『粘土細工』で絶対要塞(マイホーム)完成
「アルト、畑の手伝いも一段落したが……今夜もこの小さなテントで寝るつもりなのか?」
採れたての絶品トマトを食べて体力を完全回復させたアリサは、畑の脇にぽつんと張られた一人用テントを見つめ、心配そうに尋ねた。
「この『死の魔境』は、夜になると凶暴な魔物が徘徊する危険地帯だ。いくらお前の畑が聖域化しているとはいえ、布一枚のテントでは野宿同然で危なすぎるぞ!」
「うーん、アリサさん一緒に暮らすから、確かに雨風もしのげるしっかりした家があった方がいいですよね」
アリサの指摘に、アルトはポンと手を打った。
「よし!ちょうどいい土と粘土がたくさんありますし、僕の【土いじり】スキルでマイホームと、野菜を害獣から守る簡単な柵を作っちゃいましょう!」
「……なぬ?土と粘土で家を作る……?木材や石材ではなくか?」
首をかしげるアリサをよそに、アルトは腕まくりをして足元の黒土と粘土を手でコネコネと練り始めた。
「ふかふかの土に少し粘土を混ぜて……雨風に負けないようにぎゅっと固めて、と!」
アルト本人の認識としては、子供の泥遊びの延長で「ちょっと頑丈な土造りのログハウスと外壁」を作っているつもりだった。
しかし、彼の権能【土いじり】が発動した瞬間——大地が凄まじい音を立てて鳴動した。
ズズズズズズズズズ……!!
「な、何だこの地鳴りは!?地震か!?」
アリサが思わず大剣に手を伸ばした直後、アルトがこねていた土が黄金の魔光を放ちながら、まるで生き物のように急成長を始めた!
土は一瞬にして硬度ダイヤモンド超えの黒銀色の神石へと変質し、みるみるうちに巨大な塔や重厚な城壁へと形を変えていく。
さらに、畑の周囲をぐるりと囲むように建てられた「動物除けの柵」は、防御陣形が刻まれた厚さ五メートルの巨大外壁へと進化を遂げた。
ほんの数分後——。
そこに現れたのは、小さな家などでは断じてなかった。
あらゆる物理攻撃と神話級の魔法を完全に無効化する、黒銀に輝く『国家防衛レベルの絶対要塞(ゴーレム城)』であった。
「ふぅー!良い汗かいたぞ!うん、これで雨が降っても平気だし、害獣対策もバッチリだね!」
額の汗を拭い、満足そうに頷くアルト。
「どどど、どこが『簡単なマイホームと柵』だぁぁぁぁぁ!!?」
アリサは目が飛び出んばかりに開いて絶叫した。
「城じゃないか!どこからどう見ても、一国の王都すら凌駕する難攻不落の防衛要塞だろうが!!どんな土のコネかたをしたらこんなものが出来上がるのだ!?」
「えぇ?でもこれ、ただの土と粘土ですよ?」
「材質の問題ではないと言っているのだー!!」
頭を抱えて叫ぶアリサだったが、アルトは「まぁまぁ、さっそく中に入ってみましょうよ!」と無邪気に要塞の重厚な扉を開けてしまった。
内装はふかふかの土のベッドや清潔な水場まで完備されており、極上の快適空間となっていた。
◇
その夜——。
昼間の神聖な気配と、熟した作物の芳醇な匂いに引き寄せられ、魔境の深部から凶暴な魔物の群れが押し寄せてきた。
中には、一頭で街を滅ぼすと言われるSランク級の巨大魔物『グラットン・ベア』の姿もある。
「くっ……!大量の魔物だと!?アルト、私から離れるな!用心棒としてここで食い止める!」
アリサが表情を引き締め、大剣を構えて要塞の外壁へと駆け上がった。
しかし——彼女の覚悟は完全に肩透かしに終わることになる。
グルァァァァァ!!
興奮した魔物たちが、作物を奪おうとアルトの作った「土の柵(外壁)」目掛けて猛スピードで突進してきた。
(なっ、避ける暇がない……壁に激突する——!)
アリサが息をのんだ次の瞬間。
ドッカァァァァァン!!!!
凄まじい破壊音が響き渡った。
だが、吹き飛んだのは壁ではなく……突進した魔物たちの方だった。
アルトの作った要塞の外壁は、傷ひとつつくどころか粉塵すら上がらない。
それどころか、壁に施された神聖な浄化魔力が発動し、ぶつかった魔物たちは眩い光に包まれてそのまま消滅・自滅してしまったのである。
「は……?じ、自滅した……!?Sランクの魔物を含めた大群が、ただの壁にぶつかって一瞬で全滅だと……!?」
唖然として開いた口が塞がらないアリサ。
その時、ふんわりとしたベッドの中から、アルトの呑気なあくび声が聞こえてきた。
「むにゃ……アリサさん、どうしました〜?なんか外で大きな音がしましたけど……」
「あ、いや……魔物の群れが襲撃してきたのだが……君の作った壁にぶつかって勝手に全滅した……」
「へぇ、やっぱり柵を作っておいて良かったなぁ。田舎の畑は害獣対策が基本ですからね。それじゃあ、おやすみなさい〜」
すやすやと心地よさそうに二度寝に入るアルト。
「害獣のレベルがおかしいだろぉぉぉ……!!」
静かな魔境の夜に、元Sランク女騎士の虚しいツッコミが響き渡るのだった。
一方その頃——。
最深部から様子を窺っていた伝説の赤竜は、要塞の圧倒的な防御力を目撃して「……あ、あの壁に突っ込むのは絶対にやめよう」と冷や汗を流して固まっていた。




