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EP20.あの日の庭園で


ワイルズ国から帰還してしばらく、月日はあっという間に過ぎ、シビルズ国はすっかり暑さが増している。

そんな中、本日は午後から父上――いや、シビルズ国王陛下に呼び出されていた。ただいつぞやの会議とは違い、呼ばれているのはフレデリック兄上だけではない。王妃である母上と、王弟のジャレッド叔父上。そして、先王の祖父上までも出席されている。

余程の事があったと思うが……


「本日集まってもらったのは他でもない。ワイルズ国からの報告書が届いた」

父上による始まりの言葉に、一瞬にして緊張が走る。

ワイルズ国から端を発したあの事件は、まだ記憶に新しい。


「まずはルイス。改めて感謝の言葉が綴られている」

「あ、ありがとうございます」

優しげな表情で頷く父上。


「よく頑張りましたね、ルイス」

「ああ、よくやった」

笑みを浮かべる母上と、満足そうな表情の叔父上。


「ありがとうございます。母上、叔父上」

無事やり遂げたんだという実感が改めて湧いてくる。ただこれだけ褒められると、照れくさい気もする。


「もう少し恩着せがましくしても良かったんじゃないか? そうすれば今後の交易もシビルズ国が優位になれるだろうに」

「あ、兄上……」

眉間にシワを寄せ、不服そうな表情。確かに兄上の言う通りだが、そうなると、かの国とぎくしゃくしないだろうか?


ふと兄上の表情が和らぎ、茶目っ気のある笑みを浮かべる。

「冗談だよ。友好関係を継続するのであれば、ルイスの判断は正しかったと思うよ」

「ありがとうございます。兄上」

まったくこの人は……



一通り落ち着いた頃、父上が続きを読み上げる。

「次にギデオン殿下の処分が決まった――王位継承から退き、離宮へ移ったようだ」

なんとも言えない空気が流れる。

正直軽いのではと思うくらいだ。ただ、シビルズやオーディナルズに実害があったわけではない。むしろシビルズは、ワイルズからの軍需で利益を得ていたくらいだ。


「いつまで命があるやら」


ぼそりと呟く兄上の声。思わず見つめてしまったが、兄上は微動だにしていなかった。

確かにギデオンは反政権の旗印になるだろう。今後利用されないとも言い切れないのか?……いや、よしておこう。きっと気の所為なのだから。



「そしてハロルド国王だが、退位されるようだ」

「なんと!」

叔父上の太い声が響く。母上は口を手で押さえ、目を見開いている。兄上は厳しい視線のまま口をつぐんでいた。


「ハロルドが、降りたと?」

唯一声を上げた祖父上は、訝しみながら父上を問いただしていた。


「今回の件、自身にも責あるとしたようです」

「ほう、責任とな?」

獰猛な笑みを浮かべる祖父上。背筋にぞくりとしたものが走る。

普段とはまったく別の雰囲気に、身じろぐ事すらできない。一線を退かれたとはいえ、王としての威圧感は健在ということか。


「では次期王は?」

食い入るように問うのは兄上。


「第二王子殿下だ。だがまだ幼いため、ハロルド国王が後見するそうだ」

「……なるほど」

兄上は納得したのか、腕を組むと背もたれに体を預けた。次期国王として、今後直接交流する相手の事は知る必要があるのだろう。


「そうかそうか、幼王の後見か」

祖父上は笑みを浮かべると兄上を見た。

「フレデリック、後で私の部屋に来なさい」

「かしこまりました」

満足そうな祖父上と、魅惑的な笑みを浮かべる兄上。それを見た父上は表情を曇らせた。

「先王、それはいかがなものかと」

「なに、じじいが孫に昔話を聞かせるだけだ。問題あるまい」

苦言なぞ気にもしない様子の二人に、父上はただ苦笑を浮かべるしかないようだった。


その後はシビルズ国の王族として、今後ワイルズ国とどう交流していくのかをまとめられた。後日王都貴族達を招集し、全体会議を行う事で解散となった。



✽  ✽



「疲れた……」

もたれかかったソファが、ぎぎっと音を立て自室に響く。今日はまだ午後が始まったばかりだ。なのにもう終わっても良いと体は言っている……ああ、このままベッドに潜り込みたい。


そう思っていた時、扉からノックの音。どうにか姿勢を直し入室を許可する。

「失礼いたします」

「コーディ。そろそろ公務の時間か……次は軍部の視察だったかな」

「いえ、庭園にお越し下さい」

「庭園? そんな用事があっただろうか」

「姫殿下がお待ちです」


思わぬ返答に言葉に詰まる。コーディは構わずそのまま続けた。

「ルイス殿下が、お疲れになっているのではと申されまして」

「受け入れたのか」

「ええ、合間の休息であれば、大丈夫でしょう」

コーディも随分と融通がきくようになった。やはり彼の環境も変わったせいだろうか。


「わかった、すぐに向かおう」



✽  ✽



さんさんと日の光が照り、潮風香る王城の庭園。遠くからでも見える可憐なその姿。逸る気持ちを抑えつつも、足早に向かうガゼボ。


「待たせたかな」


この国で一番美しいカーテシーが目の前で揺れる。

ふわりと流れるプラチナブロンドの長い髪。

きらりと光る睫毛と、ほのかに染まる頬。


「遅いですよ、ルイス殿下」

「私はいつも遅れてしまうな」

「でも、必ず来て下さいます」

「当然だろう、私は君の――」


片膝をつき、そっと手を寄せ、手の甲に口づけを――



このエピソードにて「ルイス編」完結でございます。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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