくのを楽しんでいる。


「ほらほら、もっと踊りな!」


 男の掌から、赤い光弾が飛んだ。


 それを躱そうとして、少女が一瞬、体勢を崩した。


 敵はその隙を逃さない。


 少女を追い詰めた鬼顔が、戦斧を振り上げる。


 躱せない。受けきれない。


 少女はせめて、顔を背けた。


〝間に合わない〟


 冷静に考えれば、そうだ。


 だが。


 身体は、もう動いていた。


「グランゼイトなら!」


 子供を庇った、あのときと同じだ。


 ――守る。


 ただそれだけ。


 地面を蹴り、視界が流れ、風が弾ける。


「――っ!」


 全力で、踏み込む。


 そして――。


 ガキィィィン!


 激しい金属音が響いた。


「……え?」


 少女は顔を上げる。


 そこに。


 光る剣で戦斧を受け止める、赤い服の男。


「着ぐるみ……じゃ、ないよな。こいつ」


 軽い呟き。


「……貴方は、誰?」


 少女が尋ねる。


「誰でもない(ノーバディ)……」


 背中を向けたまま男が答えた。


「何処にでもいる、ヒーローさ」


 その言葉と同時に、戦場の空気が変わった。


 ――ここから、ヒーローの戦いが始まる。


 

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― 新着の感想 ―
懐かしい作品のリメイク・・・またイヴちゃんに会えるんですか?
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