元パーティーとの再会
「う〜ん!今日も採れたてのきゅうりは瑞々しくて最高だなぁ!」
翌朝。黒銀に輝く要塞の庭で、アルトはポリポリと新鮮なきゅうりを丸かじりしていた。
隣では元Sランク冒険者のアリサが「うむ、この果肉の締まりと塩気がたまらん……!」と幸せそうに頬張り、巨大な赤竜ポチも尾をパタパタと振って美味しそうにきゅうりを丸呑みしている。
そんなのどかな「極上神域」のすぐ外側に、ぞろぞろと泥まみれの集団が近づいてきていた。
アルトを「ゴミスキル」と蔑んで追放した元パーティーのリーダー——『才能の剣士』グラハムたちである。
「くそっ、何なんだこの魔境は!猛毒の空気と魔物ばかりで調査どころじゃないぞ!」
グラハムはボロボロになった装備をぬぐいながら毒づいた。
彼らはギルドからの依頼で「魔境の緊急調査」に派遣されたのだが、過酷な環境に疲弊しきっていたのだ。
「り、リーダー……!前方を見てください!」
仲間の一人が悲鳴のような声を上げた。
グラハムが顔を上げると、そこには信じられない光景が広がっていた。
枯れ果てているはずの赤黒い荒野が一変し、どこまでも美しい緑の畑と清らかな清流が広がっている。
そしてその中央には、一国の王都すら凌駕する難攻不落の巨大要塞が鎮座していた。
「な、なんだこれは……!?不毛の魔境に、なぜこんな神話級の巨城と神域があるんだ!?」
あまりの異常事態に言葉を失うグラハムたち。
恐る恐る要塞の門へ近づいた彼らは、さらに驚愕の光景を目撃することになる。
城の庭で呑気に椅子に座り、お茶を飲んでいる少年の姿——アルトだった。
「あ、あいつは……アルト!?なぜ追放されたゴミスキルがこんな場所にいるんだ!?」
グラハムの頭の中で、都合の良い『勘違い』が激しく展開された。
(そうか……!こいつ、追放された後に運良くこの古代遺跡(要塞)を発見したんだな!スキル【土いじり】でたまたま落ちていた作物を拾って生き延びていただけか!)
勝手に納得したグラハムは、ニヤリと下劣な笑みを浮かべると、大威張りで庭へと踏み込んできた。
「おいアルト!無事だったようだな!」
「えっ……?グラハムさん……?」
突然現れた元仲間たちに、アルトは目を丸くした。
グラハムは剣の柄に手をかけながら、威圧するように言い放った。
「命拾いして良かったなゴミスキル。だが、この大遺跡と広大な施設はお前のような雑魚には過ぎた代物だ。冒険者ギルドと我がパーティーの名において、今日からこの拠点は俺たちが管理してやる!感謝して荷物をまとめて出ていけ!」
相変わらずの身勝手な要求に、アルトはポカンと首を傾げた。
「え……?でもここ、僕が【土いじり】で耕して作ったマイホームなんですけど……」
「ハッ!嘘をつくのも大概にしろ!お前みたいな役立たずがこんな神殿を作れるわけがないだろうが!」
グラハムが大笑いした、その瞬間だった。
((((ぐるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!))))
天を揺るがすような恐ろしい咆哮が響き渡り、巨大な影がグラハムたちを覆い尽くした。
「ひっ……!??!?」
悲鳴を上げて振り返ったグラハムたちの前に姿を現したのは、要塞の陰から顔を出した体長十メートル超の巨大な赤竜——『ヴォルカニック・ドラゴン』だった。
神話級の超危険生物が放つ圧倒的な殺気に、グラハムたちは膝をガクガクと震わせ、その場に崩れ落ちた。
「ど、ドラゴン……!?なぜこんな伝説の魔物がここに……!ひいぃぃ、喰われる……!」
しかし、ポチが怒っていたのは自分たちの縄張りを荒らされたからではない。
『グルルゥ……(我が主が丹精込めて育てた至高の野菜を横取りしようとする不届き者め……一滴の灰しも残さんぞ……!)』
大好きなトマトときゅうりをくれる大恩人アルトを脅かす存在へ、本気の威圧を放っていたのだ。
さらに、要塞の中から大剣を携えた美しい女騎士が歩み出てきた。
「何事だ……ふむ、アルトを追放したとかいう愚か者共か」
凛とした冷たい瞳でグラハムたちを見下ろすのは、元Sランク冒険者のアリサであった。
「ア、アリサ殿……!?なぜ伝説のSランク冒険者がこんなところに!?」
有名人であるアリサの登場に、グラハムは目を疑った。
アリサはカチャンと大剣を地面に突き立てると、凄まじい剣気を放ちながら言い放った。
「アルトは私に極上の食事と命を与えてくれた恩人であり、この神域の主だ。この者の平穏な家庭菜園を邪魔する不届き者は……この私が全力で切り伏せる!」
「ひ、ヒィィィィィッ!??!」
伝説の赤竜と、元Sランク冒険者。
人類最強クラスの二大戦力が、なぜか「土いじり」しか能がないアルトの忠実な味方として立ち塞がっているのだ。
混乱と恐怖でパニックに陥るグラハムに、アルトはニコニコと満面の笑みで手を振った。
「あ、そうだグラハムさん!僕をパーティーから追放してくれて本当にありがとうございました!おかげで気兼ねなく畑仕事ができて、毎日美味しい野菜が食べられて最高に幸せです!」
悪気のない、完璧な感謝の言葉。
しかし、それがグラハムにとっては最大の侮辱と恐怖となって突き刺さった。
「お、覚えてろぉぉぉぉぉぉっ!!」
グラハムたちは悲鳴を上げながら、脱兎のごとく魔境の彼方へと逃げ出したのだった。
「ふぅ……変な人たちでしたね。あ、アリサさん、ポチ、そろそろお昼ご飯にしましょうか!」
「うむ!今日の昼は採れたてナスとトマトのパスタだな!」
『グルゥ!(早く食べたいぞ!)』
追放された少年は、今日も無自覚のまま、賑やかで幸せな空間に満足そうに頷くと、「ふぅ、野菜も育ったし、次はやっぱり……アレが欲しいよね」とつぶやくのであった。
アリサ
「ふむ、元パーティーの不届き者どもは逃げ去ったな!アルト、美味いきゅうりをもう一本くれ!」
アルト
「はいどうぞ!読者の皆さんも、僕たちののんびり農家生活を楽しんでいただけたら、最新話ページ下部の【小説の関連情報を見る】から【☆で称える】や【作品フォロー】を押してもらえると嬉しいです!」




