更生作業(農業)と、匿名掲示板』
「くっ……! なぜ僕のような天才魔導士が、こんな泥だらけの畑でクワを振るわなきゃいけないんだ……!」
作務衣姿の青年ノエルが、文句を言いながらクワを地面へ打ち下ろしていた。
「そうですわよ! 聖女であるこの私に泥仕事をさせるなんて、全員バチが当たりますわ!」
隣では、同じく作務衣姿の元聖女セシリアが、額の汗を拭いながらキーキーと声を張り上げている。
二人は『アルト農園村』へ不法投棄されて以来、朝から畑の開墾作業をさせられていたのだった。
「はい、二人ともお疲れ様〜!」
「甘い『神聖みかん』とお茶を持ってきたから、休憩にしようか!」
アルトがニコニコと笑顔で、籠に入ったみかんとお茶を運んできた。
「ふんっ! たかがみかんごときで誤魔化され……んんっ!?」
一口かじったノエルとセシリアの目が、驚愕で見開かれる!
甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がり、身体の疲れが一瞬で吹き飛んでいったのだ。
「な、なにこれぇぇぇ!? 身体の奥から魔力と元気が湧き出てくるんだけど!?」
「美味いですわ……! 格式高い王宮のどんな極上スイーツより美味ですわ……!」
口いっぱいにみかんを頬張る二人。
その横で、アルトは『土の通信板』をぽちぽちと弄っていた。
「アルト、それは昨日作っていた『土の通信板』ね?」
アリサが縁側でお茶を飲みながら声をかける。
「うん! 村のみんなに配ったんだけど、なんだか変な文字がたくさん浮かび上がってくるんだよね」
「……変な文字?」
気になったノエルが、みかんを噛み締めながら板を覗き込んだ。
「ふん、通信板なんて僕の天才的な魔導知識からすれば……って、なんじゃこりゃぁぁぁっ!?」
ノエルが叫んだ!
通信板の表面には、見慣れぬ文字で埋め尽くされた『謎の匿名掲示板』が形成されていたのだ!
実は、アルトの権能【土いじり】で作られた通信板は、地脈を通じて世界中の古代土壁や、王宮・魔王城の粘土壁と勝手にネットワーク接続してしまっていたのである。
『スレッド:【悲報】寒波で王宮の暖炉が凍結したんだがwww』
板の表面には、匿名で書き込まれた凄まじい口論が躍っていた。
『名無しさん@光の聖剣』:
「王宮の暖房が全部凍結して凍死寸前なんだが? 上層部はマジで無能すぎるだろwww」
『名無しさん@漆黒の魔王』:
「ハッ! 人間の王宮など雑魚よ! 我が魔王城の魔導炉……も寒波で完全停止したわくそがぁぁぁっ!!」
『名無しさん@光の聖剣』:
「お前魔王側かよwww お互い部屋で震えてて草www」
『名無しさん@漆黒の魔王』:
「黙れ人間! 貴様らこそ毛布にくるまってガタガタ震えているくせにイキるな!」
『名無しさん@光の聖剣』:
「は? こっちには特製湯たんぽがあるし! 負けてねーし!」
◇
「な、なんだこの不毛すぎるレスバはぁぁぁっ!!??」
ノエルが頭を抱えて絶叫した!
「文章に漂うかすかな魔力波形……! これ、外界で睨み合ってる『勇者』と『魔王』の本物じゃないか!?」
「まあ! 世界のトップ同士が、匿名だからって小学生みたいな口論を繰り広げておりますわ……!」
セシリアも呆れ果てて白目をむいた。
極寒に耐えかねた外界の勇者と魔王が、奇跡的に繋がった匿名の裏掲示板で、不毛な煽り合いを繰り広げていたのだ。
「みんな、寒くて部屋から出られなくて退屈なのかなぁ?」
アルトはのほほんと呟くと、手元の通信板に指で文字を書き始めた。
「おいアルト! 殺気立ってる裏スレに何を書こうとして……」
ノエルが制止するより早く、アルトが新しいスレッドを投稿した。
『スレッド:【ほのぼの】美味しいイモの育て方と、あつあつ焼き芋の作り方【初心者歓迎】』
『1:アルト』:
「寒波で大変ですね! 土をしっかり耕して美味しいイモを育てると、身体もぽかぽか温まりますよ〜。質問があれば何でもどうぞ!」
殺伐としたレスバが荒れ狂う匿名掲示板に、突如として投げ込まれた圧倒的に平和な『イモ育成スレ』!
しかし、アルトが書き込んだそのスレッドからは、地脈を通じて通信板全体へ、信じられないほどの『至福の聖気』と『甘い香り』が溢れ出し始めていた。
『名無しさん@光の聖剣』:
「……ん? なんだこのスレ……?」
『名無しさん@漆黒の魔王』:
「画面から……焼き芋の甘い香りが漂ってきたぞ……!?」
殺気立っていた勇者と魔王の画面に、異次元の癒やしスレッドがポップアップしたのだった!?




