南瓜王の花嫁3
『そうだなァ……あれはもう、100年は昔になるか・なァ……♪』
煙管を吸うような仕草をし、フゥゥゥ……と薄紫の煙を吐くと光を放たない南瓜王の黒い虚は宙を見つめた。
『南瓜王に捧げられた最後の花嫁の話だよ。あの時も確か邪魔が入ったんだァ……
今回みたいに冒険者が己の正義感?なんてモノに踊らされてサァ♪捧げられるべき花嫁を奪い、南瓜王を討伐しようとした事があって・ね☆』
ふわりと浮かび、足を組むと南瓜王は「ククク」と笑った。
「ある年の冒険者が神の遣いに戦いを挑み……ってやつか。しかし次からは戦いを奉納するよう求めたそうじゃないか」
『人間は……本当に身勝手で傲慢だと思ったことは一度や二度ではないだろう?
そもそも南瓜王は最初から生贄を望んで等いないのだよ』
南瓜王の冷たい物言いにジャックスの脳裏にエレキ端末で出た情報がよぎる。
最初に求められたのは生贄。
次に花嫁。
その次は戦い、という名の暴れ瓜の討伐。
嫌に冷たい汗がじんわりと肉球に染みる。
「……南瓜王は豊穣を司る神の遣いだと聞く。何故その神を信仰しているか、とするなら……この土地は作物を育てる事が難しい土地だったんだろうな」
「だから……」と言いよどむジャックスを察したスプライトは呆れたように口を開いた。
『だから人間は……そうね、例えば老人、もしくは働くのに適さない者を最初に生贄にしたのではないかしら。
もしかしたら幼子や病弱な者、体力の無い者も姥捨てや口減らし……失礼、神に捧げられたのでしょうね。
そうすれば罪悪感なんて抱かなくても済むもの。』
『それじゃあ、じゃあ……次の花嫁っていうのはどういう事なのさ?』
「生贄になるのは年に1人でないとならない決まりだとは何処にも書いてはいなかっただろう?態々花嫁としたのは恐らく……豊穣の恩恵が続き、口減らしする必要は無くなったって事、そうだろう?」
『……南瓜王は寛大なお方だったからね……身勝手に命を捧げられる事を酷く嫌っていたのだよ。
捧げられた花嫁達は皆遠くの地へ逃がされていったよ……最後の1人を除いてはね』
ミシリ、と南瓜王の頭のカボチャからヒビの入る音がした。
そのヒビから薄紫の煙が漏れ出し、南瓜王の体やジャックス達の肌に絡まる。
『冒険者に助け出された最後の花嫁はこの身勝手な者達の住む土地から逃げ出す事もかなわなかった。
幼い頃より南瓜王の花嫁になるように言いつけられていたからね、それ以外に生きる目的も見つけ出す事も出来なかった。
まるで腫れ物にでも触るかのように、忌むべきものとして扱われるようになった彼女は次の年の笑う瓜が実った頃に自害したそうだよ。
墓を作られることも無く、人目につかぬ所で朽ちて逝った彼女に寄り添うように南瓜王はすくい上げ、娶り、最後に捧げられた花嫁は南瓜王の最初の花嫁となったのさ』
するりと滑るように南瓜王はジャックスの頭を掴み「お解り戴けたかな?」と目の虚でジャックスの瞳を見つめた。
虚から溢れる煙からはラベンダーの香りがした。
「その花嫁にも身勝手に人の命を押し付けられた南瓜王には気の毒だと思うが、小娘共も町の奴らに利用された被害者とも言えるだろう?
あいつ等をどうする気だ?」
ふぅぅ……と鼻息で煙を散らすとジャックスは南瓜王を睨みつける。
『はろーういんというものを君は知っているかい?』
「ハロウィンって……あのハロウィンの事か?死者が蘇る日とかなんとか」
『成程、リオの言葉と君の言葉を紡ぎ合わせるなら・ば☆
はろーういんとは死者が蘇り、地上の者へ貢物を求める日……そういう事だな?』
「あぁー……そう、かぁ?いや、確か死者が蘇る日であるから、悪い霊に子供たちが連れていかれないように子供にお化けの仮装をさせるんだったか……。
仮装をした子供が菓子を貰いに行く行事らしいとは聞いた事があるが……」
『やはり死者が蘇り貢物を求める日ではないか!』
「まぁ、それで合ってるよ」
(ハロウィンのマスコットみたいな奴がハロウィンについて聞いてくるとか悪夢以外のなにものでもないんだけどな……緊張感が消えちまうよ……リオっつーのはあれか、小娘の仲間だな)
『はろういーんを行う』
「……はぁ?」
『リオから聞いたのだが、はろういーんとはお菓子を貰えなければ悪戯をしても構わぬのだろう?
実に愉快な祭りではないか』
「いや、だから……そんな急に言われてもお菓子なんて用意が出来ない……まさか」
『察しが悪いぞ冒険者よ。南瓜王は寛大だと言ったではない・か☆
今宵は地下の者達が蘇り悪戯をする。君は冒険者としてそれを守ればいい適度に・な☆』
「成程な……来年からは菓子さえ用意すれば豊穣を約束する。っつーような祭りの基みたいなもんを作る手伝いをしろと、そういうわけか」
『つまり、町の住民を騙してしまおう。という訳ね?理不尽な仕打ちをした町に対してする仕返しはそんなもので良いの?私も人間に思うところがあるから、こんな町炎で消し去る事もできるわよ?』
ジャックスの言葉に頷き、スプライトの問いに南瓜王は肩を震わせた。
『猫よ、復讐は何も生まない。この町の者も生贄を捧げた者達から何代も後の世に産まれた者達だ。風習は形を変え、廃れていくのも仕方のない事。そして南瓜王は復讐は求まぬ。
求めるのはこの町の礎となった者達を忘れぬ事……それだけ・だ☆』
「その口ぶりだと小娘共は無事だと思って構わないな?」
『勿・論・サ☆人を脅かすマナーをレクチャーして貰っている所だ・よ☆』
南瓜王は親指でクイ、とダンジョンを示した。
ダンジョンの推奨レベル35とあるが恐らくこのレベル設定はヨム達3人を外に出さない為の設定なのだろう。
『それじゃあ冒険者くん、よろしく頼むよ』




