第二話 「紅い魔晶石」
――過去(続き) 西の港
サーの手を離れた俺の体は斜め前方に吹っ飛び露店に顔から突っ込んだ。
「うぅ・・・」
――突っ込んだのが肉でよかった。やれやれ、露店商から逃げなければ
顔を上げると、俺の予想では俺をとっ捕まえるであろうはずであった露店商は中央に向かって最高速度で走っていた。
いや、彼だけではないこの市場にいる者全員が我先に行かんと中央に向かって走っている。
――なんだ、中央で祭りでも始まるのか。急ぐってのにも程というものがあるだろ!必死すぎだろ!
走る群集を見て鼻で笑いながら、頬にはりついている肉を剥がして齧った。
バキ、という地響きと同時に湧き起る『寒気』が、その楽観的な思考を一瞬で醒ました。
顔を音の方に向けると、そこには一つの紅く輝く山があった。
――過去(数分前) ブブゼラの西の関所
「ハハってお前どんだけ弱いんだよ」
「お前もう、あれだな、今日の見張り全部お前な!」
「いや、それは無いっしょ!」
「見張りなんか要らないっしょ!」
「「ハハハハハハ」」
三人の関所兵が無駄に豪勢に造られた関所塔で賭けをしている。
ここはブブゼラの東西南北の四か所の関所兼対外防衛戦の一つの西の関所である。
ブブゼラの地下には巨大な地下水道のための空間があり、ブブゼラの住民の重要なライフラインが通っている。
そのため、ブブゼラの周りには地上数キロから地下数十キロに及ぶ強力な対全属性の防衛結界が張られており。
ブブゼラでの出入りは一般にはその四か所の関所を通るしかないのである。
普段、関所を通るものなど遠洋にでるつわものの漁師ぐらいしかいない上に、異常があれば中央のどこかで結界を管理している者達が先に察知する、どこの関所の者もいつも暇を持て余しているのが常である。
ゴト、と三人の囲む円卓の上にあるコップが音を立て、中の火酒を揺らした。
「お!地震かぁ!若いころはなぁ地震なんて一度も無かったぞ!えぇえ!」
「地震なんてあるわけないじゃないですか!予知は絶対ですよ!天気だって毎日あたりますし!」
「予知も超える未知の天災ってかぁ?えぇえ!」
「「ハハハハハハハハ」」
火酒が回り、いらぬ口が回る。
これが最後の晩餐になるとは誰も思ってはいなかった。
ズドン、という音を最後に彼らは関所塔もろとも、いつものように三人で酒を交わすことなく、闇に葬られた。
関所塔を破壊し、軽々と結界を突破した。
その生き物は想定を超えていたというより、想像を超えていた。
ブブゼラの人が見たことがないのも当たり前である、普段ずっと西の方の地下に暮らしているはずであった生き物であり、地上界の生き物では無いのだから。地下世界の生き物『ディエング』。背に大量の魔晶石を貼りつかせた二足歩行型の爬虫類のような生き物。ディエングにとってはただ通る道に障害物があったため突破した、ただそれだけの行為だった。
――過去 西の港
「サー!サー!」
――サーは、サーはどこだ!そう遠くには吹っ飛んでないはずだが・・・どこかで落ち合えるか・・・
中央に向かって雑踏を踏みわけて行く。
――過去 ブブゼラの西の関所(跡地)
「「撃てぇ!撃てぇ!」」
ブブゼラの王が統帥する直属の兵士達が『ディエンゴ』の所にたどり着き、討伐を開始していた。
精鋭数百人規模の態勢で魔法やら魔道具やらをぶっ放しても山肌が剥がれるようにディエンゴの背の魔晶石の山を削っているだけで本体には傷一つついていない。
だが、王直属の部隊だけあり、隊長格全員が魔力を一点に集中させ放ってみたところ、ディエンゴの背の魔晶石の山を粉砕し、背にダメージを負わせることができた。
これが『ディエンゴ』が初めて彼らを認識した瞬間だった。
スドン、という音とともに地表にディエンゴの顔が現れた。
ギョロギョロと左右の眼を動かし、口腔を開き、一点に濃い魔力の乱気流が収束した。
紅い閃光が放たれた。
あらゆるエネルギーの奔流が衝撃波となり、此の世の終焉を思わせる火柱が辺り一帯を包んだ。




