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『増える住民と、交易資材調達』

「トントン、トン、ドスーン!」


秋晴れの爽やかな風が吹き抜ける死の魔境に、木槌の小気味よい音と、土が重厚に固まる心地よい音が響き渡っていた。


アルトは額の汗をクワの柄でサッと拭うと、新しく完成した二階建ての建物を嬉しそうに見上げた。


「よしっ、これで『神聖土壁住宅』の第一号が完成だね!」


「アルト様、素晴らしいです……!」


台帳を抱えた給仕長のルナリアが、感無量といった様子で駆け寄ってくる。


「避難してきたエルフの皆様や、元冒険者の方々で既存の住居が限界を迎えておりましたので……これで全員が雨風を凌げる温かい新居に入居できます!」


「あはは、みんなが野宿になっちゃ大変だからね。二層構造にして、地下の地熱が優しく循環するように壁を工夫してみたんだ」


「……ちょっと待ちなさいアルト」


横から割り込んできたのは、元最年少Sランク女騎士のアリサだった。彼女は呆れ果てた顔で、出来立てほやほやの建物をペシペシと叩いている。


「たった半日で、二階建ての集合住宅を建てたの……?しかもこれ、外壁に耐熱粘土と剛土を練り込んであるじゃない。要塞どころか、王宮の防衛砦より頑丈よ……?」


「アルト殿、次の焼きレンガをお持ちしたぞ!」


そこへ、麦わら帽子をかぶり、背中に巨大な土レンガを山積みにして歩いてきたのは、元魔王軍四天王の大魔導士ヴァルザックだった。


「この粘土、我の魔力で適度に焼き固めておいたゆえ、ドラゴンブレスでも傷一つつかぬ仕上がりでござる」


「四天王が麦わら帽子で建築作業を手伝ってるのもおかしいでしょ!?」


アリサの鋭いツッコミが秋空に響く。


「あはは、ヴァルザックさんありがとう!ポチもシロも、草むしりを手伝ってくれて助かるよ」


「おいらにまかせるのだぞ〜!」


「しろも、がんばったです♪」


アルトの肩の上でミニポチが胸を張り、足元で子犬姿のミニシロが可愛らしく尾を振った。


まさにみんなで楽しく家づくりを進めていた、その時である。


ガタガタと、馬車の車輪の音が近づいてきた。


やってきたのは、隣国の商業網を牛耳る『大商人マルセル』だった。

マルセルは馬車の窓から村を見下ろし、腹の中で黒い笑みを浮かべていた。


(ひっひっひ……死の魔境に妙な村ができたと聞いて来てみれば、田舎の農夫が仕切る開拓地か。世間知らずの農民から貴重な作物を安値で買い叩き、王都で高値で売って大儲けしてやるわい)


だが——馬車から降り、目の前に広がる光景を目にした瞬間、マルセルの足がピタリと止まった。


(な、なんじゃこの建物は……!?芸術品のような美しい土壁に、寸分の狂いもなく組み合わされたレンガの美しさ……!?)


アルトがマルセルに気づき、爽やかに手を振る。


「あ、商人さんですか?いらっしゃいませ!実は住人が増えて家を建てているんですが、赤レンガや作業道具、新しい作物の種が足りなくて困っていたんです。何か物々交換できませんか?」


マルセルは(ふん、ハタリをかけおって)と鼻で笑い、半信半疑で『神聖土壁住宅』の壁にそっと手を触れた。


その瞬間——マルセルの全身に激震が走った。


(ひぇっ……!?こ、この壁……表面に極上の断熱魔法陣が、土の密度だけで自然形成されておる!?外の冷気を完全に遮断し、地熱を優しく循環させておるだと……!?)


それだけではない。


(それどころか、わしの上級鑑定スキルが弾かれたぞ!?物理攻撃も魔法攻撃も一切通さぬ超・剛土素材じゃと……!?)


マルセルは冷や汗をダラダラと流し、膝を激しくガクガクと震わせた。


(ば、バカな……!これほどの超・高級建築素材……!建材の【独占販売権】、そして必要な道具の【専属納入権】を得られれば……わしは全大陸を牛耳る世界一の豪商になれる……!!)


マルセルは脱兎のごとくアルトの足元へ滑り込み、土下座の体勢で叫んだ。


「アルト様ぁぁっ!!ぜひ、我がマルセル商会を、このアルト農園村の『専属資材調達パートナー』にさせてくださいまし!!赤レンガも、最上級の農具も、世界中の珍しい種も、わしが命がけで何でも揃えてお届けいたしますぅぅ!!」


「ええっ!?命がけなんて大袈裟ですよ!工具や種を持ってきてくれるなら、すっごく助かります!よろしくお願いしますね、マルセルさん!」


「ははぁぁっ!ありがたき幸せにございますっ!!」


こうして、【土クラフト技術と建築素材の圧巻のクオリティ】によって、大商人マルセルは自発的に村の専属サプライヤーとなったのだった。


◇


その夜。

完成した新居に入居したエルフや住人たちが、温かな土壁の部屋で笑顔を咲かせていた。


「アルト様、本当にありがとうございます……こんなに温かくて安心できるお家で寝られるなんて……」


アルトは窓の外の美しい星空を見上げながら、膝の上のポチとシロを優しく撫でた。


「ふぅ、みんなが喜んでくれてよかったな。明日はどこを耕そうか」


アルト農園村の夜は、どこまでも温かく、静かに更けていくのであった。

アリサ:

「……またアルトの無自覚な建築スキルで、隣国の大商人が完全服従したわね」


ルナリア:

「フフ、ですがこれで村の建築資材や工具の調達ルートは完璧です。」

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