『ポッカポカの土製コタツと、極寒の二大国家』
「うう、今朝は急に秋風がヒエヒエしてきたねぇ」
秋が深まり、朝の空気にピリッとした冷気が混じり始めたある日のこと。
庭の縁側で作業をしていたアルトは、身を縮めながら小さく息を吐き出した。
【土いじり】で快適に保たれている神域農園だったが、季節の移り変わりとともに少しずつ肌寒さが忍び寄っていた。
「みんなが風邪を引いたら大変だし、足を温められる家具を作ってみようか」
アルトは【土いじり】を発動し、地熱を優しく吸収・蓄熱する特殊な断熱土を手際よく練り上げた。
四角いテーブル状に土を形作り、中に微弱な熱を放つ炭をセットして、ふわふわの土染め毛布を被せる。
さらに仕上げとして、以前収穫して熟成させておいた黄金色の『神聖みかん』を、竹かごにいっぱいに盛って中央に置いた。
「ふぅ、特製『土製コタツ』の完成! さっそく入ってみようか」
アルトが足をコタツの中に滑り込ませると、まるで陽だまりに包まれているかのような心地よい温もりが全身へと広がった。
「んぁ〜〜、ポッカポカで極楽だなぁ……」
「アルト様! 『温かい足入れテーブル』を作られたとお聞きして……って、な、なんですのこの悪魔的な心地よさはぁぁ!?」
給仕長のルナリアが、勧められて恐る恐る足を潜り込ませた瞬間、あまりの快感に目を丸くして絶叫した。
「ちょっとアルト! 足を入れた瞬間に全身の疲労と緊張が吹き飛んで出られなくなるんだけど!? これ絶対にただの机じゃないわよね!?」
用心棒のアリサも足を潜り込ませるや否や、一瞬で脱力して「ふにゃぁ……」と毛布の上に倒れ込んだ。
「アルト師匠……このコタツは、地脈の熱と聖気を循環させる『古代神級永久温熱結界』にございますぞ! 足元から魔力回路が浄化されていきます……!」
麦わら帽子の大賢者モーリスが、ズリ落ちた眼鏡を直しもせず、感涙を流しながら丸くなっている。
「きゅ〜ぅ♪(おいらもここに入るんだぞ!)」
「あうぅ♪(しろもお膝でぬくぬくするです♪)」
甘い香りに誘われてミニポチがアルトの膝に乗り、ミニシロも足元でふさふさの尻尾を丸めて潜り込んできた。
真珠の池から顔を出したミニクラーケンも、満足そうに触手を温めている。
「あはは、コタツに入りながら食べるみかんは最高なんだよ。はい、どうぞ」
アルトが『神聖みかん』の皮をむくと、果汁が弾け飛んで甘酸っぱい芳香がフワリと広がった。
「んん〜〜っ! コタツの温もりと、冷え冷えのみかんの甘酸っぱさが完璧だわ……! 手が止まらないわ!」
アリサが感涙を流しながら、二個目のみかんへ手を伸ばす。
「……ふふ、アルト様が暖をとられている間に、この技術を応用して村全域に地熱を届ける『全戸地熱暖房計画』を裏で進めましょう」
「ええ、モーリス様。アルト様のスローライフを守りつつ、村をさらに快適にいたしますわ!」
ルナリアとモーリス、そしてアリサが深く頷き合っていた。
しかし、アルトたちがポッカポカのコタツでぬくぬく過ごしているその頃——外界ではとんでもない大惨事が発生していた。
『ゴオオオオオオオオッ……!!』
歴史的な超大型大寒波が極北から到来し、外界の国々は突如として猛烈な吹雪と氷点下の極寒に見舞われていたのだ!
隣国の王宮宮殿では、大暖炉の薪すらカチンコチンに凍りつき、国王や大臣たちが毛布をかぶってガクガクと震えていた。
「な、なんだこの恐ろしい極寒はぁぁっ!? 宮殿の結界すら凍りついているぞ! 我が国が……我が国が凍死して滅びてしまうぅぅ!!」
さらに、遥か遠くの魔王城でも状況は同じだった。
四天王や幹部たちが歯をガチガチと鳴らし、身を寄せ合って悲鳴を上げている。
「くっ……我が魔王城の魔導炉すら凍結しただと……!? この死の寒波に耐えられる者など、この世界のどこに存在するというのだ……っ!?」
世界中の二大国家が絶望の淵に立たされていた。
……だが、そんな外界の悲鳴など露ほども知らず。
「ふはぁ、お外はなんだか風が冷たそうだねぇ」
「ええ、アルト様。コタツとみかんがあって本当に幸せですわね」
アルト農園村だけは、世界樹の聖気とコタツの温もりに守られ、まるで常春の陽だまりのようにポッカポカで平和そのものだった。
「よし! みんながもっと暖かく過ごせるように、温泉の熱を村中に届けるパイプラインを地底深〜く掘ってみようかな!」
アルトは楽しそうに愛用のクワを握りしめた。
一方、寒さに耐えかねた王宮と魔王城の調査隊は、わずかな暖気を求めて地底の地下水路へと必死の思いで潜り始めていた……。
アルトが掘り進める地底パイプライン、一体どのような大騒動が巻き起こるのか——!?




