南瓜王の花嫁4
ジャックスと南瓜王がはろーういんについて会話をはじめる少し前。
虫と臓物の波に呑まれ、流されたカナメとヨムの2人はダンジョン内の一部屋に流れ着いた。虫が苦手なカナメは白目を剥いて気を失い、乗り物に酔いやすい体質のヨムは微かな吐き気を催していた。
2人を運んだ虫と臓物の大群は部屋の隅に置かれた中綿を抜かれつぶれた猫のぬいぐるみの中へ入り、形を整えると、1,2と腕や腰を回して準備体操のようなものをする。
猫のぬいぐるみと言っても体は大きく3,4メートルはありそうだ。
「ヨム!カナさん!!」
2人の耳に聞き覚えのある声が聞こえ、カナメは意識を取り戻し、ヨムと共に声へ振り返ると黒いウエディングドレスを着たリオが嬉しそうな声を上げて駆けよって来た。
「リオ!!アンタ大丈夫なの?!どこも怪我してない?」
「大丈夫。何処も怪我してないし、痛い所もない。ついでに言うとカナさんの大嫌いなホラーテイストの場所だけれど、此処にいるモンスター達は私達の敵じゃないから、その腰の剣に伸ばした手は下げてね?」
リオはそっと腰の剣に伸びた手に触れ、そこから離した。
「で、でも……私達いきなり臓物とむs……いや、口に出すのもおぞましい……アレの大群に押し寄せられて……」
「声にならない悲鳴をカナメちゃんは上げて、そのまま気を失っちゃった感じ」
「正直あの体験だけで私はこの世界から引退したい気持ちが凄く強くなったんだけれど」
正直体の上を脚の多い虫がはいずりまわり、体に少しでも力を入れて暴れればいたるところに触れた臓物の皮が弾け中身が飛び出てくるのではないかと思う触感は思い出しただけでも寒気がしてくる。
思いだしただけでも寒気がし、頭を抱えるカナメに大きな猫のぬいぐるみは「だいじょうぶぅ~?」と言いたげによしよしとカナメの頭を撫でた。
敵意をねこのぬいぐるみからは感じないのでリオの言う「敵ではない」の言葉は嘘ではないだろう。
「このダンジョンの中にいる人?達が敵ではないとすると……私達をこの中に連れてきたのは何でかな?リオに会わせるだけならさっきの臓物と虫の波でリオを運べば良いだけだとおもうんだけれど」
「あのね、実は2人に手伝ってもらいたい事があるの」
猫のぬいぐるみに慰められているカナメを横目に尋ねるヨムにリオは口を開き、説明をした。南瓜王はそもそも生贄を望んではおらず人間側から「口減らし」の為に行われた行為を哀れに思った神様とやらが豊穣の恩恵をもたらした事。生贄から花嫁へと変わり、今の戦いを収めるという儀式へ変わった事。その儀式も現在は簡略化されてしまった事。そして今住んでいる住民は生贄にされてしまった人々の事を忘れているだけでなく、恩恵を与えられているのが当たり前だと思っている事を。
「あのね……このままだときっと、生贄の人達の為にもたらされた土地の恵みも枯れてしまうと思うの。自業自得だって私も思ったよ?思ったけれど……生贄にされた人達は今を生きる人に恨みをもってはいないの。ただ、こういう事があったんだよって覚えていて欲しいみたいなの」
「それで、私達は何を手伝えば良いの?虫とかホラーとかは駄目だけれど、出来る限りの事は手伝えるとおもうわ」
落ち着きをとりもどしつつあるカナメは強く目を閉じ、眉間に深く皺を刻んだ。困っているのなら助けよう。という意思と苦手なものから早く立ち去りたいという意思。そもそも軽はずみに引き受けるんじゃなかったという後悔とこのまま断って逃げてしまったら。(逃げると言う選択はないのだが)暫く後悔が付いて回るだろう。
「ハロウィンをはじめようかとおもったの」
「ハロウィンって……お菓子を貰いに各家をまわるあのハロウィン?でもそんな風習この世界にあるのかしら?それに突然お菓子をくれって言われても……」
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞって言うよねぇ?じゃあ、そのお菓子が無かったら……悪戯し放題って事かぁ」
「なるほどねぇ」と大きくヨムは頷いた。
「来年からお菓子を貰えるように徹底的に怖がって貰わないとだねぇ」
「待って!それって町の人に迷惑になってしまうんじゃない?」
「カナメちゃん、確かに今回私達がやろうとしてる事って迷惑になると思うけれど、今回沢山迷惑をかければかけるほどハロウィンのようなお祭りが翌年から開催されればこの土地に住む人は生贄にされた人達の事を忘れることは無いんじゃないかな」
「忘れる事が無ければこの土地の恵みが枯れてしまう事がない……という訳ね」
ヨムとカナメが頷きあい、そのやり取りを確認したリオは再び口を開いた。
「ここにいる人達はね、見た目は怖い人もいるけれど誰かに危害を加えようとかそういうのを考える人じゃないんだ」




