『頑固ドワーフの弟子入りと、地熱コタツの大宴会』
「はぁ〜……。どこに行っても、お部屋の中がぽかぽかだねぇ」
地底パイプラインの開通から、数日。
『アルト農園村』は、どこへ行っても極上のぬくもりに包まれていた。
アルトが【土いじり】で敷設した地底パイプラインのおかげで、村中の土壁住宅に快適な『床暖房』が行き渡ったのだ。
「もう……。コタツから出られないどころか、家の中から出られなくなるわよ……」
縁側で特製『土製コタツ』に入りながら、アリサが幸せそうにうっとりとため息をつく。
膝の上では子犬姿のミニシロが丸くなり、肩の上ではミニポチが気持ちよさそうに羽を休めていた。
「アルト様の優しさが、村全体を温めているのですわ」
ルナリアが笑顔でお茶を注ぎ、和やかな時間が流れていた——まさにその時である。
(((((ドスドスドスドスッ!!)))))
「おいこらぁぁぁぁっ!! どこだぁっ!? この地底から恐ろしいほどの爆熱と神気を出している奴はぁぁぁっ!!」
地響きのような足音とともに、赤ヒゲをたくわえた小柄な頑固親父が、巨大な鍛冶ハンマーを担いで怒鳴り込んできた!
「まあまあ、落ち着いてくださいおじさん」
アルトがニコニコしながら、コタツから顔を出す。
やってきたのは、近隣の山々で伝説と称されるドワーフ族のおさ、鍛冶職人のバランであった。
バランは猛烈な勢いでまくしたてる。
「落ち着いていられるかぁっ! 俺様は数里先から、この地底を流れる尋常じゃない熱気を感じて飛んできたんだ!」
「俺様たちドワーフが何百年も追い求めてきた、完全なる温度制御と高熱を両立する『伝説の神炉』が、なぜこんな場所にあるんだぁっ!?」
バランの目は、本気そのものだった。
職人としてのプライドから、自分の火を凌駕する熱気の正体を確かめに来たのだ。
「神炉なんて大げさなものじゃないですよ?」
「地熱を通した土炉で、美味しいサツマイモを焼いていただけですから」
アルトはそう言って、コタツの脇にある土鍋の蓋を開けた。
ほわっ……!
中からあふれ出してきたのは、蜜が溢れる黄金色の『神聖サツマイモの焼き芋』の香ばしい匂いであった。
「ぬ……っ!? な、なんだこの匂いは……!?」
バランの鼻がピクピクと動く。
アルトは笑顔で、焼き立てのホカホカな焼き芋をバランへ手渡した。
「お腹すいてるでしょ? どうぞ!」
「ふんっ! たかが焼き芋ごときで、この俺様がごまかされると……」
バランは文句を言いながらも、一口ガブリと噛みついた。
(((((ガツン!!!!)))))
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!??!?」
バランの目が、こぼれ落ちんばかりにカッと見開かれた!
「皮はパリッと香ばしく、中はトロトロのクリームのように甘い!」
「さらに、食べた瞬間に身体の底から全盛期以上の体力が湧き上がってくるではないか!」
「な、なんだこの焼き加減はぁぁぁっ!?」
「表面を焦がさず、芯まで完璧に均一な高熱が通っている……!」
「こんな芸当、炎の精霊王でも不可能な神業だぞ!?」
「あ、それならこの『神涼土』で出来た土炉のおかげですよ」
アルトが庭の隅にある土炉を指さす。
熱を一切外に逃がさず、中の温度を完璧に保つ土器であった。
バランは土炉へ駆け寄り、ペタペタと触ると——衝撃のあまり、その場に膝をついた。
「あ、あり得ん……! 炉自体が熱を記憶し、育てる土だと……!?」
「俺様が一生をかけても到達できなかった至高の炉が、こんなところにあるなんて……っ!!」
バランは職人としての敗北を悟ると同時に、魂が震えるほどの感動に包まれた。
「頼む……! 頼む、アルト殿ぉぉぉっ!!」
バランは地べたに頭をこすりつけ、大声で叫んだ!
「俺様を弟子にしてくれっ! いや、この村に俺様の工房を作らせてくれぇっ!!」
「この土炉と地熱があれば、世界最高の武具も、至高の農具も思いのままだ! 生涯をかけて、ここで腕を振るいたいんだぁぁっ!」
「えっ? 鍛冶屋さんになってくれるんですか?」
「クワやジョウロの修理をしてくれたら、すごく助かります!」
アルトが快諾すると、バランは涙を流して感謝した。
「よし! さっそく『鍛冶工房』を建てさせてもらうぞぉっ!」
大喜びのバランを迎え入れ、その日の夜は村全体で『地熱コタツの大宴会』が開催された。
マルクが腕を振るった熱々の鍋料理を囲み、エルフも、元四天王のヴァルザックも、ドワーフのバランも、みんなで肩を組んで乾杯した。
「がはははっ! 最高の料理、最高の土炉だぁっ!」
バランもすっかりコタツと神聖料理の虜になり、豪快に笑っていた。
こうして『アルト農園村』に、また一つ頼もしい施設と仲間が増えたのだった。
だがしかし。
大寒波を乗り越え、世界を揺るがすほどの地熱と聖気を放つ『絶対不可侵の聖域』の噂は、外界の遠方へと広がり続けていた。
寒波によって各地で混乱が起きる中、外界の権力者や首脳たちは、ある怪しい思いつきを抱き始めていた。
「あの奇跡の聖域ならば……我が国で手に負えない『あの問題児たち』も、なんとかしてくれるのではないか……?」
不穏な企みが外界で動き出していることなど、コタツでぬくぬく過ごすアルトたちは、まだ知る由もなかった。




