ロンダルの誉れ2
「願いを叶えよう」
突然の言葉に3人は僅かに思考が止まった。
ベアウルフが町を襲うかもしれない。そう思ったのは事実だし、そうならないよう努力もしたつもりだ。
しかし、レベル3のカナメ達が出来た事は最終的には立ちふさがり、魔獣の子供を逃がした事。ただそれだけだ。
ロンダルが願いを叶える程の事をしたつもりは毛頭ない。無いのだが。
「でしたら……それでしたら……私に、スキルを与えて戴く事は可能ですか……?」
最初に口を開いたのはリオだった。
――ほう、スキルが欲しい、とな?
「あの……私、私のスキルは……回避と、格闘と、鞭なんですけれど……怖いものと、危ないものが……とても、怖くて……魔法使いなのに、魔法使いらしくないスキルで……ジョブは自由に変更できるけれど、格闘技で戦うジョブになるのは、まだ少し怖くて……。
今回みたいに、ヨムが危険な事に巻き込まれた時、カナさんは地図作成のスキルを使ってヨムを探し出す事が出来たけれど、私は……せっかく新しい世界に来る事が出来たのに、私の力で皆を助ける事が出来なかったと、思うんです」
――土属性魔法でゴーレムを作り出す事に成功したと森の木々から聞いたが、それだけでは不満と申すのか?
「私が……私が動けたのは、2人からの指示があったからです……。怖いと思うと、考えが止まってしまって、怖いっていう感情に振り回されてしまいます。
私は……そうならないようなスキルがあるのなら、それが欲しいです。
危ないものから、誰かを助けられるような、そんなスキルが欲しいです」
――弱き人の子よ。描く理想があり、近づこうとするその意思を我は愛しく思う。
そなたに『危機感知』のスキルを授けよう。このスキルは周りにいるものの敵意やそなたに害のあるものを感じ取るスキルだ。
そう穏やかにロンダルが告げると彼は太く逞しい前脚を持ち上げ、リオを指した。
人差し指を立てるような仕草は尊大の中、可愛らしさも見え、薄ピンクの肉球に思わず頬がほころんだ。
ふぅ……とろうそくの火を吹き消すようにロンダルが息を吹くと、淡い黄と緑の光がリオへ飛んでいき、頭上で弾けると光のシャワーがリオへ降り注いだ。
[リオ・サンダーが『危機感知』をロンダルから授与されました]
リオの脳裏にアナウンスが響く。
「あ、あの、ありがとうございます……!!」
――よいよい。弱き人の子よ。人の世界ではそなたのような資質の者を「経験が足りぬ」と断じるものもいると聞くが我にはそれが理解できぬ。
伸びる前の資質というものがあるのだ。学ぶ前の心構え、とでも言えば良いのか。
不安である事、恐怖に思う事はどうにもならぬ。不安や恐怖は無知である故に思う事。ならばこの世界で多くを見て識るのだ。それがそなたの力になる。
「は、はい!」
リオは心の中に温かな光を感じ、胸元でギュッと両手を握った。
大切な宝物を手にした子供のような仕草にカナメは頬が緩む。
ヨムの様子を窺うが、ヨムもカナメの様子を窺っていたらしく、目が合う。
困ったように微笑む顔。願いがまだ決まっていないのか「お先にどうぞぉ」と言うようにヨムはカナメに目配せをした。
――では、次……赤毛の娘、申してみよ。
「はい、王様……私は正直、願いと呼べるものは思いつきませんでした。けれど、リオが誰かを守りたいと思ったように、誰かを守る為に私も強くなりたい」
――ではそなたもスキルを望むのか?
「……今の所願いはそれですけど、願いと言って良いものか……少々微妙な所がありまして。
私、魔法剣士になりたいんです。剣士を選んだのも魔法剣士になりたくて選んだから、なんですけれど……。
恐らく、王様は私が魔法剣士になりたい、と願えば先ほどのリオにスキルを与えてくださったように光のシャワーで私を魔法剣士にする事は簡単に出来ると思うんです」
――無論。そなたを魔法剣士にする事は容易であるな。
「でも、それじゃあ面白くないんです。私は自分の力で強くなりたいんですから」
――ではそなたは……我に強くなる!と宣誓しただけになるぞ?
「それもそうかぁ……」
ロンダルの問いに「しまった……」と額に手を置き、カナメは考えた。
リオの様にスキルが欲しいわけではないし、自分の努力なしで魔法剣士にもなりたくない。そもそも願いを叶えよう。なんて突然すぎる。そもそもチュートリアルもそこそこの状態で自分の目標や夢なんてまだ見つかってもいないというのに。こんな序盤で壮大な事を言われても困るだけなのに、そもそもこの森の王ロンダルは人を困らせる事を娯楽としているのではないかと思う程イイ性格をしているようにも思う。こんな事なら何か記念品になりそうなものでも頼んでおいた方がいささか気が楽かもしれない。
「それでは王様、私に剣をください」
――剣か!剣であるな!!待っておれ、今世界の宝と並ぶ程の剣を……
カナメの長考が終わり、願いを告げるとロンダルは嬉々として雄叫びを上げた。
ビュウビュウと風が唸り、風が小さな渦となり、その中に色とりどりの花や日差しの粒が吸い込まれていく。
「あ、そういうのいいんで。普通の剣でいいです」
ぴた。とロンダルの動きが止まる。
カラン、と音を立てて風と光と花の渦の中から一本の剣が哀しげに地面へと落ちた。
――何故であるか!!何故であるか!!この森の王ロンダルが直々に作る剣であるぞぉ?!プレミア、プレミアがつくプレミアものであるぞお?!小国の民のもつ金をかき集めても買えぬ代物であるぞぉ?!
