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偽りのピンクブロンド【WEB改稿版】  作者: 川崎悠
ピンクブロンドのヒロイン(改稿済み)

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【04】レイドリックへの恋心

 私は、まず私のお父様、アルバート・シェルベル公爵に働きかける。

 レイドリック殿下が、強制的に婚約者である私と参加せざるを得ないダンスパーティーを催してもらったのだ。

 当然、お父様経由でレナート・ウィクター国王陛下へも打診済みである。


「やるならば徹底的に、よね!」


 悪役令嬢、されど公爵令嬢である。権力は持っているというわけだ。


 ……この行動が原因でレイドリック殿下に嫌われるという『設定』だったりして?


「いやいやいや」


 違うから。今日までの段階でお茶会を三回キャンセルされているから!

 まさか、墓穴を掘っているなんて、そんなはずは……うぅ。

 私は頭を振って、不安をどうにか押し流す。


 ただのダンスパーティーだし、急遽の開催となったのでお堅いパーティーではない。

 急なことだったため、参加者はあまり多くないが、王族を迎えるには十分であるはず。

 また、とくにひどい我儘を聞いてもらったというわけでもない。

 私は以前からお父様の事業をたまに手伝っているのだ。

 だから、今回のパーティー開催はその報酬代わりのようなもの。

 正当な対価として通った要求といえるだろう。


「……うん。この件で嫌われることはない、と思う」


 私なりのレイドリック殿下の為人(ひととなり)を思い出しながら、そう判断する。

 婚約してから三年間、殿下と交流を深めてきたのだ。彼の感じ方ぐらい。


「でも、今のレイドリック殿下のことが私はわからない……」


 確かに彼が好きだった。今でも、そう。彼も私が好きだった。

 これは絶対にそうだと言い切れる。言い切っていいはずなのだ。

 それだけの時間を重ねてきたはずで。


「レイドリック殿下……」


 それが、こんなふうに。

 何が原因なのかさえ分からないまま、だんだんと距離が開いて。

 挙句の果てに『嫌われている』かもしれないなんて。そんなことが。


「……納得できるわけがない」


 嫌うならば、離れていくならば、その理由を明確にしてほしい。

 どうしてそうなってしまったのか。今、彼はどう思っているのか。


「……うん。私は、貴方の言葉が聞きたい。貴方の口から聞きたいわ、レイドリック殿下」


 だから、たとえこれが理由で嫌われるのだとしてもこのパーティーは強行する。

 殿下の気持ちを確認するために。



 パーティー当日。

 私は殿下の瞳の色である水色に近い青のドレスを着ていた。

 シェルベル公爵家の邸宅でレイドリック殿下が迎えに来るのを待つ。


 小規模ながら公爵家主催、国王承認のパーティー。

 殿下も私を迎えに来る他ないはず……。

 待っていると邸宅の前へ馬車が着いたと連絡が入り、私はすぐに玄関へと向かう。


「レイドリック殿下、お待ちしておりました」

「……アリスター」


 金色の髪、水色に近い青の瞳、整った顔立ち。

 私の知るレイドリック殿下の姿。

 同時に前世の記憶にある乙女ゲームのヒーロー、『王太子』レイドリックの姿そのもの。


「お久しぶりですね、レイドリック殿下」


 何を言うにもまず、その言葉を口にする。

 不安を押し隠し、毅然とした態度で背筋を伸ばしながら。

 私はシェルベル公爵令嬢、王妃教育を受けた淑女なのだ。王族を前にしてあるべき姿を示す。


 私が挨拶をすると殿下は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて視線をふいと逸らした。

 その仕草に私は少しだけズキンと胸を痛める。

 以前までのレイドリック殿下はこうではなかったはずだ。

 三年前、まだ私たちの身体も子供といえるほど小さかった頃に出会って。

