魔王軍四天王の襲来と、極上の『炊き込みご飯』
魔境のさらに奥深く——漆黒の魔導塔の中で、古代の眠りから目覚めた男がいた。
魔王軍最強の四天王の一角、『大魔導士・ヴァルザック』である。
「ぬぐぅ……何じゃこの凄まじい神聖魔力と、鼻をくすぐる美味そうな匂いは……!?まさか人間どもが、我が魔境の目と鼻の先に巨大な防衛拠点を築いたとでもいうのか!?」
世界を滅ぼすほどの古代破壊魔法を操るヴァルザックは、激しい危機感を募らせ、黒いローブを翻して単身でアルトの農園村へと向かった。
「フハハ!どんな強固な城壁であろうと、我が超攻撃魔法で一瞬で灰にしてくれるわ!」
意気揚々と農園村の敷地を囲む土の垣根へ忍び寄ったヴァルザックであったが——足を踏み入れた瞬間、その足がピタリと止まった。
(((((ぐぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!)))))
「な、なんじゃぁぁぁこの腹の鳴りはぁぁぁ!!??呼吸をするだけで、野菜の美味そうな匂いが全身を駆け巡るぞ……!?」
あまりの甘く深い香りに胃袋を激しく撃ち抜かれ、膝から崩れ落ちそうになるヴァルザック。
そこへ——。
「おや?遠くからお客様かな?こんにちはー!」
クワを肩に担いだアルトが、呑気な笑顔で歩み寄ってきた。
そのアルトの肩の上には、手のひらサイズの可愛らしい赤竜【ミニポチ】がチョコンと乗り、足元には子犬のような【ミニシロ】がフワフワの尻尾を振って寄り添い、空中には急須を持った【ミニタコ(クラーケン)】が優雅に浮遊していた。
「ひ、ひぇぇぇぇっ!!??な、ななな何じゃその生き物はぁぁぁぁ!!??」
ヴァルザックは目ん玉を飛び出させて叫んだ。
「ど、どう見ても一国を滅ぼす伝説の『赤竜』と『神狼フェンリル』、そして海の覇者『クラーケン』ではないか!!?なぜそんな神話級の魔獣どもが、べったり甘えておるのじゃぁぁぁ!!??」
「おいらポチだぞ!謎の眉毛ボサボサおじいちゃん、こんにちはだぞ!」
肩の上でミニポチがパタパタと小さな羽を羽ばたかせて挨拶する。
「あうぅ♪しろです♪お腹がペコペコみたいですね♪」
膝元でミニシロがくぅ〜んと可愛らしく鳴き、空中のミニクラーケンが「お茶の用意ができております、アルト様」とお辞儀をした。
「喋ったぁぁぁぁぁ!!??魔獣が普通に喋っておるぅぅぅ!!??」
大混乱でパニックを起こし、空腹でよろめくヴァルザックを見て、アルトは優しく微笑んだ。
「おじいさん、長旅でお腹が空いているんですね!ちょうどお昼ご飯が炊き上がったところですよ。一緒に食べていきませんか?」
「だ、だだだ誰が敵の食べ物など……っ!」
拒絶しようとしたヴァルザックだったが、アルトの手によって特製の大食堂へと案内され、目の前にドンと置かれた土鍋のフタが開けられた瞬間、思考が完全に吹き飛んだ。
ブワッ……!!
「〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!?」
土鍋の中から立ち上ったのは、アルトが【土いじり】で育てた神聖米と、採れたての神聖キノコ、新鮮な野菜、そして魚介の極上出汁が黄金比率で染み込んだ、炊き立ての『極上土鍋炊き込みご飯』であった!
「ささ、冷めないうちにどうぞ!」
手渡されたお茶碗から溢れ出る香ばしい匂いに耐えきれず、ヴァルザックはおそるおそる口に含んだ——その瞬間!
(((((ドッカァァァァァァン!!!!)))))
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!??!?!」
ヴァルザックの頭上で、雷のような衝撃が駆け抜けた!
「美味い……!美味しすぎるぞなんじゃこれはぁぁぁぁぁ!!??出汁の深い旨味とお米の甘みが全身の魔導回路を浄化していく……!我が魔王軍の粗末な食事が、泥水に思えるほどの至福じゃぁぁぁ!!」
あまりの美味さに、お茶碗を抱えて猛烈な勢いで炊き込みご飯をかき込む大魔導士ヴァルザック!
「ふふ、喜んでもらえて良かった!お手伝いをしてくれたら、毎日美味しいご飯が食べられますよ!」
アルトが爽やかに微笑むと、ヴァルザックはその場で手をついて平伏した。
「弟子に……いや、この農園の雑用係にしてくださいぇぇぇ!!薪割りでも何でもいたしますぞぉぉぉ!!」
こうして、世界を脅かすはずだった魔王軍最強の四天王までもが「薪割り担当おじいちゃん」としてあっさり定住を決意したのだった。
だがその頃——。
アルトの作る絶品料理と農園の噂が、遠く離れた人間界の王宮や大国へ届き、とんでもない勘違いから新たな動きが始まろうとしていることなど、まだ誰も知る由もなかった。




