『露天風呂の宴と、真珠の池の秘密』
「ふはぁ〜、極楽、極楽だねぇ」
秋の月夜の下、湯気が心地よく立ち上る『神聖露天風呂』に浸かり、アルトは気持ちよさそうに目を細めた。
アルトが【土いじり】で地脈を優しく掘り進めて完成させたこの温泉は、肌をつるつるにするだけでなく、疲労を瞬時に吹き飛ばす秘湯だった。
「本当にお見事ですわ、アルト様。海の国の温泉とは比べものにならないほどの効能と心地よさですわ……!」
人魚姫のコーラと侍女長ルチア、指示を受けた人魚侍女団の面々が、湯船の中で気持ちよさそうに尾ひれをたゆたわせ、うっとりと頬を染めている。
「ふふ、昨夜無事に警備隊長をお迎えしましたからね。今夜はこうして気兼ねなく宴を開くのに絶好の機会でしたのよ」
給仕長のルナリアが手ぬぐいを頭に乗せ、上品に冷やしハーブ茶を口に運ぶ。
「きゅ〜ぅ♪(おいらが温泉の温度をぴったりに保ってあげるんだぞ!)」
湯船の脇では、ミニドラゴンとなったミニポチが口から小さな可愛らしい炎を吐き出し、絶妙な湯加減をキープしていた。
足元ではミニシロがふさふさの尻尾を振りながら、見張り兼モフモフ担当としてお湯の周りを可愛らしくトコトコと巡回している。
その時だった。
『ぽこぽこぽこ……っ』
露天風呂のすぐ隣にある真珠の池から水面が揺れ、巨腕をたたんだミニクラーケンがひょっこりと顔を出した。
その触手には、見る者すべての目を奪う色鮮やかな黄金と七色に輝く『神聖真珠』が、いくつも抱えられていた。
「きゅ〜♪(アルト、綺麗な石を底から掘り当てたぞ!ご褒美のおやつほしいんだぞ!)」
「わあ、すごい!池の底の土を掃除してくれたんだね。ありがとう、ミニクラーケン!」
アルトが無邪気にその真珠を受け取ると、ルチアとコーラ姫が目を見開いて叫んだ。
「な、なんですかその規格外の真珠は!?伝説の神聖真珠が、なぜそんなゴロゴロと採掘されているのですの!?」
「あはは、ただの綺麗な底石だよ。よし、みんなでお風呂上がりの温かいご飯にしよう!」
アルトは【土いじり】で耐熱の土を捏ね上げ、幾層にも重なる『特製土製蒸し器』を一瞬で組み上げた。
中には、採れたての神聖サツマイモや甘い野菜、海の国から届いたプリプリの神聖エビがぎっしりと並べられている。
下から立ち上る熱々の蒸気が、素材本来の甘みと濃厚な香りを湯気とともに周囲へ溢れ出させた。
「お待たせいたしました。私の仕込んだ特製柑橘塩ダレでございます」
専属シェフのマルクが手際よく小皿を配ると、用心棒のアリサが目を輝かせて真っ先に手を伸ばした。
「んん〜〜っ!蒸したての甘みが口いっぱいに広がって……温泉上がりの体に染み渡るわ……!この旨味、手が止まらないわ!」
屋根の上では、漆黒の装束に身を包んだ警備隊長クロウが、気配を殺しながら鼻をヒクヒクさせていた。
(ぬぬぬ……屋根の上まで届くこの芳醇な湯気と旨味の香り……忍びの修業など吹き飛んでしまうル……!)
「クロウさ〜ん!屋根の上は寒いでしょう?蒸したてのサツマイモとおエビ、小皿に分けておきましたよ〜!」
アルトが笑顔で手を振ると、クロウは静かに屋根から滑り降り、感涙にむせびながら膝を突いた。
「あ、アルト殿……このような温かいもてなし、拙者の生涯をかけてこの神域をお守りいたしますルぅぅ!!」
こうして、露天風呂と絶品蒸し料理の温もりに包まれながら、神域の夜は賑やかに更けていくのだった。
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「ふふ……秋の夜風が少し冷たくなってまいりましたわね。そろそろアルト様に、あの“身も心もとろける極上暖房家具”を作っていただきましょうか」
月明かりの下、アリサとルナリアが企み顔で微笑み合っていることなど知る由もなく、アルトは温かい布団の中で幸せそうに眠っていた。




