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偽りのピンクブロンド【WEB改稿版】  作者: 川崎悠
ピンクブロンドのヒロイン(改稿済み)

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【03】乙女ゲームの世界

「嘘でしょう」


 こんなことがありえるの?

 ただでさえ異世界転生で頭が混乱していて、それを三日もかけて、ようやく落ち着いたばかりだというのに。

 またズキン、ズキンと頭が痛くなってくる。


「アリスター様?」

「……申し訳ないわね。少し体調が悪くなってきたの。もう少しレイドリック殿下を待ちたかったけれど。私、先に帰らせてもらうわね。殿下に伝言をお願いするわ」


 私は気まずそうに見守っていた王宮使用人に伝言を託して帰らせてもらう。

 レイドリック殿下は遅れてやってくるのだろうか、それとも顔を見せることもないか。


 思い出した記憶は確かにここが『レムリアに咲く花のように』の世界だと告げている。

 私は悪役令嬢、それも破滅する予定のだ。

 レイドリック殿下とは破局する運命にある。

 だけど、現実の彼とゲームの彼は別人かもしれない。

 たまたま今日は何か用事があって。


「……だめ、とにかく帰ってから考えましょう」


 気分が悪いのは事実だった。だって私はこのままだと破滅する。

 もう恋心がどうだとか言っていられなかった。


「とにかく破滅ルートを回避しなくちゃ……」


 そう呟いて、帰りの馬車の中で私は深く溜息を吐いたのだった。



 私は、王都にあるシェルベル家の邸宅に帰り着くと、そのまま自室へと向かう。


「アリスターお嬢様? お早いお帰りですね」


 私付きの専属侍女、リーゼルが早々に茶会から帰ってきた私に心配そうに声をかけてくる。

 いつもはリーゼルと一緒に王宮へ向かうのだけど、今回は『どうせ』殿下とは会えないと思っていたから、彼女に自室周りのことを頼んでから私は出かけていたのだ。


「リーゼル、ごめんなさい、しばらく部屋で一人にさせてちょうだい」

「かしこまりました、アリスターお嬢様。何かございましたらお申し付けください」

「ありがとう、何かあったらベルを鳴らすわね」


 そうして自室で一人になると、私はとにかく思い出したことをまとめることにする。


「私自身もまだ混乱しているから……」


 一つ一つ、状況を整理していこう。

 深呼吸をして。

 メモを取りながら考えるより、まず頭の中で整理してからだろう。


 まず、この世界について。

 私の記憶にあるのは乙女ゲーム『レムリアに咲く花のように』、通称『レム恋』。

 記憶にある通りなら、どうやらこの世界はその『レム恋』の世界らしい。


 主人公は当然私ではない。

 ヒロインとなるのはレーミル・ケーニッヒ男爵令嬢。

 日本人向けに発売されたゲームらしく黒い髪と黒い瞳をした可愛い系の女子だった。


 レム恋はマルチエンド式で、攻略対象がメインとサブ含めてかなり多いゲームだった。

 攻略対象の中でもゲームのパッケージになっているメインヒーロー枠は五人。

 それが『王太子』『王弟』『近衛騎士』『次代宰相』『王家の影』の彼らとなる。


 レム恋のヒーロー役はこれだけではなく他にも様々なサブヒーローたちがいる。

 魔塔の天才児であったり、大司教の子であったり、大商人の子であったり。

 シェルベル公爵家にいる、私の義弟もヒーロー役の一人だった。


「これがレム恋のヒロインとヒーローたち。対する『私』は」


 彼らと敵対するキャラクターは一人だけ。


「たったひとりの悪役。それが私、悪役令嬢アリスター・シェルベル」


 乙女ゲーム・レム恋には『他の悪役』キャラがいないのだ。

 ヒーローたちの中で婚約者がいるのはレイドリック殿下だけ。

 他のヒーローたちのルートにも、ライバルヒロインのようなキャラは出てこなかった。

 目立って悪事を働くキャラもいない。

 すべてのルートにおいてヒロインの邪魔をする『悪役』の役割を担うのが『私』だ。


「これはかなりひどい状況だわ……」


 私は深く溜息を吐き出す。

 レム恋の悪役令嬢アリスターに待つのは破滅ルートだけだったのだ。


 乙女ゲーム『レムリアに咲く花のように』のゲーム期間は、ヒロインが王立学園に入学してからの二年間。

 これは、おそらくレイドリック殿下の卒業に合わせての期間なのだろう。


 基本はヒロインのステータスを鍛え上げ、ヒーローたちと出会いを重ねて、各イベントをこなして彼らの好感度を上げていき、条件を満たす。

 好感度を一定値以上にすることでヒーローたちのそれぞれに用意されたグッドエンドを目指す恋愛シミュレーションゲームだ。


 ヒーローの数が多いため、それほど個別のシナリオが濃いわけではなかった。むしろ短い。

 レム恋は、ヒーローの数で勝負するのが『売り』のゲームだったのだ。

 サブヒーローまで含めると驚きの九人体制である。


 敵対する立場の悪役令嬢のことも考えてヒーローの人数を配置してほしいものね。

 周回前提、短めのシナリオで沢山の男性たちを攻略していくゲーム。

 ヒーローたちそれぞれの『グッドエンド』は一種類しかない。