 王宮と公爵邸で嬉々として茶会を開き、何度も逢瀬を重ねてきたのだ。

 互いが自身の婚約相手を素敵だと思っていた。

 それは私たちを見てきた使用人たちだって、お父様たちだって認めてくれている事実だと思う。

 王宮使用人たちだってそのはずだ。

 私たちは仲睦まじい婚約者同士といえた。


 けれど、そんな幼い彼の思い出の姿と、目の前に立つ青年といえる見た目に成長した殿下の姿がつながらない。きっと私もそうなのだろう。

 私たちの年齢での三年は思いの外、影響が大きい。

 身長も体格もきちんと成人に近づいている。


「はっ!」


 そこまで考えて私は、ある可能性に思い至ってしまった。

 これは前世の記憶という余計な情報を得てしまったからこその発想。

 レイドリック殿下、もしかして『幼い頃の私の姿』が好み(・・)……なのでは!?

 えっ、そういうこと? だから成長した私を遠ざけているの? まさか!

 そういえばレム恋のヒロインは日本人を意識した姿だ。

 つまり、この世界においては童顔?

 だとすると、まさか殿下が『そういう趣味』なことが変化の原因……!?


「……なんだ? アリスター。何を考えている」

「えっ、いえ、あの」

「……何か、言い知れない気配を感じたが」

「ああ、いえ。色々と考え事を少々、ふふ」


 私は訝しむレイドリック殿下から視線を逸らし、誤魔化して笑う。

 少し冷や汗をかきつつ。

 いやぁ、言えません。

 殿下の趣味がもしかして『そっち』疑惑なんて。普通に不敬だ。


「……まぁいい。公爵はどこだ?」

「お父様は先に会場へ向かいました。私はレイドリック殿下をお待ちしていたのです」

「……なんだと? 公爵が先に?」

「ええ、そうですが何か?」


 レイドリック殿下が少し苛立ったような様子を見せる。

 お父様に用事でもあったのかな。


「お父様とは会場で会えると思いますよ」

「……そうか」


 うん、やっぱり私へ向けた殿下の態度が以前までとはまったく違う。

 今世の私の知識だけなら、ここで酷く混乱してしまっただろう。

 彼の態度の冷たさに嘆き、悲しみを覚えて足を竦ませたはず。

 だけど、悲しいかな。

 前世の知識、乙女ゲームの知識を思い出した私はある程度の予測を立てていた。

 きっと私は彼から冷たい態度を取られるのだろう、と。


 もちろん予想ができていたとはいえ悲しいとは思う。

 けれど、私はそこで止まっているわけにはいかないのだ。

 なぜ、レイドリック殿下がこのような態度へ変化したのか、その確認をしなければならない。

 ここが本当に乙女ゲーム『レム恋』の世界ならば私に待っている未来は破滅のみ。

 私は嫌われる理由を知る不安を押し殺す。そして勇気を持って一歩、前へと踏み出した。


「レイドリック殿下、エスコートをしていただけますか?」


 そう言いながら、正面から彼を見つめて、私は手を差し出す。


「…………」


 レイドリック殿下は沈黙したまま、差し出された私の手を見る。

 だけどすぐには動かない。

 もしかして手を取らないつもりなのだろうか。

 そこまで明確な態度を見せるならそれは最早、私との、いえ。

 シェルベル公爵家との決別の意思表示とも受け取れる。


 彼はこの婚約が不服となったのだ、と。

 私の後ろに控えているシェルベル家の使用人たちが証言してくれるだろう。

 そうなった場合は私から婚約解消を申し入れるしかない。

 ただ、ある意味でそれは私の救いとなるだろう。

 少なくとも乙女ゲームの悪役令嬢としての運命からは遠ざかるはずだから。


「……いいだろう」


 けれどレイドリック殿下は結局、私の手を取った。

 そこは手を取るのね、と思ったものの私は素直に受け入れて彼に手を引かれる。

 エスコートされて公爵家の屋敷を出ていき、王宮から来た馬車に乗せられて。

 私たち二人を乗せた馬車はパーティー会場へとゆっくり走り出したのだった。


※2026年6月11日に改稿しました。

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