ドラゴン降伏、『庭を掘ったら』温泉がでた
「う〜ん、今日も最高の秋晴れだなぁ!」
翌朝。要塞の重厚な扉を開けたアルトは、眩しい朝日を浴びながら深呼吸をした。
【土いじり】で浄化された畑には、トマトだけでなくシャキシャキのレタスや瑞々しいキュウリが鈴なりに実っている。
「さて、昨日の『害獣』たちは綺麗に片付いたかな……って、うわぁ!?」
アルトの目の前で、アリサが衝撃の光景に固まっていた。
要塞の頑丈な外壁の前。
そこに、体長十メートルを超える巨大な真っ赤な竜——神話に謳われる伝説の災厄『ヴォルカニック・ドラゴン』が、ちょこんと正座(?)をして待機していたのだ。
「ア、アルト下がるのだ……!あれは神話級の超危険種……一国を一夜で滅ぼす伝説の赤竜……!」
アリサが顔を蒼白にし、冷や汗を流しながら大剣を構える。
しかし、当の赤竜は戦う気など微塵もなさそうだった。
昨夜、Sランク魔物すら一瞬で粉砕した要塞の壁を目撃し、アルトから漂う凄まじい聖気に完全に屈服していたのだ。
(勝てるわけがなさすぎる……!逆らったら一瞬で消し飛ばされる……!)
プルプルと巨大な身体を震わせる赤竜。
そして、アルトが腰に下げている採れたて野菜の袋に視線を注ぐと、猛烈なお腹の音が鳴り響いた。
(ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜るるる)
赤竜はウルウルとしたつぶらな瞳でアルトを見つめると、巨大な前脚を「パタン」と地面につき、犬のように頭を地面に擦り付けた。
『……お、お助けください神なるお方……!攻撃の意思はございません……!どうか……どうかその美味しそうな野菜を一口恵んでくだされぇぇ……!』
「あれ?アリサさん、この大きな赤いトカゲさん、なんだかお腹を空かせてるみたいですよ?」
「トカゲだとぉ!?ドラゴンだ!どう見ても伝説の赤竜だろうが!」
アルトは「よしよし、お腹が空いてたんだね」と、熟したトマトを一つ投げてあげた。
赤竜はそれを大きな口でパクッと受け止めると——。
((((ドッッカーン!!!!))))
『んほぉぉぉぉぉぉぉ!!??美味い、美味すぎるぞぉぉぉ!身体の奥から溢れ出す圧倒的な聖気……!全細胞が喜んでいるぅぅぅ!!』
あまりの美味さに涙を流して狂喜乱舞する赤竜。
そのままゴロンと仰向けになり、無防備なお腹を晒して「もっとください」と言わんばかりにシッポをぶんぶん振りはじめた。
「うんうん、可愛いなぁ。畑を荒らさないなら、庭の番犬……じゃなくて『番竜』として置いてあげようか。名前は……『ポチ』でいいかな!」
「神話のドラゴンが番犬扱い!?しかも名前がポチぃぃぃ!!?」
元Sランク女騎士の悲鳴のようなツッコミが、朝の荒野に響き渡った。
こうして、伝説の赤竜ポチが新たな仲間に加わったのだった。
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昼下がり。畑仕事を終えて一汗かいたアルトは、ふと自分の服を見下ろした。
「ふぅ、作業したら汗をかいちゃったな。やっぱり一日の終わりには温かいお風呂に入りたいよね」
「風呂か……。だがアルト、ここは魔境だぞ?水場なら要塞の中に湧き出しているが、温かいお湯など……」
「大丈夫ですよ!井戸と根菜の保存穴を掘るついでに、お風呂用の穴も掘っちゃいましょう!」
アルトはそう言うと、ボロボロのクワを構えて庭の隅をザクッと掘り進めた。
「待て!この要塞の庭はダイヤモンドより硬い神石でできて……って、えええ!?」
アリサの制止も虚しく、アルトのクワは豆腐でも切るかのように硬い地表を軽々と穿っていく。
すると、掘り返した穴の底から黄金色の温かな光が溢れ出し——。
ドッバァァァァァァァァァ!!
「わぁっ!すごい、お湯が湧き出てきた!」
なんと、庭の真ん中からモクモクと湯気を立てる極上の天然温泉が勢いよく噴出してきたのだ!
それどころか、掘り起こした土の中から、七色に輝く伝説の超激レア金属『オリハルコン』の原石がジャリジャリと大量に転がり出てきたのである。
「な、ななな……何だこれはぁぁぁ!?」
アリサは目を剥いて叫んだ。
「ただの温泉ではない……!一口飲めば万病が治り、浸かるだけであらゆる呪いや疲労が消え去るという伝説の『神聖霊泉』ではないか!!なぜ穴を掘っただけで温泉が湧く!?そしてなぜ国宝級のオリハルコンがジャリみたいに出てくるのだ!!?」
「ええ?ただの気持ちいい温泉ですよ?ほら、アリサさんもポチも一緒に入りましょうよ!」
「人の話を聞けぇぇぇ!!」
なんだかんだ言いながらも、アルトに勧められて温泉に浸かったアリサ。
「〜〜〜〜〜〜〜っ、はぁぁぁぁ……なにこれ、超気持ちいい……体の芯から疲労が溶けていく……」
「ぐるるぅ〜(至福……)」
ポチも気持ち良さそうに大きな身体を温泉に沈め、幸せそうな声を上げている。
温泉でさっぱりした後は、採れたてのキュウリやトマトをみんなで丸かじり。
最後の熟したトマト一つを巡って、アリサとポチが「これは私のものだ!」「ぐるぁ!(渡さん!)」と本気で押し引きする賑やかな一幕もあった。
「家もあるし、美味しい野菜もあるし、温泉まで湧いて……うん、最高のマイホームになったぞ!」
夕暮れ時、湯上がりの風を感じながらアルトは満足そうに微笑んだ。
凶悪だった『死の魔境』は、アルトが気付かないうちに、誰もが羨む完全無欠の『極上神域』へと変貌を遂げていたのだった。
だがその頃——。
アルトを「ゴミスキル」と捨て去った元パーティーのリーダー・グラハムたちが、そうとは知らずに「魔境の調査任務」でこの地へと近づいていたのだった。




