『湯気の中の不審者』
「全軍——構えぇぇぇぇっ!!」
地底パイプラインの交差点。
暗闇の中で、王宮親衛隊のゼノ率いる王国軍と、魔王軍の特使率いる暗殺部隊が、剣と魔法を構えて睨み合っていた。
互いに歴史的大寒波で身体は凍りつき、唇を紫に震わせている。
極限の緊張感の中、世界の命運を分ける地底大戦争が爆発しようとした——まさにその時であった。
(((((シューーーーーーーーッ!!)))))
パイプの奥から、轟音とともに真っ白な爆熱の湯気が噴き出してきた!
「な、なんだこの猛烈な湯気と熱気はぁぁぁ!? 視界が真っ白だぞ!?」
吹雪で凍りついていた兵士たちの甲冑や装束から、氷が一瞬で溶け落ちていく。
氷点下だった地下水路は、ほんの数秒で春のような……いや、極上の温泉のような心地よいぬくもりで満たされた。
さらに。
湯気とともに、ふわり……と鼻腔をくすぐる香りが漂ってきた。
「む……!? なんだこの香りは!?」
「小麦の香ばしさと、溢れ出る芳醇な肉汁の匂い……!?」
パイプの傾斜から、コロンコロン……とホカホカの湯気を立てる『白い物体』が転がり落ちてきた。
地上ではアルトが「あつあつパイプライン開通記念に、みんなで肉まんを蒸したんだ! パイプの試運転ついでに余った分も下に届くように流しておこう〜!」と、特製セイロで作った『神聖肉まん』を投入していたのだが——。
地底の兵士たちは、そんなこととは知る由もない。
「隊長! 湯気の中から謎のホカホカした物体が大量に流れてきます!」
「油断するな! 敵の未知の爆導兵器かもしれんぞ!」
慎重に剣の先で突っつくゼノ。
だが、手元から伝わるモチモチとした柔らかさと、脳を痺れさせる甘く香ばしい肉汁の香りに、限界を迎えていた胃袋が「グゥ〜〜〜ッ!」と盛大に鳴り響いた。
「くっ……背に腹は代えられん!」
「毒であったとしても、この極寒で餓死するよりはマシだっ!」
ゼノは意を決し、湯気立つ白い物体——『神聖肉まん』へ豪快に噛みついた!
(((((ドッカァァァァァァン!!!!)))))
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!??!?」
ゼノの全細胞に、至高の雷撃が走り抜けた!
皮はふわっふわでモチモチ!
中から溢れ出してきたのは、アルトの【土いじり】で育った神聖野菜と、極上ハーブを食べて育った神聖豚の旨味が凝縮された、とろけるような熱々の肉汁だ!
「美味い……! 美味すぎるぞなにこれぇぇぇぇぇ!!」
「一口で凍え切った身体が芯から温まり、枯渇していた魔力が爆発的にみなぎってくるぞ……っ!!」
「なに!? 隊長、自分にも一口……んんん〜〜〜〜っっ!!?? うまあぁぁぁい!!」
あまりの美味さに涙を流して肉まんを貪り食う王国軍!
それを見た魔王軍の特使も、耐えきれずに肉まんを頬張り——。
「な、なんじゃこの至高の食べ物はぁぁぁ!?」
「我が魔王城の最高級肉料理すら子ども騙しに見えるほどの美味さじゃぁぁぁっ!!」
崩れ落ちて大号泣を始めた!
さらに、パイプラインから溢れ出た万病を治す霊泉(温泉)が、地底の窪みに溜まって『極上の地下露天風呂』を形成していた。
「熱々の温泉だぞー! 飛び込めぇぇっ!」
「脱げ! 甲冑も服も脱ぎ捨てろぉぉっ!」
戦意を完全に喪失した両軍の兵たちは、重い防具を脱ぎ捨て、全裸で温泉の中へダイブした!
「「「「はぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜……極楽じゃあぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」」」」
熱々の温泉に肩まで浸かり、手に持った『神聖肉まん』をハフハフと頬張る兵士たち。
湯気の中で、ゼノが隣に浸かっていた魔王軍特使へ、ぽつりと呟いた。
「……おい魔王軍。我らは、一体何のために剣を交えようとしていたのだ?」
「……わからん。こんな至高の温もりと肉まんがあるというのに、戦争などしている場合ではないな……」
二大勢力のトップが、全裸で温かな湯船の中で固く握手を交わした。
「本日ここに……王国と魔王軍は『地底肉まん不可侵和親条約』を結ぶものとする!」
「異議なし! 今日から我らは、この地底温泉と肉まんを愛する湯仲間だぁぁっ!」
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」
世界を二分する全面戦争の危機は、アルトの差し入れた『神聖肉まん』と温泉の前に、一瞬で完全和解という形で氷解したのだった。
その頃、地上の縁側では。
「ふぅ〜、パイプの蒸気抜きも上手くいったし、肉まんも美味しく蒸し上がって良かったなぁ」
アルトがコタツに入りながら、のほほんと『神聖みかん』を味わっていた。
「……アルト。地底から響いていた殺気が、急に『歓声と多幸感』に変わったんだけど、下に何を流したの?」
アリサが呆れ顔でお茶をすする。
「え? 余った肉まんを少しパイプに詰まらないように流しただけだよ?」
「また無自覚に世界平和を達成してるわねこの人……」
ルナリアが笑顔で頭を抱える横で、膝の上のミニシロと肩の上のミニポチも、熱々の肉まんをハフハフと美味しそうに頬張っていた。
しかし。
地底から溢れ出したこの異次元の地熱と、神聖な聖気の噂は、寒波に苦しむ外界の遠方へと静かに広がり始めていた。
魔境の深部や外界から、この至高の温もりを求めて新たな大物たちが動き出そうとしていることなど、アルトたちはまだ知る由もなかった。
アリサ:
「(コタツで肉まんをかじりながら)……ふぅ、温泉の熱と肉まんの組み合わせも悪魔的ね!」
「地底で戦争を起こしかけていた連中も、すっかり骨抜きになって和解したみたいだわ」
ルナリア:
「フフ、アルト様の温かいお心遣いが、世界を平和にしてしまいましたわね!」
「読者様、最新話ページ下部の【小説の関連情報を見る】より【☆で称える】や【作品フォロー】で応援をお願いいたしますわ!」
ミニポチ:
「おいらたちのあつあつな活躍を応援してなのだぞ〜!」