 その他は攻略失敗。登場もしていない一般男性と結ばれる『ノーマルエンド』になる。


 また選択肢を間違えた場合には、いくつか『バッドエンド』があるゲームだった。

 ただし、バッドエンドであっても『悪役令嬢の勝利』エピソードはないという徹底ぶりだ。

 そういうゲーム性であるため、ストーリーにはある種の『お約束』があった。


 それが『悪役令嬢』アリスター・シェルベルの存在だ。

 すべてのルートにおいて悪役となるのはアリスターだけ。

 要するにゲーム容量の節約。悪役は全部一緒の安上がりシナリオというわけだ。


 ヒロインであるレーミルが学園に入学する。ヒーローたちと出会う。

 その過程で彼女は悪役令嬢アリスターに目をつけられてしまう。

 悪役令嬢はヒロインを虐める。ヒロインはそれに耐える。

 最終的に悪役にやり返すのは主にヒーローたちだ。


 悪役令嬢アリスターは彼らの『得意分野』で戦い、そして敗北し、破滅して落ちぶれていくことになる。

 和解エンドはなく『私』から見ると、どれも破滅エンドとなっている。


 なぜ、彼らの得意分野で悪役令嬢アリスターは戦うのか?

 そうなる理由は、おそらく私の性格によるものだろう。

 私は『相手の得意分野』で相手を打ち負かしたい、と。そのように考える人間なのだ。


 たとえば、剣技が得意なヒーロー『近衛騎士』ロバートを相手にする場合は剣技で。

 頭のいい『次代宰相』ジャミルが相手ならば頭脳勝負で相手の上に立ちたい。

 なぜそうするのかって?

 相手の得意分野で上回った方が『気分がいい』からよ。


 また私にはそれを成すだけの才覚があった。ゲーム上の『私』もだ。

 知性、体力、魔力、すべてにおいて才能があり、トップクラス。

 いわゆる『ラスボス』タイプの悪役令嬢なのだ、『アリスター・シェルベル』は。


 だけど、そんな私はそれぞれの得意分野でヒーローたちに一歩及ばない。

 剣で競えばロバートに負けるし、頭脳で競えばジャミルに負けてしまう。

 要するに『ヒーローたちに負けるため』に存在するのが悪役令嬢である私なのだ。

 程よく強敵で、倒し難く、しかしながら必ずヒーローに上回られる存在となっている。


 ゲーム通りに進めば『アリスター』に待つ未来はどれも絶望的なものだ。

 ヒロイン視点でのバッドエンドでさえアリスターが救われるようなものはなかった。

 悪役令嬢が勝つルートがゲームには存在していない。

 アリスターの末路はどれも悲惨なものばかりだった。


 レイドリック殿下に婚約破棄されて修道院行き、その道中の馬車が襲われて死亡。

 ジャミルの策略で性質(たち)の悪い悪徳領主の後妻にさせられる。

 自暴自棄になったのか暴れているところを剣での殺し合いになり、ロバートに切り殺される。

 違法薬物に手を出したと民衆に告発された結果、ヒューバートに逮捕され、投獄、獄中死。

 王弟サラザール殿下の逆鱗に触れて国家反逆罪だと断罪され、処刑。

 ……などなどである。


 メインルートの五分の四が死亡、残る一つも決して救いのない末路が待っている。

 各グッドエンドの裏でこのような様々な『破滅』が私に襲いかかるのだ。


「このままじゃあダメだわ」


 破滅の未来を回避するためにはどうすればいい?


「……そうだわ。まずはレイドリック殿下がゲームの彼と同じかどうかを確認しないと」


 だって、ここは現実だ。ゲームじゃない。

 だから、現実のレイドリック殿下が私に対してどう思っているのか。

 すべては、それを確認してからの話だろう。

 何より私が確認しておきたいのだ。殿下の気持ちを。


 レイドリック殿下が『現実』と『ゲーム』でどれだけ違うのか。

 あるいは同じなのかを確かめたい。

 現実の彼がまだ私に対して好意を抱いてくれているなら問題なんて何もないのだから。


 これもまたよくある話。現実の殿下は、実は私を溺愛していて? とか。

 そういうパターンもあるかもしれないじゃない?

 私の前世の知識には、やっぱりそのパターンもあったのだ。

 だから諦めるにはまだ早い。


 婚約してから三年ほど。

 私がレイドリック殿下を好きだったのは本当の気持ちだった。

 殿下の方だって私のことを確かに好きだった。

 ……そのはず(・・・・)なのだ。


 やっぱり乙女ゲーム対策より先にレイドリック殿下の気持ちの確認が優先よね。

 次にある定例のお茶会で会うのはおそらく望み薄だろう。現時点でそれでは会えていない。

 きっと乙女ゲームの知識のない『私』でも同じ行動をしていたはず。


『どうして殿下は来てくださらないの』と正攻法で彼の変化を待ち、あっという間に時間が過ぎて、学園入学の日を迎えてしまう。

 おそらく、それが本来の運命なのだろう。

 だから、それではダメ。ゲームの運命は少しでも覆しておきたい。


 学園入学前にどうにかしてレイドリック殿下と会い、彼の気持ちを確認する。

 今動かなければダメだ。たとえ、どんな理由をつけてでも。

 私は意を決し、動き始める。

 現実のレイドリック殿下の気持ちを確かめるのだ。


※2026年6月11日に改稿しました。

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