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演じていたヒーローが本物になったので、異世界の女勇者を支えることにした~時空騎行グランゼイト異世界英雄譚~  作者: 水辺野かわせみ
第一章

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【第1話】ヒーローの最期

――俺はヒーローじゃない。


それなのに、気付けば刺されて死んでいた―。




 翌朝の新聞にはきっと、こんな見出しが載るのだろう。



『正義の変身ヒーロー、子どもを庇い暴漢に刺されて死亡』



 三面記事の片隅にひっそりと。


 もちろん、現実にそんな正義の変身ヒーローなど存在しない。


 雨宮漣は、いわゆる【中の人】だ。


 テレビでも映画でもない。


 イベントで子供たちの前に立つ、着ぐるみのヒーロー。


 二十五歳。売れない役者。


「せめて台詞のある役、欲しいよなぁ……」


 漣の呟きは、もう口癖のようなもの。


 当然、この役にも台詞はない。


 録音された音声に合わせて動くだけ。


 それでも、舞台に立つときだけは本気だった。


 スーツを着れば、漣は『時空騎行グランゼイト』になる。


 子どもたちにとっては、本物のヒーローだ。


 ――だから。


 ナイフを持った男が乱入したとき。


 考えるより先に、身体が動いた。


 子どもを庇って前に出る。


 気づいたときには、腹にナイフが突き刺さっていた。


 男の鼻を思いっきり殴ってやったのは、せめてもの意地。


 警備員に取り押さえられ鼻血を流している男を見ながら、


「ざまあみろ」


 マスクの奥で、笑った。


 自分は、腹から血が溢れているのに。


 やがて、全身の力が抜ける。


 膝が崩れ、地面に倒れ込む。


 不思議と、痛みは感じない。



(……ヤバい、意識が朦朧としてきた。これ、マジで死ぬのか……)



 視界の端で、誰かが叫んでいる。


 司会の奈々さんか。


 でも、もう声が聞こえない。


 暗い。


 何にも見えない。


 せめて……主役、やりたかったな。


 映画とか。


 主演男優賞とか。


 ハリウッドとか……。


 ……。


 ……いや、それはさすがに夢見すぎか。


 意識が途切れる直前。


「いや、とんでもなく壮大な夢だよね、それ」


 声が聞こえて、目を開ける。


 そこは、どこまでも白い世界だった。


 上も下も、右も左も無限に広がる白。


「……は?」


 状況が理解できない。


「何ここ……死後の世界とか?」


「違うよ」


 振り向くと、白いフードを被った少年が立っていた。


「でもまあ、死んだのは確かだけどね」


 少年は、あっさりとそう言って、指を向ける。


「ちょっと君の記憶を見させてもらうよ」


「は?」


 きんっ、と甲高い音が聞こえて、少年の指先が光った。


「そうか、子どもを庇って刺されたんだね」


「……まあ、そうだけど」


「不思議だね。君、そこまで正義感強くないし、自己犠牲の精神もないでしょ」


「うるさいな」


 否定はできない。


「なのに、どうして命懸けで助けたの?」


 改めて聞かれても、そこは漣にもよく分からなかった。


 咄嗟に身体が動いただけで、何かを意識していたわけでもない。


 ――でも。


(……ああ、そうか)


「俺は……役者なんだよ」


「ほう?」


「子どもたちはさ、俺を本当の『時空騎行グランゼイト』だと思ってるんだ。だから俺は、その役を演じきった、ってトコかな」


 キラキラと眼を輝かせて、スーツを着た漣に握手をねだる子どもたち。


 子どもの傍らで、それを微笑ましく見つめる親たち。


 あの時、漣は確かにグランゼイトを演じていた。


「そのために、命を落としてもかい?」


「いや、まあ、それは正直考えてなかった」


 空手をやっていたから、なんとかなるかと思った。だが、マスクを被ると視界が悪くて、実際何もできなかった。


「いやホント、まずったな。ガラにもないことをやるもんじゃないわ。まさかこんなことで死ぬなんてさ」


 でもまあ……いいか。


 ふと、漣は思った。


 人に夢を届けるのが役者。


 子どもの夢くらいは守れたんじゃないかな。


 守れていれば、いいな……。


 と。


「なかなか興味深いね、君」


「そう思うなら、主役の仕事くれない?」


「残念だけど、君を元の世界に生き返らせることはできないんだ。だけどまあ、ちょっと面白いから……」


 少年がふっと笑う。


「別の世界に送ってあげるよ」


「え?」


 理解が追い付かない。


 それでも、少年はお構いなしに続ける。


「君には、その『時空騎行グランゼイト』と同じ力をあげよう。なりたかったんでしょ? ヒーロー」


「いや違うから。俺は役者になりたいんであって……」


 言い終わる前に、少年が一歩近づいた。


「何をやるか、誰になるのかは君の自由。主役になれるか脇役で終わるか、それも君の選択次第だ」


 この少年、全然人の話聞かないタイプらしい。


 きぃぃぃん。


 少年の指先から溢れた光が、漣を包む。


「当面の生活には困らないように、幾らかその世界のお金と時計を進呈するよ」


 ああ、それはありがたいかも。


「それから、いろいろと馴染めない文化もあるだろうから、僕からの特典も付けておくよ」


「特典? 文化? え?」


「じゃあ行っておいで。きっと退屈はしないと思うよ」


「いや、そうじゃなくて……」


 白い世界が虹色に弾けた。


「や、マジでっ。詳しい話っ!?」


「あ、そうそう、僕はメビウス。世界の管理者だよ」


 どうでもいいタイミングで名乗られた。


 視界が虹色に歪む。


 身体が引き裂かれるような感覚。


 意識が、持っていかれる。


「そうだ、もう一つ……」


 少年の声が、軽く響いた。


「君、もう〝人間〟じゃないからね」


「……は?」


 一瞬、思考が止まる。


 その意味を理解する前に――。


 すべてが、途切れた。


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