EP18.王
ごつごつと、いくつもの足音が整然としたワイルズ王城内に響いている。
周囲にはナイト辺境伯らシビルズ近衛と、オースティン伯らワイルズ兵士達。そして先頭を行くのは、ハロルド国王陛下。
次第に見えてくる重厚な大扉。
「……っ?!」
守りの兵士達がこちらに気づいたようだが狼狽え、後ずさっていく。
ハロルド国王の歩みに合わせ、ゆっくりと開かれる大扉。漏れ聞こえていた喧騒は、ひとつ、またひとつと消えていく。
王の間の左右には立ち尽くす者、中央では膝をつく者。誰もが口を閉ざしている。
「父上……」
玉座から聞こえるギデオンの声。ハロルド国王は身じろぎもせず、玉座の方を向いている。
ぎちりと革の軋む音。膝をついていた男が立ち上がると、ハロルド国王の下に跪き頭を垂れた。
「バーナードか」
「はっ、ご無事で何よりに存じます」
「世話をかけたな」
「そのような……勿体なき御言葉」
呼応するように膝をついていた者達は向き直り、ハロルド国王に頭を垂れた。
「皆も大義であった」
「ははっ!」
一揃いの声が反響する。ノックス侯が言っていた同志達だな。
正面から感じる視線。ギデオンが、ハロルド国王に鋭い眼差しを向けたまま、口を開いた。
「なぜ、ここに」
「そこな若き名代殿に言われたのよ――玉座には正統な王位をとな」
ぎろりとした眼がこちらを向く。
「貴殿の仕業か」
怒気を感じる声色に、どきりと鼓動が跳ねる――落ち着け。
「私の力だけでは及びません。それに、同盟国としての役目を果たしたまで」
ギデオンは視線を外し、周りを見渡している。
「そのようだな」
呟くような声。棘が消えた表情が溜め息を吐くと、おもむろに立ち上がった。
「ノックス、クレイグ、オースティン――」
一段、また一段と高壇を降りると、そのまま歩み出す。
「皆、父上を王と認め、支えていた者達」
跪く貴族達を横切り、ハロルド国王の前で立ち止まった。
「やはりあなたには敵わなかったようだ」
じっと見つめる瞳が、微かに揺れる。
「……ギデオン」
漏れ出るようなハロルド国王の声。ギデオンはゆっくりと跪き、頭を垂れた。
「そんな、馬鹿なっ!」
「こんな、こんな事が起きるなんて……」
「な、納得できません!!」
にわかに騒ぎ出したのは立ち尽くしていた貴族達。
「ええい、黙らんか!」
「見苦しいぞ!」
ハロルド国王に跪いた者達が、こぞって声を張り上げると、どよめきが連鎖していく。
「控えよ。国王陛下の御前である」
堂々としたギデオンの声に、ざわめきがぴたりと止む。
合わせるように膝をついていた者達は左右に分かれ、真紅のカーペットが顕になる。
ハロルド国王は深く頷き、再び歩み始める。一瞥もくれることなくギデオンを横切り、歩き続けた。
真紅のローブが翻り、玉座がぎしりと鳴る。
長めのブロンドがはらりと肩にかかり、青の瞳が正面を見据える。
「余は戻った」
王の間に響き渡るハロルド国王の声。
ざざっと靴が擦れるいくつもの音。周囲の気配が一斉に沈む。
見渡すまでもなく、皆が跪いたのだと分かった。
まるで示し合わせていたかのように――
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ちょっと短いですが、キリが良い所で。
ですが、本日夜にももう一話投稿予定です。
引き続きよろしくお願いします!




