『神聖イチゴ大福と、大物物々交換』
「全軍——放てぇぇぇぇぇっ!!」
空を覆うエルフの空中魔導戦艦隊と、地上を埋め尽くす王国軍・魔王軍の連合軍。
三大勢力の全火力が、一斉に『アルト農園村』へ向けて放たれた——まさにその瞬間であった。
(((((ふわり……!!)))))
村の中央から、ぽかぽかとした温かな風が吹き抜けた。
風とともに漂ってきたのは、出来立ての香ばしいおモチの匂いと、甘酸っぱい神聖イチゴ、そしてとろけるようなメープルシロップの芳醇な香りであった。
「ぬ……っ!? な、なんだこの匂いは……!?」
「鼻腔を刺激する、この至高の甘みと果汁の香りはぁぁぁ!?」
あまりの香りの高さに、魔法陣を構えていた兵士たちの集中が一瞬で乱れた!
さらに、アルトが特製の『土製蒸し器』から取り出したのは、真っ白でフワフワのおモチであった。
中に包まれているのは、甘みと酸味が弾ける神聖イチゴと、先ほど煮詰めたばかりの至高のメープルシロップである。
「はい、みんな遠くからありがとう〜! あつあつのイチゴ大福だよ〜!」
アルトが【土いじり】の微風に乗せて、ホカホカの『神聖イチゴ大福』を全軍の頭上へ向けてふわりと飛ばした。
ポスッ、ポスッ、ポスッ。
空中戦艦の甲板へ、そして地上で剣を構えていた兵士たちの手元へ、吸い込まれるようにイチゴ大福が収まっていく。
「な、なんだこの柔らかい物体は……!? 敵の未知の兵器か!?」
エルフの総司令官が、慎重に手に持ったイチゴ大福を見つめる。
だが、手元から伝わるモチモチとした感触と、溢れ出る甘い香りに、極寒の行軍で疲れ切っていた胃袋が「グゥ〜〜〜ッ!」と盛大に鳴り響いた。
「くっ……! 毒であったとしても、この香りの前には抗えんっ!」
総司令官は意を決し、イチゴ大福へ豪快に噛みついた!
(((((ドッカァァァァァァン!!!!)))))
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!??!?」
総司令官の全細胞に、至高の雷撃が走り抜けた!
おモチは赤ちゃんの肌のようにふわっふわでモチモチ!
中から弾け飛んだ神聖イチゴのジュースと、芳醇なシロップの甘みが黄金比率で混ざり合い、口いっぱいに広がっていく!
「美味い……! 美味すぎるぞなにこれぇぇぇぇぇ!!」
「一口で全身の疲労が吹き飛び、枯渇していた魔力が爆発的にみなぎってくるぞ……っ!!」
甲板の上で、イチゴ大福を貪り食うエルフたち!
地上でも、王国軍と魔王軍の兵士たちが膝をつき始めていた。
「なにこれぇぇぇっ!? 争っている場合じゃない美味さだぁぁぁっ!!」
「……待て。我らは一体何のために、こんな素晴らしいおやつを作る村を攻撃しようとしていたのだ?」
エルフの総司令官が、ハッと正気に戻った。
「そうだ……! こんな至高の食べ物を作るお方を倒すなど、世界の損失以外の何物でもないっ!」
王国軍と魔王軍の軍団長たちも、深くうなずいた。
「我らが求めていたのは、覇権や争いなどではない……この一口の至福だったのだ!」
「全軍——武器を収めよ!」
「自分たちの国から持ってきた『特産品』を取り出すのだぁっ!」
兵士たちは一斉に剣や魔法陣を収めると、遠征用に持参していた自国の名産品や珍しい種、綺麗な鉱石を自発的に持ち寄った。
エルフ族は「森の秘伝の種」や「月銀の絹織物」。
王国軍は「最高級の鍛冶道具」や「紅茶の葉」。
魔王軍は「黒土に利く魔界の鉱石肥料」や「珍しい香辛料」。
「アルト殿! 我らの特産品と、そのイチゴ大福を物々交換させてくだされぇっ!」
「「「「おねがいしますっ!!」」」」
「わぁ〜! すっごいお土産がたくさんだねぇ!」
「これでまた新しいお野菜や道具が作れるよ、ありがとう〜!」
アルトが笑顔で応じると、村の広い芝生で『第1回・世界特産品物々交換会』が開催された。
兵士たちも将軍たちも、敷物を広げて車座になり、和気あいあいとイチゴ大福とお茶を楽しみながら、自国の自慢話や交易の相談に花を咲かせたのだった。
「がははっ! 今後は我が国から毎月、特産品を運んで物々交換させてもらうぞ!」
「我がエルフの国も、最高の木材と種を定期的に提供しよう!」
戦いにやってきたはずの三大勢力は、アルトの村と正式な『定期物々交換同盟』を結び、それぞれお土産のイチゴ大福箱を大切に抱えて、笑顔で自国へ帰還していったのだった。
◇
その日の夕方。
縁側でお茶をすするアリサが、遠ざかる全軍の後ろ姿を見送る。
「……世界中の大軍勢がやってきて、結局ただの『物物々交換』で平和に終わっちゃったわね」
「フフ、アルト様の作られた温かいおやつと無欲なお心が、世界中の架け橋になってしまいましたわね」
ルナリアが嬉しそうに微笑む。
膝の上のミニシロと肩の上のミニポチも、イチゴ大福を口いっぱいに頬張って幸せそうに喉を鳴らしていた。
「しろも、このイチゴのお餅が大好きなのです♪ あうぅ♪」
「おいらもおかわりなんだぞ〜!」
こうして『アルト農園村』は、全世界が平和に交易を求める『神々の絶対聖域』として、永遠に語り継がれることになったのだった。
アルトの足元にある温かい黒土と、どこまでも無自覚なスローライフは、これからも世界中にたくさんの笑顔と幸せを届けていくのだった。
アリサ:
「(コタツでイチゴ大福を食べながら)……ふぅ、世界中の大軍勢まで一瞬で物々交換相手になっちゃうんだから、本当に恐ろしい村ね」
ルナリア:
「フフ、アルト様の温かいお心が、世界中の人々の心を結びつけたのですわ!」
「読者様の皆様、これまで温かい応援を本当にありがとうございましたわ!」




