『交差する脅威』
「んぁ〜、やっぱりコタツは最高だねぇ」
秋の冷気が忍び寄る『アルト農園村』。
縁側に作られた特製『土製コタツ』の中で、アルトは甘酸っぱい『神聖みかん』を味わいながら、幸せそうに目を細めていた。
「ふにゃぁ……。本当に、この温もりは悪魔的だわ……」
隣では、元Sランク冒険者のアリサが、完全に脱力した様子でコタツに突っ伏している。
アルトの膝の上では、子犬姿のミニシロが心地よさそうに喉を鳴らしていた。
「でもね、みんな」
アルトはぽんと手を叩いた。
「僕たちだけがコタツで温まるのも申し訳ないじゃない?」
「村のみんなのお家にも、温泉の熱を届けてあげたいんだよね」
「……温泉の熱を、村中に?」
給仕長のルナリアが、湯呑みを手に首をかしげた。
「ええ!【土いじり】で地底深くにパイプラインを掘って、あつあつの地熱とお湯を通せば、全戸が『床暖房』になるでしょ?」
「……ちょっと待ちなさいアルト」
伏していたアリサが、ガバッと顔を上げた。
「地底深くに温水パイプラインを敷くって……それ、国家規模の大工事どころの話じゃないんだけど!?」
「大丈夫ですよ!」
「埋設用の土管を作って、ザクザク掘るだけですから!」
アルトは笑顔で愛用のクワを握りしめると、庭の隅の黒土へと向かった。
「よし、あつあつパイプラインになぁれ!」
アルトが気合を込めて、クワを地面へ打ち下ろした。
カツン!
次の瞬間——ズズズズズズズズズッ!!
「「「「な、なに事じゃあぁぁぁぁぁ!!???」」」」
大地が激しい地鳴りを上げた!
アルト本人は「庭に少し深めの溝を掘る」くらいのつもりだった。
だが、彼の権能【土いじり】が放つ神なる力は、地底数千メートルの古代硬質岩盤すら、豆腐のように滑らかに押し分けていく。
『神涼土』でコーティングされた極厚の耐熱土管が、網の目のように地底深くへと貫通した。
万病を治す霊泉の熱気と湯気が、爆発的な勢いで地底パイプラインへと流れていく。
「よしよし! これで村全体がぽかぽかになるぞ〜!」
汗をサッと拭い、満足そうに頷くアルト。
だが、無自覚な神チートの掘削能力は、アルトの想像をはるかに超える『深さ』と『長さ』に達していた。
地底深くを突き抜けたパイプラインは、外界へと繋がる古代の地下水路網にまで、勢い余って開通してしまっていたのだ。
その頃——外界では、歴史的な超大型大寒波が吹き荒れていた。
「ぐっ……ぬああああっ!? さ、寒い……寒すぎるぞぉっ!!」
王国の地下水路。
吹雪で凍りつきかけた王宮から逃げ延びるため、調査隊を率いて地下へ潜っていた王宮親衛隊の地下調査隊長ゼノは、歯をガチガチと鳴らして震えていた。
「隊長! 宮殿の暖炉すら凍結しました!」
「地下なら少しはマシかと思いましたが、これでは全滅です……!」
「黙れ! わずかでも暖気のある場所を探すのだ!」
「このままでは王国が滅び……ぬ?」
ゼノが言葉を失った。
暗闇の地下水路の奥から、ブワッ……と温かな蒸気と、信じられないほどの『高貴な熱気』が漂ってきたのだ。
「な、なんだこの暖かさは……!?」
「氷点下の地下で、春のような温もりが溢れ出しているぞ!?」
「隊長! 奥に巨大な『謎のトンネル』が開通しています!」
「よし、全軍進め!」
「暖気の源を突き止めるのだ!」
必死の思いで湯気の溢れる地底トンネルへと突入する王国軍。
だが、同じ頃。
反対側の地下水路からも、暗雲のような集団が迫っていた。
「くっ……我が魔王城の魔導炉すら凍りつくだと……!?」
「不覚……不覚だぞ……っ!」
極寒に耐えかね、地下へと逃げ込んできた魔王軍の特使と暗殺部隊である。
「特使様! 前方に謎の爆熱反応!」
「地底に巨大な要塞構造が出現しております!」
「何だと!? 敵国の電撃地下侵略か!?」
「逃がすな、全軍突撃だぁぁっ!」
そして——地底の巨大パイプラインの交差点。
ポカポカとした熱気と湯気が立ち込める暗闇の中で、外界の二大勢力が、バッタリと正面から鉢合わせした!
「「「「な、何奴ぉぉぉぉぉぉっ!!???」」」」
暗闇に響き渡る、双頭の絶叫!
「ま、魔王軍の精鋭だと!?」
「貴様ら、我が王国を地底から急襲するつもりだったのか!?」
「ぬかしたな王国の犬どもめ!」
「貴様らこそ、この地下要塞で何を企んでいるのだ!?」
ジャキンッ!!
暗闇の地下水路で、無数の剣と魔法の光が交錯する!
互いに歴史的大寒波で極寒の極限状態。
そこへ現れた『地底の謎の超巨大温水インフラ』を前に、双方が「相手国が極秘に建設した兵器」だと強烈に大勘違いを起こしたのだ!
「おのれ……この地下要塞を渡せば、我が国は凍死して滅びる!」
「力ずくで奪い取るぞ!」
「渡すものか!」
「全軍、死力を尽くして敵を撃滅せよぉぉぉっ!」
一触即発!
世界を二分する二大国家の全面戦争が、地底の暗闇の中で今にも爆発しようとしていた!
しかし、そんな殺気立つ戦場の頭上から、ふわりと香ばしく甘い湯気の香りが漂い始めていた。
アルトが地下作業の合間に、地上でみんなと準備し始めた『ある温かい差し入れ』の香りが、知らず知らずのうちにパイプラインを伝って降りてきていたのだが——。
両軍の兵たちは、迫りくる戦争の恐怖と緊張に呑まれ、まだその奇跡の香りに気づいていなかった。
「全軍——構えぇぇぇぇっ!!」
果たして、世界の命運を分ける地底大戦争の行方はどうなってしまうのか——!?




