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夢見る時間は異世界へ。  作者: 雪愛。
黒獅子ジャックスと少年魔術師
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駆ける黒獅子

「いやぁ……こりゃ参ったなぁ……」

 街道の分岐点で獣の顔立ちを持つ大男、ジャックス・エアホッケーは積み荷を覗いていた目を細め、微かな唸り声を上げた。

「契約違反っつーことで()()()を置き去りにする、ってぇのも出来るが……コレはアレだな」

 豊かな自身のタテガミをワシャワシャとかき乱し、ジャックスは荷車を引く相棒……二股の尻尾を持つ巨大な猫に声をかけた。

 面倒事はすぐ解決するに限るからだ。

「すーちゃんよ、俺の相棒スプライトよ。お前の意見を聞かせてくれ」

『なぁに?ジャックスってば、まぁた厄介事でも?』

 スプライトと呼ばれた大猫は自らの体を子猫サイズに変え、ふわりと宙に浮くと困っているような、怒っているような表情を崩さない黒い獅子頭の相棒に顔を添えた。


『やだ!男の子じゃないの!!』

「だよなぁ……」


 スプライトの悲鳴に近い声にジャックスは深く溜息をついた。

 荷車の上には「この荷物を運んでくれ」と依頼された荷、樽が3つと大きな木箱が2つ積まれており、水はけが悪かったのか、その日の街道は数日前に降った雨が原因で未だ泥濘(ぬかるみ)がところどころにあった。

 そのうちの1つのぬかるみにハマり、ガタリと大きくバランスを崩した衝撃で積み荷のうち1つの木箱の蓋が空いてしまったのだ。

 中には質素な木綿の下着一枚着せられただけの人間の少年がスヤスヤと寝息を立てていた。スプライトの悲鳴でも起きない事から、薬か魔法で眠らされているのかもしれない。

「風邪ひかないようにな」とジャックスは自身の民族衣装のような意匠が施されたハーフマントを外すと男の子に掛け、そっと木箱の蓋を閉じた。閉じる際に木箱の蓋の裏や木箱の中を確認するが、睡眠魔法の魔法陣は描かれておらず、少年の服装から察すると箱に詰められる前に眠らされたのだろう。指定された町までは3日かかるうえに夜はまだ冷えるというのに。

 ジャックスは時には傭兵、時には運び屋として各地を転々と旅をしている。というのも彼がこの地へ降り立って最初に手にしたのは炎属性と手さばき、運転、ナビゲートという運転手向きでは?と思われるスキルだったからだ。どうせなら使えるもんは何でも使う。という性分である故に冒険者兼運び屋となる事を選んだ。傭兵業は主に町の住民から直接モンスター退治を依頼される副業のようなものだが。

 スプライトとはその副業で出会った元討伐相手だ。喧嘩も多いがなんだかんだ背中を任せられる良き相棒である。


 彼が現在習得しているスキルは初期スキルの他に槍術と動物言語。槍と杖を組み合わせた武器を自作して戦っている。戦闘ジョブは魔法使いを選んでいたのだが、最初は魔法を発動するまでに時間を要し、棒術に近い形で敵を倒していた所、いつの間にか魔槍士(メイジランサー)という名に変わっていた。

 『まさか、こんな子供を置いていくなんて言うんじゃないでしょうね?』

「置いていけるわけねえだろ?」

 『じゃあこんな子供連れて行くと言うの?!』

「そうする他ねえだろうよ……近い町まで子供の足じゃ2日はかかるぜ?でも、すーちゃん、お前の足なら半日もかかんねえだろ?

 ギルドで依頼者探しのクエスト依頼するなり、依頼者情報貰って、とっ捕まえて、ふん縛って、違約金たんまり貰いーの美味いメシ喰いーので気持ち良く仕事を終えようじゃねえの」

 大きな牙を見せてニヤリと笑うジャックスにスプライトは「仕方ないわね……」と溜息を吐くと再び体を大きくさせ、荷台の前へ行き、荷台を引けるようベルトをジャックスに付け直してもらった。


 『それじゃあ、急ぐわよ!しっかり捕まってて!』


「よしきた!」


 荒れた街道を進む荷車は勢いをつけ、駆けて行く。

 それを操る黒獅子の表情は静かな怒りに燃えていた。




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