『絶対結界と、案内所』
「よーし、これで屋根のカンナがけもバッチリだね!」
澄み渡る秋空の下、アルトは村の入口に完成した建物を見上げて爽やかに微笑んだ。
それは、【土いじり】で成形した滑らかな土壁と極上の木材を組み合わせた、温かみあふれる『木造交易案内所』だった。
「アルト様、素晴らしいです……!」
案内所のカウンターに立ったルナリアが、感心したように木目の美しい受付デスクを優しく撫でる。
「これで来訪者様の受付や、大商人マルセル様との物々交換の管理が極めて円滑に行えますわ」
「あはは、外から来てくれた人が迷わないようにと思ってね。看板も僕が彫ってみたんだ」
「……ちょっと待ちなさいアルト」
案の定、横からアリサが呆れ顔で突っ込んできた。
「どこからどう見ても、一国の『国境検問所』並みに重厚で防音・耐魔加工が完璧なんだけど……?単なる案内所じゃないでしょ、これ」
「ふむ、アルト殿の手仕事は相変わらず見事でおいでだ」
麦わら帽子をかぶった元四天王ヴァルザックが、案内所の前に打ち水用の木桶を置きながらうなずいている。
その時だった。
『——ウォォォン……!』
村の中央にそびえ立つ『世界樹』が、大地を揺らすような優しく荘厳な光を放ち始めた。
世界樹の巨枝から黄金色の光の粒子が降り注ぎ、完成した案内所と村の外周全体を包み込むように、目に見えるほどの濃密な半球状の光の膜が広がっていく。
「おいら、光のつぶつぶ捕まえるのだぞ〜!」
「あうぅ♪きれいなのです♪」
世界樹の枝の上で、ミニポチとミニシロが大はしゃぎで光の粒子と戯れていた。
「……世界樹が、村の広がりに応えて【絶対防衛結界】を展開したようですね」
ルナリアが静かに感嘆の息を漏らす。まさに、村全体が神域として完全覚醒した瞬間であった。
◇
まさにその境界線の外側に、重厚な鎧を纏った一団が到着していた。
王国親衛隊を率いる王宮特使レイモンドである。
レイモンドは手綱を握り直し、険しい表情で村の入口を睨みつけていた。
(死の魔境に、許可なく開拓地を作った不届き者がおると聞いて来てみれば……ふん、田舎者の集落など我が親衛隊の威圧一発で叩き潰し、王国の属領として重税を課してやるわい)
そう意気込み、馬を一歩前へ進めようとした——その時だった。
『バチチチチッ……ドカンッ!!』
レイモンドの胸元で、王立魔導院特製の高精度魔力測定器が耳を裂くような音を立てて爆発した。
「ぬあああっ!?な、なんだ!?魔力測定器が限界突破で吹き飛んだだと……!?」
レイモンドが激しい動揺に冷や汗を吹き出させた直後、さらなる衝撃が彼らを襲う。
案内所の脇にぽつんと立っていた、泥製の案山子ゴーレムが静かに首を『ギギギ……』と動かしたのだ。
目にあたる部分が赤く発光したかと思うと、次の瞬間——。
『チュドォォォン……!!』
案山子の目から放たれた極太のレーザーが、レイモンドたちのすぐ脇にあった見上げるような巨大岩を一瞬で蒸発(消滅)させた。
岩があった場所には、ただ虚無のクレーターだけが残されている。
「ひ、ひえぇぇぇぇっ……!?」
親衛隊の馬たちが狂ったようにいななき、レイモンドは恐怖で腰を抜かして落馬した。
「神話級の防衛結界に……古代兵器クラスの自動殺戮ゴーレムじゃと……!?バ、バカな……!ここは違法開拓地などではない……古代の神が君臨する【絶対聖域】だ……!!」
レイモンドはガタガタと全身を激しく震わせた。手を出せば、王国親衛隊はおろか、王都そのものが一瞬で地図から消し飛ぶと悟ったのだ。
◇
「あ、お客さんかな?いらっしゃいませー!」
アルトが境界線から顔を出し、尻もちをついているレイモンドに笑顔で駆け寄ってくる。
「遠くから歩いてきて疲れたでしょう?温かいハーブ茶でも飲んでいってくださいね!」
アルトはそう言って、湯気の立つお茶が入った木彫りの湯呑みを差し出した。
「か、感謝いたします……!」
レイモンドは両手で震えながら湯呑みを受け取り、恐縮しきりでハーブ茶を口に含んだ。
さわやかなハーブの香りが体に染み渡り、引きつっていた全身の緊張がすーっと解けていく。
(おお……冷え切った胃袋と恐怖で縮こまった心が、優しく癒やされていく……。このお方こそ、この神域を統べる大精霊様(あるいは神)に違いない……!)
レイモンドは深々と土下座をし、金縛りにあったように叫んだ。
「アルト様!国王陛下には『この地は一切の干渉を許さぬ【絶対聖域】である』と即刻報告いたします!我が王国は、貴国との永久非干渉と友好を固く誓います!!」
「ええっ!?干渉とか難しいことはよく分からないですが、またいつでもお茶を飲みに来てくださいね!」
「ははぁぁっ!ありがたき幸せにございますっ!!」
こうして、【世界樹の絶対結界と案内所の威厳】によって、王国との間に永久的な友好的非干渉関係が確立されたのだった。
その夜。
世界樹の柔らかな黄金色の光が、完成した案内所と村全体を優しく照らしていた。
アルト農園村は、今日もどこまでも平和に、静かな夜を迎えるのであった。
アリサ:
「……食べ物すら出す前に、世界樹の結界と案山子ゴーレムの威嚇で王宮の親衛隊長が即落ちしたわね」
ルナリア:
「フフ、ですがこれで王国からの干渉も遮断され、完全な平和が保たれました。読者様の皆様、アルト様の聖域づくりと村の発展を応援したくば、ぜひ最新話ページ下部の【小説の関連情報を見る】より【☆で称える】や【作品フォロー】で応援をお願いいたします!」




