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『暗黒忍者の潜入と、極上松茸の炭火焼き』

「わあ、今日の土は一段といい香りがするぞ!」


澄み渡る秋空の下、アルトは【土いじり】で耕した腐葉土の畝から、ずっしりと重い『何か』を丁寧に掘り起こした。


それは見上げるような大傘と太い軸を持った、極上の黄金色に輝く『神聖松茸』だった。


「な、なんという芳醇で深みのある香気!王宮の最高級食材を全て集めても足元にも及ばぬ、まさに『神の松茸』にございます!」


駆けつけてきた専属シェフのマルクが、プロとしての全誇りを打ち砕かれたように、震える手で松茸を見つめる。


「アルト師匠!この松茸から放出されているのは、古代文献にしか記されていない純粋な『神聖魔素』ですぞ!一息吸い込むだけで魔力回路が浄化されていきます!」


弟子である大賢者モーリスが、興奮で眼鏡をズリ下げながら羊皮紙に猛メモを取る。


「ふはは!我ら魔王軍の秘宝すら霞む恐ろしい威力だな!」


元魔王軍四天王の大魔導士ヴァルザックも、巨体を揺らして深く頷いた。


「あはは、みんな大袈裟だなあ。秋の味覚といえばやっぱり炭火焼きだよ。マルクさん、一緒に焼こう!」


アルトは【土いじり】で特製の土七輪を捏ね上げ、その中に備長炭を焚いた。


網の上に神聖松茸を乗せると、パチパチという心地よい音とともに、ジュワッと旨味の雫が溢れ出し、香ばしい香気が敷地全域に広がっていく。


さらに、先日海の国の侍女長ルチアたちが届けてくれた特製海塩と、柑橘を添えた。


「きゅ〜ぅ♪(すごくいい匂いだぞ!)」


「あうぅ♪(しろにも一口ほしいです♪)」


香りに誘われて、アルトの肩にはミニポチが乗り、足元ではミニシロもしっぽを振って集まってきた。


アルトが少し切り分けてあげると、二匹は「はふはふ」と幸せそうに頬張り、うっとりと目を細めている。


◇


その頃、村を囲む鬱蒼とした森の影から、一筋の不気味な気配が忍び寄っていた。


魔王軍最強の暗殺者、暗黒忍者クロウである。


(フフフ……噂の怪しい開拓地と聞いて乗り込んでみれば、無警戒な農夫と怪しい住民ども。拙者の最高峰の隠密術『影潜みの術』にかかれば、誰にも気づかれずに首を刈ることなど造作もないル……!)


クロウは漆黒の装束に身を包み、気配も足音も完全に消して、屋根の死角へと静かに滑り込んだ。


(……ぬ? あの殺気を押し殺した不気味な気配……まさか暗黒忍者のクロウか? ふはは、相変わらず見事な『影潜みの術』だが……まあ余計な警告は要らんな。あの香りを前にして、奴が正気でいられるはずもない)


実は、元四天王であるヴァルザックだけはクロウの潜入に即座に気づいていたのだが、七輪の松茸から目を切ることなく、心の中で生温かく笑うにとどめていたのだった。


(死角から一瞬で仕留めてくれるル——)


クナイを握り締め、アルトの背後へ跳びかかろうとした……その瞬間だった。


『フワぁぁぁぁん……!』


七輪から立ち上る、炭火焼き松茸の香ばしく芳醇な香気が、クロウの鼻腔をダイレクトに直撃した!


(んっ……!?な、なんだこの香りは……!?炭の香ばしさと、大地の濃厚な旨味が脳髄を激しく揺さぶる……っ!?)


あまりの芳香に、クロウの意識が激しく揺らぐ。


次の瞬間——。


『グゥゥゥゥゥ〜〜〜〜ッ!!』


静まり返った屋根の上に、地鳴りのようなクロウの腹の虫の音が盛大に響き渡った!


「へ……?屋根の上でお腹を空かせてる人がいるのかな?」


アルトが驚いて見上げると、そこには空腹と香りに耐えかね、目を白黒させて固まっているクロウの姿があった。


「あわわ、そんなところで見てないで降りて一緒に食べましょう!マルクさんが絶妙な焼き加減で仕上げてくれましたよ!」


アルトは傘から汁がジュワジュワと溢れる炭火焼き松茸に、海塩と柑橘の果汁をひと搾りして小皿で手渡した。


「く、屈せんぞ……拙者は冷酷無比な暗殺者……このような食べ物に惑わされ……ル……っ」


クロウは突っぱねようとしたものの、手から伝わる熱気と香りに耐えかね、吸い寄せられるように一口かじった。


『ジュワァァァァァッ……!!』


「っっっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?!?」


瞬間、クロウの脳内で爆発的な旨味の嵐が吹き荒れた!


歯ごたえ抜群の軸から溢れ出す濃厚なエキス、炭火の香ばしさ、そして絶妙な塩気が完璧なハーモニーを奏で、疲れ切った心と体に染み渡っていく。


(な、なんだこの美味さは……!?冷酷な暗殺稼業に生きてきた拙者の全身が、優しく解きほぐされていく……っ!!)


気づけば、クロウの目から滝のような涙が溢れ出していた。


「うまぃぃぃぃっ!!拙者、このような美味いものを食べたのは生まれて初めてでござるルぅぅ!!」


クロウはドシンと屋根から降りて地面に平伏した。


「アルト殿……拙者、己の浅はかさを恥じ入るばかり!ぜひ拙者を、この温かい神域の『警備隊長』として雇ってくだされ!一切の不審者を排除してみせまするル!」


マルクが「ふむ、これほどの感動を知る者なら悪人ではなさそうですな」と微笑む。


ヴァルザックも「くはは!頼もしい庭の番人が増えたではないか!」と豪快に笑った。


「ええっ!?警備隊長なんて大袈裟ですよ!でも、いつでも美味しいものを一緒に食べてくれたら大歓迎ですよ、クロウさん!」


こうして、極上の炭火焼き松茸の美味しさに感動した暗黒忍者クロウが、頼もしい『警備隊長』に着任したのだった。


---


「ふむ……頼もしい見張りを迎えたことじゃし、今夜はいよいよ“あの極上リゾート施設”の解禁に取りかかるとするかの」


月明かりの下、モーリスたちが何やら嬉しそうに企んでいることなど知る由もなく、アルトは幸せそうな寝顔を浮かべていた。

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