少年と青年
着地した雨の雫は波紋を成し、体の内に宿るうねりにゆっくりとそれらが伝播するのを感じる。未だ堕ちていない雫は中空でその形をはっきりと視認できる速度で落下している。声の聞こえる方に見返ると何を述べているのか鈍重すぎて理解できないが多分まぁ表情からするに何等かの方法でこの事態に気付き助けに来てくれた人なのであろうか、その人物が背負っている背丈以上の直方体の態を成している漆黒の箱が目についた。やけに周りの時間が遅く見える。
そんなことを見ている内に体を支えていた脚は崩れ、アスファルトに腹這いに卒倒してしまった。
寝覚めし、睡余の内に眦を指で引き掻きながら目を遊ばせると自分はカウチで寝かされていたようだ、下半身にはブランケットが掛けられている。二畳程の部屋は白く朧に霞む硝子に、モダンな装飾に囲われている。瑠璃窓からは薄れゆく夕暮れが凹凸の激しい輪郭の中を真っ黒に塗りつぶしている、赤光を発する標識灯は際やかに見える。天空に黄ばんで燃える灰色の雲が影を落としていた。見返ると観葉植物の横に目測小学三年生程の小太りした愛嬌のある少年がよだれを垂らしながら口元を綻ばし揺り椅子で昏睡している。
――拉致されている。
肩口に重みを感じた。
触れられているだけであるのだろうが肩から首筋にかけて体内に侵入されているような感覚に襲われた。
「俺達は君の・・・」と背後にいる人物がぽんともう一度肩をたたいてきた。
振り向くと自分と同齢くらいの華奢な出で立ちをしたスーツ姿の好青年が満面の笑みでこちらを向いている。
――思い出した、失神する前に見た青年だ。
何か言いかけた青年は唇を噛み言葉を止めていた。
なにかを諦めたように貌に笑顔を貼り付けながら。
「来てくれ」と突然、今まで揺り椅子で寝ていた少年がドアの前で待っていたかのように立っていた。
ドアを開けると閑としたオフィスフロアが広がっていた。
机が碁盤の目のように並べられた隙間を三人は歩き、エレベーターへ向かった、このオフィスフロアはかつて使われていたかのように床には紙や箱が散在している。
少年がエレベーターのした行きのボタンを押し、透明なボタンが褐色に光った。
エレベーターに乗り込み、三人は静寂を保ちながら到着をまった。
チン、という音がエレベーター内の静寂を破り、扉が開いた。
エレベーターを出ると、そこは床には白い大理石が敷かれており、フロントフロアは透明なガラスの壁に囲われていた。
三人は入り口の自動ドアをこじ開け外に出た。
そこは崖であった。
そこには小惑星が貫通したかのような大穴があった。
岸からは折れた道路が突きだしている。
そこにはその穴の直径と同じような太さの柱が通されている。
その『柱』は青白く光り輝いており、その辺りには飛び散ったと思われる瓦礫が宙に浮いていた、少しずつ、まるで地上から見た雲のようにゆったりと『柱』に向かっている。
三人は浮いていた瓦礫の上を歩き、『柱』の樹木の根っこのような紋様が数ミリ単位で浮かび上がっているのを目視できる距離まで近づいた。
――美しい…。
私は吸い寄せられるようにその『柱』にそっと手をかざした。




