南瓜王の花嫁
地中深く。多くの植物の根が天井から釣り下がる場所にリオは居た。
カボチャ紳士はタキシードに着替え、鼻歌交じりに式場の飾りつけを小さなお化けカボチャ達に指示している。
連れ込まれる際は恐怖心もあって身動きが取れなかったのだが、今は不思議と心が穏やかだった。
もしかすると『危機感知』スキルのお陰かもしれない。
揃いのウエディングドレスに無理やり着替えさせられはしたが、危害を加えられる訳ではなく地下の住人達からは客人として丁重に扱われていた。
地下の住人、と一言で言えば簡単ではあるが、容姿は実に様々で。
地上も多数の種族が暮らしては居たが、この地下では所謂死者と思われる者が多く存在していた。
何故彼等が死者である事に気付いたか、というと彼等の体の一部の肉が削げ骨が丸見えであったり、片目が零れ落ちその虚から虫がひょっこり顔を出す。なんて事もある。
そういった類が苦手なカナメが居たら大変だろうな、とリオは悲鳴を上げるカナメの姿を想像して苦笑した。
リオもそういたホラーものは苦手ではあったのだが『危険感知』スキルが幸いして冷静でいられた。そういった見目の者であり、こちらに危害を加えないと知れば安心できる。
何より、地上の人間であるリオに気を使ってか少々特殊な見目の者はカボチャ紳士同様にウリ科の実に目と口を掘り、頭に被っていた。
リオ自身が土属性であるからかこの地下の空間は不思議と心地よく、運ばれてから護衛として呼び出したゴーレム(通称おカブ)の機嫌もとても良い。
先程から地下の住民に愛想を振りまき、お菓子を戴いては嬉しそうにリオの元へと運んでいた。
「死者の国と、カボチャかぁ……まるで……」
『まるで?』
「うひゃう?!」
おカブの様子を眺めていたリオの隣へ煙のように音もなくカボチャ紳士は現れた。
『驚かせてごめんよ花嫁』
「花嫁って呼ぶの、止めてください。私にはリオって名前があるんですから」
--私にはxxxxという名があるのです。花嫁という呼び方は私を見ていない様で好きではありませんわ--
カボチャ紳士の脳裏に日に焼け融けた記憶が眩しく蘇り、女性の声が響いた。
『そうか……そう、だねリオ……。
良ければ聞かせてくれないかい?死者の国とカボチャについて、何を言いかけていたんだい?』
それを振り払うように首を横に振り、カボチャ紳士はリオへ訊ねた。
表情は解らないが、どこか哀しげで寂しそうな声にリオは小さな子供に話すように「あのね……」と口を開いた。
「私も友達から聞いただけなので、その情報が正しいのか解らないのだけれど」
『それでもいいよ。聞かせてくれるかい?』
「ええと、起床世界にはハロウィンというお祭りがあるんです。私の暮らしている国では、コスプレ……仮装をして、友達同士で遊んだり……都会では多くの人が集まってパレードをしたり。他の国では子供たちがお化けの仮装をして、色んな家をまわってお菓子をもらうんですけれど」
『それとカボチャは……どんな関係があるんだい?』
「ええと、カボチャの中身をくりぬいて、お顔を彫って、中に蝋燭を立てて飾りにするんです」
『この顔に蝋燭を入れるのかい?!』
両手の蔓で自らの顔を覆い、悲鳴に似た声を上げるカボチャ紳士にリオは思わず噴き出した。
「カボチャ飾りのついた家に子供達がお菓子を貰いに行くんですけれど「トリックオアトリート!お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ!」って言って、お家の人からお菓子をもらう……だったかな」
『お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ!か……良いじゃないか!なんて素晴らしい催しだろう!カボチャの頭をくりぬき蝋燭を立てるだなんて実に背☆徳★的☆でドキドキするじゃあない・か☆』
「はいとくてき……?」
『いいかい?リオ。僕の花嫁になるなら覚えておかなければならない事がある』
(まだ花嫁になる。だなんて言っていないんだけれどな……)
思わず目を逸らすリオの頬を両手で包み込み目の虚でじっとカボチャ紳士は見つめ、声を上げた。
『我等は神の遣いとして町の民草共に恵みを与える義務がある。が、その始まりは民草共が勝手に始めた生贄を捧げるとかいう野蛮な儀式。反対の声も上がったのだろうね。その次は花嫁を捧げる、なんて事に変え、お次は戦いを奉納ときたものだ!!祭壇を築き、暴れ瓜との戦いを最後に奉納したのはどれ程前だとおもう?近年じゃあ畑に湧いた暴れ瓜を退治しておしまい。さ!
捧げられた我等に対する敬意はどこにある?畏怖はどこにあるというのだ?』
「捧げられた……?まさか、ここに暮らす人たちは……」
『理解できたかい?リオ……僕は、私は、我等は……豊かさと引き換えに捧げられた生贄なんだよ!!
根拠無き謂れで命を奪われた者達を不憫に思った世界の神が我らの命を救い上げ作ったのがこの地下世界さ。
暴れ瓜を通して地上を感じるだけで良かったのにそれさえも奪われ。その度に何度も話し合おうとしたさ。冒険者に何度砕かれようとね。
だが、どうやら今年は町の者達は趣向をまた変えたようだ。まさか古風な花嫁を捧げるという儀式になるとはおもってもみなかったけれど・ね☆』
虚の中にはただただ闇が広がるばかりで目を凝らしても何も見えない。
ただ、カボチャ紳士の頭の奥で微かな声が響いていた。
『南瓜王から地下の民へ告ぐ!今年は地上で盛大に祝いの宴としようじゃあないか!!
我等が去った後の地上を見たいだろう?我等の命を奪った奴らの顔を拝みにいこうじゃないか!!』