「王様、私達はチュートリアルもまだ終わっていないレベル3の冒険者です。町の中以外の場所ではPK行為が容易に行われますし、町の外で死んでしまって身ぐるみを剥されてしまう事もある、とこの世界のルールとして。基礎知識として私たちは知っています。
レベル3の冒険者は弱いです。悲しいくらいに弱いです。レベル30台のベアウルフに殺されかけた時は一瞬でこの命が終わるのだと思い知りましたし、助けて下さった王様を前にして意識を失いました。
この世界、冒険者は相手のステータスと装備品を見る事が出来ます。町の中で低レベルの冒険者が森の王ロンダルの剣を持っているのが簡単に解ってしまうのです。
カモがネギをしょっているよりも楽にそのお宝が奪われてしまうんですよ。
そのステータス表示をかく乱するスキルもきっとあるかもしれませんが。鑑定のスキルはレベルを上げて、スキルポイントを振るだけで簡単に手に入れる事が出来ます。おそらく鑑定レベルを上げればステータスをかく乱しても解る人によっては解ってしまう。
私達は危険なものからなるべく離れて、穏やかに暮らしたいんです」
――う、うむぅ……本当に良いのか?後悔はせぬか……?
「お子さんの命を救った恩人に国宝級の剣を与えて、見知らぬ冒険者に恩人が殺され、その剣を奪われた場合、王様が後悔しないのでしたら、どうぞ?」
カナメの落ち着き、相手に有無を言わせぬ声にロンダルは大きくため息を吐くと先程落とした剣を風魔法でふわりと持ち上げ、光を纏わせるとカナメの元へと剣を向かわせた。
「わっと……」
光を纏った剣はカナメを横切り、丁寧に置かれたカナメの剣の元へ着くとカナメの剣へ納まった。
光が払われると剣の持ち手と鞘がロンダルの毛色と同じ鮮やかな橙の毛皮で誂えられた剣が現れた。
――この剣はそなたと共に成長する剣である。故に強さもそなたのレベルにしてはちょっと切れ味が良い、とかその類に留めておる。それでよかろう?
「我侭をお聞き下さり、ありがとうございます」
頭を下げるカナメに「べ、べつにお礼なんて言われる事ではないわ!!」と照れたように一喝すると咳払いをしてロンダルはヨムを見据えた。
――では次、愉快なそなた、申してみよ。
「私は……」
―――
―――
――――――
「私、まさかヨムがあんな事言うなんてちょっと意外だったなぁ」
街へむかう道中、腰に携えた剣の持ち手を撫でながらカナメは口を開いた。
「うんうん、『森のお宝ぜーんぶ欲しいなぁ~』とか言うと思ったのに」
ヨムの声真似をしながらリオも大きく頷いた。
「心外だなぁ……だって、2人も気になってたんじゃない?この子の事」
頬を膨らませ、唇を尖らせるヨムにカナメとリオは頬を緩ませた。
「私は、あの魔獣の子が無事か知りたいです」
ヨムの願いは新しいスキルでも、武器でも、宝でもなく、ソレだった。
そして現在、ヨムの腕の中では3人が助けた魔獣の子供が機嫌良く3人の顔を見渡し、ギャムギャム歌うように鳴いている。
「そんなもの願いのうちに入らぬわ!好きにいたせ!!」と投げつけられた魔獣の子供はオニキスとヨムに名付けられた。
[名前:オニキス レベル6
種族:ティラナム
従者:ヨム]
「レベル6、ね……心強いボディーガードが出来たのは良いけれど……ヨムはテイマーになりたいんだっけ?」
オニキスのステータスを見つめ、カナメは口を開いた。
「とりあえず、魔法使いになって、この世界の遺跡めぐりをのんびりできたらいいなぁ……って考えてはいたんだけど……テイムスキルまだ取ってないのに何でテイム状態になってるかはまだ解んないし……まぁ、解んない事だらけだし、ゆっくり考えようかなぁ……」
「この世界はなんにでもなれる、どこにだって行ける!だもんね!」
『ぎゃむぅ♪』
夕焼け空の中町へ向かう足取りは薬草採取クエストを受けた時よりも軽やかだった。
「あぁ!!クエストの期限日没って書いてある!!!」
「2人とも!!町まで走るよーーー!!!」
訂正。軽やかであり、慌ただしくもあった。




