暴れ瓜にはご用心4
「で、だ。まずはお前達に言っておきたい事がある」
ヨムとカナメのフレンドカードを懐にしまい、ジャックスは口を開いた。
「暴れ瓜の討伐だと言っていたが、お前達が倒したカボチャは暴れていたか?」
「そういえば……」
「カボチャがケケケって笑っているだけだったようなぁ……?」
暴れ瓜の討伐を頼まれては居たが、確かにカボチャは笑っているだけで暴れては居なかった事を2人は思いだした。
少し大げさにでも言っているのかな?とすら思うほど、倒したカボチャは暴れては居なかった。
「やっぱそうかぁ……そうだよなぁ……」と口をモゴモゴとさせながらジャックスは口を開く。
「暴れ瓜の討伐は俺も経験がある。俺の場合は時期は夏で暴れ瓜はスイカだったけどな。まぁ、倒し方の基本は変わんねえと思うが、暴れ瓜になる前段階の野菜は『笑い声を上げる』だ。だから暴れ瓜を討伐するには笑う瓜の蔓を切り、その瓜が暴れ瓜になった時に倒さなきゃなんねえ」
とん、とん、とジャックスの大きな指がテーブルを叩き、ヨムとカナメは顔を見合わせた。
2人が倒したのは暴れ瓜になる前の笑う瓜だったのだ。
「暴れ瓜じゃなくて、笑う瓜を倒しちゃったって事、だよ……ねぇ?」
「っていうかそもそも暴れ瓜を倒す手順なんて何も聞いてなかった……」
「まず、大事な事を教えてやっから、忘れるんじゃねえぞ」
薄緑のジャックスの瞳がジロリ、と2人を睨みつけ、自然と2人は背筋が伸びた。
「この世界に住む奴ら……恐らくNPCと思わしき奴らは冒険者に気軽に助けを求めてくる。求めてくるが、奴らはモンスターの倒し方については「冒険者だから解るはずだ」「何かあっても解決するはずだ」と頼んでいるにも関わらず他人事だ。
今回の事も暴れ瓜の件をギルドに相談した時の職員の顔が面倒臭そうだったのに気付いていたか?秋の暴れ瓜は特にキチンとした手順を踏まないと厄介な事になるんだぜ」
「厄介な事、とは?」
「んじゃあ今から500コリン奢ってやっから、受付カウンターからエレキ端末借りてきな」
革袋から金色の貨幣を一枚取り出すとジャックスは2人へそう告げた。
「エレキ端末?」と首を傾げる2人だったが、言われるままに受付カウンターへ行き、正八面体の蛍石と台座を持って戻ってきた。
台座には貨幣を入れる穴が開いており、ジャックスはその穴に500コリン貨幣を入れる。
―ヴゥン……
正八面体の蛍石がパカリと開き、中から長方形の液晶画面が現た。
不思議そうに2人が覗くとジャックスは慣れた手つきで起動ボタンに触れ、インターネットの検索画面に似た表示を出す。
「これはエレキ端末。チュートリアルの時に案内人からこの世界にも起床世界のようなネットワークが存在するって聞いただろう?どこぞの賢い冒険者がこのシステムを作って情報の共有が出来るようになったってわけだ。
わざわざ町の図書館に行かなくても情報は仕入れ放題の優れもの。だな」
そう言うとジャックスは検索バーを指先でつつき、文字の入力画面を呼び出す。
「今回はそうだな……単純にお前らの知識不足の点が今回の発端って訳だから『秋の暴れ瓜討伐 歴史』で検索だな」
ジャックスは慣れた手つきで文字を入力し、目当てのページを見つけると「ほらよ」と2人に覗くよう促した。
「秋の暴れ瓜討伐(推奨レベル15)は豊作を願い、戦いを神の遣いである暴れ瓜に奉納する為のものである。
元は村の娘を神の遣いに花嫁として差し出していたが、ある年現れた冒険者が神の遣いに戦いを挑みそれにうち勝った際、神の遣いは戦いの奉納を求めるようになったという。
暴れ瓜の正しい討伐手順は
①笑う瓜を見つける。
②笑う瓜の蔓を切る。
③笑う瓜が暴れ瓜に変化するのでコレを倒す。
である。
なお、これらの手順を正しく踏まえない場合、怒れる南瓜王(推奨レベル30)が現れる為注意されたし」
現れた文章を声に出して読むヨムにカナメは「あれ?」と声を漏らした。
怒れるカボチャ紳士は恐らく南瓜王なのだろうが、怒っては居なかった気がする。
現れた文章の下に小さく花嫁と南瓜王の婚礼手順と書かれたリンクを見つけたのでそれにも触れる。
「南瓜王へ嫁入りする際、南瓜王を呼び出すには花嫁の人数分笑う瓜を1つ砕く事」
「にんずうぶんくだくこと……」
咀嚼したくない文なのかヨムの渇舌が迷子になる。
『あら?何か問題でもあって?』
テーブルへと降りたスプライトが挑発するようにヨムとカナメの頬を尻尾で撫でる。
「実は私達、笑う瓜を3つ程割ってしまっていて」
「多分カボチャ紳士……もとい、南瓜王は私達3人を花嫁と勘違いしている……んだよね」
『あらあらぁ、情報も知識も得ず「助けたい」という考えだけで行動するなんて。どこかの小娘がやってる事はどこかの2つ脚がやってた事みたいよね』
ハッと鼻で笑うとスプライトはジャックスの腕を駆けあがり、頭の上でツン、と澄ましたように座った。
「おいすーちゃん、いくらなんでも言い方ってもんがあるだろうよ」
『お黙りジャックス。なんだか私、久しぶりに良い玩具を見つけた気分よ!
いいこと?小娘。私も手伝ってあげるわ』
高飛車な態度のスプライトに先程まで大人しく様子を見ていたオニキスが頬を膨らませる。
『たかが猫に何が出来るって言うのさ』
『お黙り坊や。ツメを隠すのはタカだけじゃなくってよ』
気迫でオニキスを追い払うとスプライトはクスクスと笑い、ジャックスは頭を抱えた。
相棒がこのように調子に乗るとジャックスが尻拭いをする羽目になる事は多々あるのだが、今回のジャックスとスプライトは手助けする側だ。余計な事を引き起こさないで貰いたいし、余計な物まで引っ張り出すのではないかと不安になってくる。
その不安が杞憂であるといいのだが。




