暴れ瓜にはご用心3
「クエストを発注したいんですけれど!!」
冒険者ギルドの扉が怒号と共に開かれる。
怒りに満ちた声の主は鮮やかな空色と雪のような白い2色の髪の少女だった。
こんな小娘がクエストを頼むなんて珍しいな、と黒獅子の男……ジャックスは少女へ目を向けるとその後ろから赤毛の少女と黒い小さな魔獣も駆け込んできた。
「ヨム様、カナメ様、落ち着いてくださいませ……如何なされましたか?」
受付けカウンターから職員が怪訝な顔で尋ねた。冒険者ギルド、とはいうものの小さな町のギルドだ。厄介事が来ると少々面倒なのだろう。
カナメ様と呼ばれた赤毛の娘が一度、深呼吸をした後職員へ口を開いた。
「私達、町の人とベアウルフ族の方から暴れ瓜の討伐を頼まれていたんですけれど……少し面倒な事になってしまっていて」
「この時期の暴れ瓜の討伐を冒険者に頼むなんて……面倒とは、どのような問題が発生したのですか?」
近くの席から椅子を運びだし、発注用紙を引き出しから取り出すと職員は2人へ訊ねた。
秋の時期の暴れ瓜は慎重に扱わないとならない。暴れ瓜は元は魔力を帯びた野菜であり、古来より豊作を告げる神の遣いであると言われてきた。
秋は実りの時期であり、正しい手順で暴れ瓜を討伐しなければならないのだが、近年『古来よりの言い伝えは迷信である』という認識の若者や住人が増えてきたのか、暴れ瓜に対してぞんざいな扱いをする者が増えてきている事も問題視されていた。
ヨム様、と呼ばれた二色の髪の少女が職員に事の経緯を説明すると、職員は心底面倒くさそうに大きな溜息をついた。
「カボチャ頭の紳士が現れ、ご友人がさらわれた、と……そして、あなたがたも含めて『花嫁にする』とカボチャ頭の紳士が言ったのですね……?」
子供の夢の話でも聞かされているのかとも思えるが、2人が真剣な顔つきをしているという事は嘘ではないのだろう。
ジャックスは立ち上がり、2人の少女の後ろに立つと口を開いた。
「そのクエスト、俺が引き受けてやるよ」
軽いその一言を不審に思ったのかヨムとカナメは「何だコイツ……」という目でジャックスを見つめた。
軽い革鎧に民族調の飾りを施したハーフマント。
鋭い猛獣の瞳は先程の軽口の為かどこか人懐こい印象を感じさせる。
彼の肩の上にはハチワレ模様の尻尾が2本に分かたれた小柄な猫が2人を見下すように座っていた。
2人の警戒するような視線に気づいたのかジャックスはタテガミをボリボリとかきながら笑みを漏らした。
「俺はジャックス。ジャックス・エアホッケー。冒険者兼傭兵兼運び屋って感じで各地をフラフラ放浪中の身ってわけよ。ジョブは魔槍士だ」
自慢の武器を二人に見せると「さあ、どうする?」とジャックスは訊ねた。
そんな彼にオニキスは警戒しながら近付き、口を開く。
『ぎゃむ……ぎゃうぎゃ』
口ぶりからするに戦力を求めているらしかった。
暴れ瓜の討伐は初めてではないのでいけると思うのだが……。
「強いかって言われりゃ微妙だが……お前の主人達よりゃ強いと思うぜ?」
『ぎゃむぅ……』
「居ないよりマシどころか経験だってある。いいだろ?」
『ハァァァァ……ぎゃぅ』
「よっし!決まりだな!」
あまり乗り気でない返事をしたオニキスにジャックスは「よし!」とガッツポーズを取った。
「え、待って?何?どういう事?」
「ジャックスさん……オニキスの言葉が解るの?」
ジャックスとオニキスのやり取りにヨムとカナメは[信じられない]というように首を傾げて見せた。
「ん?あぁ、スキルに動物言語ってスキルあるだろ?それ取得すりゃ会話をしようとするモンスター……ってか魔獣と会話が出来るんだよ」
言われるままにヨムとカナメは余っていたスキルポイントでスキル:動物言語を取得した。
『このオジさん、ボク達のお手伝いしてくれるってさ』
面白くなさそうにオニキスが二人に告げる。
『あら坊や、助けて貰うのに人を選んでいては助かる者も助からないわよ?』
ジャックスの肩上から声が注ぐ。
見上げるとジャックスの猫が挑発するようにオニキスに語りかけていた。
「すーちゃん、ストップ。喧嘩は無しだ、そっちの魔獣の坊主もな。オーケー?」
『えぇ、二つ脚がそう願うなら』
「うるせえよ四つ脚。……じゃあここから先この件は俺が引き受けるんで」
そうジャックスは職員に告げるとヨムとカナメに椅子を持ってジャックスのテーブルへ移動するよう促した。
「改めて自己紹介だ。俺はジャックス。見ての通り獅子獣人の魔槍士。こっちは相棒のスプライト。通称すーちゃんだ」
「私はヨム。魔法使いをしてるよ。水魔法が得意かな。こっちはオニキス」
『……怪しい真似をしたら喰いついてやる』
『そんな事したら承知しないよ坊や!!』
生意気そうなオニキスにフシャーと威嚇するスプライトを見て「大丈夫かなぁ……」と思いつつもカナメは口を開いた。
「私はカナメです。剣士をしています……一応」
「おっけーおっけー。ヨムにオニキスにカナメな……さて、とそれじゃあ早速で悪いが報酬の話にうつるぜ」
肩上の相棒を宥め、ジャックスは周りの目を気にするように小声になる。
「眠り魔法の解除を頼みたい」
「眠り魔法の解除?」
「ちょっと連れがその魔法にかかっててな……その解除を今調べているんだが……」
「ワケありってやつぅ?」
「ワケありっつぅか、ワケありそうってやつだな……」
「眠り魔法って数時間で目覚めるのでは?」
「それだったらこんな事言わねえよ……丸二日は眠り続けてる」
なるほど、とヨムとカナメは頷いた。少々やっかいな眠り魔法に連れがかかっているからそれを解いてほしい、そういう事か。と。
普通の眠り魔法で無い事からも関わればヨムやカナメも少々危険な事に関わってしまうかもしれないという事か。
「私達駆け出し冒険者に解除出来るとでも?」
「正確には解除ではなく、方法。もしくは強力な万能薬の材料……まーあ、何でも良いから情報を集めてくれればおっけーだな。
お前たちは仲間を助けたい。俺も連れを助けたい。つまりはそういうこと、だろ?」
そう告げるとジャックスはフレンドカードを1枚ずつ2人へ渡した。
フレンドカードとはこの世界での『フレンド登録の申請』というやつだ。
この場合、受け取れば交渉成立。とも取れる。
「他に道は無いし、ようはジャックスさんも困ってるから手伝ってくれって事でしょう?」
「助けるのに理由はいらないよね」とヨムとカナメはフレンドカードを受け取り、自分のフレンドカードをジャックスへと差し出した。
「っしゃあ!ではまずは囚われのお姫サマでも助けにいきますかー!!」
―魔槍士ジャックス・エアホッケーが仲間になりました。




