EP19.再会
EP19.再会
「楽にせよ」
ハロルド国王の声に合わせ一斉に立ち上がる。
「皆の尽力により、このように戻る事ができた。今しばらく、役目を果たさせてもらう」
「……ははっ」
なんだ? ワイルズ貴族達に一瞬の戸惑いがあったような。それにハロルド国王の言葉……今しばらく、か。
「シビルズ国王名代ルイス・フェアバンクス殿」
「はっ」
「貴殿の協力無しには成し得なかった。礼を言おう」
「ありがたき幸せ」
「オーブリー国王陛下にもよろしく頼む」
「必ずや」
ハロルド国王は頷くと、視線を外し口を開く。
「ギデオン・バーグマン並び近臣を捕らえよ」
即座に応じたのはノックス侯。すくりと立ち上がり、兵士達に指示を出している。ギデオンに与した貴族達が次々と捕らえられていく。
だがその兵士達は、先ほどまでギデオンの命に従っていた者達だ。淡々とした動きに、王命の重さというものを改めて実感する。
「……処罰は追って沙汰する」
ハロルド王の声は、どこか憂いを帯びているようだ。
「連れて行け」
ギデオンらは抵抗する事なく、そのまま連行されていった。
ずしりと大扉が閉まり、振動が空気を伝う。
「城内の事は頼んだぞ、バーナード」
「はっ」
頷くハロルド王に、ノックスが言葉を続ける。
「畏れながら国王陛下、一つお伝えしたい儀がございます」
「ふむ、申してみよ」
「第二王子殿下の事でございます」
ぴくりとハロルド国王の表情が揺れる。
「ただいまその身は私室に限られております」
「なんだと?」
「加えて、シビルズ国のフローラ嬢も同様にあります」
ハロルド王は深く溜め息をつくと、口を開いた。
「……お前に一任しよう」
「はっ、それではルイス殿下と共に参ります」
「そうだったな」
こちらを向くハロルド国王。
「ルイス・フェアバンクス殿。手間をかける」
「いえ、お心遣いありがたく存じます」
じっと見つめる眼には、どこか疲れが見えるようだった。
✽ ✽
がつがつと、いくつもの早足が王城の階段を駆け上がる。ノックス侯と並び歩き、向かう先はワイルズ国第二王子殿下とフローラの軟禁場所。だが二人は別々の場所に囚われている。
「一箇所ずつ周るのか?」
「城内兵士は、未だギデオン殿下指揮の認識でしょう。時を要すれば……」
「混乱が波及するか」
「仰る通りでございます――ルイス殿下、フローラ嬢はお任せしても?」
「ああ、問題ない」
ノックス侯は頷くとクレイグ辺境伯らを連れ、第二王子の下へ。こちらはナイト辺境伯とオースティン伯らを連れ、フローラの下へと向かう。
「ご武運を」
「貴殿らも」
階段を上りきった先で進み始めると、後方から並ぶオースティン伯。
「では、“姫殿下”をお救いに参りましょうか、ルイス殿下!」
「え? あ、それは違、わないが、いや……」
顔が火照る。口が回らない。
ニヤついた顔が、いくつもこちらを向いている。遅れて並んだナイト辺境伯だけは、なんとも言えない顔をしていた。……まったく、余計な事を。
通路をしばらく歩くと、見えてくる扉と守兵達。“ここは私に”と前に出るオースティン伯に任せる。
「ハロルド国王は戻られた」
「何?!」
「よって、ギデオン殿下の命令は既に下ろされた――さあ、そこをどけ」
「一体どういう事ですか?!」
「ギデオン殿下は?!」
「それにシビルズ兵までいるぞ?!」
明らかに動揺している守兵達。まあ、当然の反応だ。オースティン伯の対応もやや乱暴ではあるが、丁寧にやった所でそう変わりはないだろう。
「よおし、ハロルド国王の命令違反者達だ。取り押さえろ」
「応っ」
我が意を得たりと言わんばかりのオースティン伯。守兵士達も抵抗するが多勢に無勢。オースティン伯の配下によって次々と取り押さえられていく。
やり方はともかく、これで部屋には入れそうだが……守兵の一人の動きが気になる。
他の守兵達は、正面向いて抵抗しているが、一人だけ腰が引けている。それに、徐々に扉の方、フローラが囚われている部屋へと向かっている?
「あっ!」
次の瞬間、“ばんっ”と勢いよく扉が開かれ、腰引けの兵士が入って行った。
「一人部屋に入ったぞ!」
どよめく声に胸がざわめく。あの部屋にはフローラが……それはまずい!
「で、殿下?!」
野太い声を背中で聞きつつ、ひしめく兵士達を押しのけ、部屋に飛び込む。
顔を上げ、ぐるりと見やった部屋の角には、フローラと侍女の姿。
「ルイス殿下!?」
部屋に響く驚きの声。間違いない、彼女だ。
ほっとした瞬間、彼女達に駆け寄り迫る守兵の姿。
「や、やめろ!!」
制止に構わず守兵は、彼女達を捕らえようと腕を伸ばした。
瞬間、フローラの姿を見失う――いや、守兵の側面に周ったのか?
途端、守兵の体がぐるんと宙を舞い、がしゃりと金属音が響く。
「がはっ?!」
守兵はいつの間にか床に叩きつけられ、腕はフローラによって極められていた。
「……“やめた方が良い”と、言うべきだったな」
そうフローラは、私より強い。
「何かおっしゃいましたか、ルイス殿下」
「っ! い、いえ、何も」
誤魔化すように後ろを見ると、オースティン伯達があっけに取られている。そんな中、ナイト辺境伯だけ頭を抱え首を振っていた。
「オースティン伯、彼を頼めるか?」
「は?……ああ、そうでしたな」
すっかり伸びていた兵士はオースティン伯らに捕らえられ、部屋から下がって行った。
視線だけで見送り正面に向き直すと、侍女がフローラのドレスを直していた。
「すまない、遅くなった」
口を閉じたままこくりと頷くフローラ。先ほどとは打って変わった態度に、思わず頬が緩む。
「楽しそうですね、殿下」
心内を読んだのか、むっとした表情のフローラ。気丈に、何事もなかったかのように振る舞っているが……
自然と片膝を折り、そっと手を取る。
見上げると青い瞳がきらりと光る。
色づいた頬が染まり、浮かぶ笑み。
ゆっくりと手を寄せ、手の甲に口づけを。
“ごほん”と咳払いするナイト辺境伯。
「ルイス殿下……まだここはワイルズ国ですよ」
“ふふっ”と笑うフローラ。いたずらっ子のような表情で、そっと耳打ちされる。
二人でナイト辺境伯の方を向き、声を揃えた。
「そうでしたね、父上」
「そうだったな、義父上」




