『秋作業と、契約』
秋の深まりを感じさせる爽やかな風が、アルト農園村の『モフモフ牧場』を吹き抜けていく。
「よーし、ポチ、その調子!ほんの少しだけポッと火を出してね」
「おいらにまかせるのだぞ〜!」
アルトの指差しに合わせて、肩の上のミニポチが『ぷすっ』と小さな可愛らしい炎を吐き出した。
その小さな炎で優しく炙られているのは、冬場に牧場の動物たちの飼料や薬草となる、干しハーブの数々だった。
「あうぅ♪しろもハーブを運ぶのです♪」
足元では子犬姿のミニシロが、口にハーブの束をくわえてトコトコと健気に走ってくる。
「あはは、シロもありがとう!これで冬の寒さが来ても、牧場の動物たちはみんな元気でいられるね」
「……ちょっと待ちなさいアルト」
そこへ、あきれ顔のアリサが歩み寄ってきた。
「ハーブの乾燥作業はいいんだけど……そのハーブを入れてる『土の壺』、なんなの?内部から物凄い熱気が均等に溢れ出してるんだけど……」
アルトが指さしたのは、【土いじり】で捏ね上げた二重構造の不思議な土壺だった。
「ああ、これ?効率よくハーブを乾かすために作ってみた『遠赤外線土壺』だよ!二重の空気層と耐熱粘土で、中の熱が逃げないように工夫してみたんだ」
「また土で変な高機能加熱器具作ってるし……!」
アリサが頭を抱えた、まさにその時だった。
◇
「ふははは!ここが噂の開拓地か!」
大勢の物々しい護衛を引き連れ、豪奢な服を纏った肥満体の男がモフモフ牧場へ入り込んできた。
全大陸の流通を握る『商業ギルド総帥バルトロ』である。
バルトロは高圧的な態度で髭を撫で回した。
(ふん、世間知らずの農夫が仕切る村と聞いて来てみれば、まあまあのロケーションではないか。わが商業ギルドの圧倒的な資金力で独占流通権を脅し取り、この村の生産物を我が物にしてやるわい)
鼻息荒く歩み寄るバルトロだったが——牧場の真ん中で稼働している『遠赤外線土壺』の前に立った瞬間、その足がピタリと止まった。
(……ん?なんじゃこの土壺は……?)
長年、全大陸のあらゆる工芸品や魔法道具を鑑定してきたバルトロの眼力が、土壺の異様な完成度に吸い寄せられる。
バルトロが半信半疑で土壺の表面にそっと手を触れた、次の瞬間——。
『ガタガタガタッ……!!』
バルトロの全身が、落雷に打たれたかのように激しく震え出した!
(ひぇぇぇっ……!?な、熱損失が『ゼロ』だと……!?魔法触媒や魔石を一切使っておらんのに、土の幾何学構造と空気層の絶妙な配置だけで、内部の熱を100%遠赤外線に変換しておるじゃと……!?)
バルトロは額から滝のような冷や汗を流し、血の気を引き引かせた。
(ば、バカな……!これは単なる土壺などではない!暖房、乾燥、錬金術、製鉄……全大陸のあらゆる産業の加熱コストを従来の10分の1に削減する、歴史的・産業的熱工学の『超・革命物』ではないか……!!)
買い叩こうとしていた己の愚かさを悟ったバルトロは、ドシンと膝を突き、その場に平伏した!
「アルト様ぁぁっ!!ぜひ我が商業ギルドに、この土壺の技術提携と、村の特産品の『専属流通権』をお与えくださいませ!!見返りに全大陸の珍しい花の種、最上級の鉄具、稀少な鉱石を、わがギルドの総力を挙げて無償でお届けいたします!!」
「ええっ!?無償なんて悪いですよ!珍しいお花の種や鉄の道具と交換してもらえるなら、すごく嬉しいです!よろしくお願いしますね、バルトロさん!」
「ははぁぁっ!ありがたき幸せにございますっ!!」
こうして、食べ物で泣き落とすことなく、【土壺の圧倒的な熱効率クラフト技術】によって、商業ギルド総帥バルトロとの完璧な提携が結ばれたのだった。
夕暮れ時、満足気に去っていくバルトロを見送りながら、ポチとシロは干しハーブの甘い香りに包まれて、すやすやと心地よさそうに眠りにつくのだった。
アリサ:
「……食べ物すら使わずに、今度は土壺の熱効率技術で商業ギルドの総帥が即落ちしたわね」
ルナリア:
「フフ、ですがこれで全大陸からの珍しい種や鉄具の調達ルートが完成いたしましたわ。」




