『更生した問題児と、広がる神域ネットワーク』
「はいっ! 本日の『アルト農園村通信』、全土へ配信完了いたしましたわ!」
爽やかな秋晴れが広がる『アルト農園村』。
案内所の前で、作務衣を着こなした元聖女セシリアが、弾けるような笑顔で『土の通信板』を掲げていた。
隣では、元引きこもり魔導士のノエルが、手慣れた手つきで粘土板の魔導回路を調整している。
「ふっ、僕の天才的な魔導理論と、アルト様の神聖な土の波動が融合した『土の通信板ネットワーク』……完璧な出来栄えですね」
かつて外界で「手に負えない問題児」と扱われていた二人の姿は、そこにはなかった。
泥にまみれて汗を流し、至高の神聖野菜を味わった二人は、すっかり『アルト農園村』の熱烈なファン……いや、優秀な広報部員として生き生きと活躍していたのだ。
「ふぅ〜、二人とも朝からご苦労様だねぇ」
縁側の特製『土製コタツ』から顔を出したアルトが、甘い『神聖みかん』とお茶を差し出す。
「アルト様! ありがとうございますっ!」
「今日のみかんも甘みが凝縮されていて至高の味ですわ!」
二人は行儀良くお辞儀をすると、美味しそうにみかんを頬張った。
セシリアの肌は、神聖な野菜と温泉のおかげで透き通るような美肌になり、ノエルも健康的で引き締まった顔つきになっている。
「二人が作ってくれた通信板のおかげで、村の連絡もすごく便利になったよ」
「ええ、外界の勇者様や魔王様も、毎日おすすめレシピを楽しみにしているようですしね」
給仕長のルナリアが、笑顔でお茶を注ぎ足した。
◇
しかし、その頃。
外界の王国宮殿では、不気味な静けさが破られようとしていた。
「フフフ……。例の問題児二人を押し付けてから数日。そろそろ過酷な開墾作業に音を上げ、許しを請うてくる頃だな」
王宮の首脳陣が、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら、通信用の魔導鏡を覗き込んだ。
だが——鏡に映し出されたのは、首脳陣の想像を絶する衝撃の光景であった!
『アルト農園村通信:第5号』
『本日のおすすめ:土窯焼き芋と、汗を流す歓びについて』
『執筆:元聖女セシリア & 天才魔導士ノエル』
「外界の愚かなバカどもへ! 愚かにも泥仕事を嫌っていた昔の自分を恥じるがいい!」
「アルト様の神聖な土を耕し、汗を流すことこそが真の至福! 王宮の腐った権力闘争など子どもの遊びですわ!」
「僕たちの最高に幸せなスローライフと、神聖野菜の素晴らしさを全世界に全自動配信してあげるよ!」
「な、なにが起きておるのだぁぁぁぁぁっ!?」
王宮の首脳陣は、目玉が飛び出さんばかりに驚愕し、絶叫した!
「更生どころか……完全に神域の信者になっておるではないかぁぁっ!?」
「しかも我が国の王宮や各国の城へ、勝手に『農業の素晴らしさ』が毎日全自動配信されておるぞ!?」
「やめろぉぉ! 国臣たちが仕事を放り出して家庭菜園を始めてしまうぅぅっ!!」
自分たちが不法投棄したはずの問題児によって、逆に王宮の価値観が根底から破壊され、首脳陣は泡を吹いて次々と倒れて行ったのだった。
◇
一方、その日の夜の『アルト農園村』。
大食堂では、更生した二人の歓迎と、通信板の完成を祝う大宴会が催されていた。
専属シェフのマルクが作った熱々の『神聖ポトフ』や『特製土鍋ご飯』が並び、村中の住人が笑顔で乾杯を交わす。
「がははっ! ノエル、明日からは俺様の『神域鍛冶工房』で農具の強化を手伝えよ!」
ドワーフのバランが豪快に笑い、ノエルの肩を叩く。
「ええ、僕の魔導理論で最高の農具を作りましょう!」
「私にも、皆様のための美味しい朝食の準備を手伝わせてくださいませ!」
すっかり仲間として溶け込んだ二人の姿に、アリサも呆れつつ笑みをこぼした。
「まったく……。最初はどんな問題児かと思ったけど、すっかり立派な農夫になっちゃって」
「みんなでワイワイ作業するのって、やっぱり楽しいからねぇ」
コタツでぬくぬくしながら、アルトがのほほんと微笑む。
アルトの足元にある温かい土と、無自覚な優しさが、またしても世界を平和で包み込んだのだった。
だがしかし、
『土の通信板』を通じて全世界へ配信された『アルト農園村通信』の噂は、寒波に揺れる外界の遠方へと、さらに深く浸透していた。
「……絶対不可侵の神域、そして奇跡の農地か」
「我が国の運命を賭けて、あの村へ赴くとするか……」
未知の大物たちが、それぞれの思惑を胸に『アルト農園村』を目指して動き出そうとしていることなど、アルトたちはまだ知る由もなかった——。




