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『海を掘り当てる!?』

「よし!アリサさんがお刺身を食べたいなら、お庭に『海』を作ろう!」


翌朝。『アルト農園村』の広場で、アルトは愛用のクワを手に力強く宣言した。


「……え?海……?

 アルト、ここは内陸の山奥なのだが……?」


呆然と首をかしげるアリサの横で、給仕長のルナリアや麦わら帽子をかぶった大賢者モーリスも「山の中で海など……」と目を白黒させている。


しかし、アルトに迷いはなかった。


「う〜ん、ここから一番近い海までは数キロあるから……

 【土いじり】でまっすぐ地殻を掘り進めて、地下トンネルを作ればいいよね!」 


「地下トンネルってそんな数秒で掘れるものじゃ——」


ルナリアが突っ込み切る前に、アルトが「えいっ!」と地面にクワを打ち下ろした。


カツン!


ズズズズズズズズズズズズ……!!


「「「「な、なに事じゃあぁぁぁぁぁ!!???」」」」


大地が地鳴りを上げ、庭の一角の土がまるで意思を持った流水のように滑らかに押し分けられていく。

ほんの数秒後——足元には、数キロ先の大海原へと直線で突き抜ける、直径十メートル超の巨大な『地下バイパストンネル』が綺麗に貫通していたのだ!


「よし!

 トンネルから引き込んだ海水を入れる池も作っちゃおう!」


アルトがクワを横に一振りすると、庭の北側に広大な『海水養殖池』が出現した。

トンネルを通ってゴボゴボと透き通った海水が流れ込み、さらには【土いじり】による土のミネラル分が海水をろ過・調合し、一切の病原菌を無効化する「完璧な人工海水」へと再構築されていく。


ついでに、土の熱循環によって海水から純白の結晶がサラサラと生まれていた。


「お、この塩……!

 微量の魔導毒や雑味を完全に浄化し、旨味だけを残しておる……!

 国家機密レベルの『神聖ソルト』ではないかぁぁぁ!!」


大賢者モーリスが塩を舐めて泡を吹きそうになっていると——。


(((((ドパァァァァァァン!!!!)))))


海水池の深部から、水柱とともに巨大な黒い影が浮上してきた。


「ひっ!?

 な、何かがトンネルを通って上がってきましたわぁぁぁ!?」


ルナリアが悲鳴を上げる。

現れたのは、長い触手と巨大な目を持つ海の覇者

——伝説の超危険海洋魔獣『大魔クラーケン』であった!


居心地の良すぎる神聖な海水池に吸い寄せられ、海からトンネルを遡ってきたのだ。


「ぐ、クラーケンだと……!?

 山奥の池に海の最高峰の魔物が現れるなど……!」


アリサが大剣を構え、ポチ(赤竜)とシロ(神狼)が「ガァッ!」と威圧感を放つ。


だが、アルトは怖がるどころか、ニコニコと微笑んで畑から採れたての冷やしキュウリとトマトを差し出した。


「わぁ、大きなイカさんだ!

 遠くから泳いできてお腹が空いたでしょ?

 召し上がれ!」


クラーケンは巨大な触手で野菜を受け取り、一口でパクリと平らげた。


((((ドカァァァァァァン!!!!))))


『んほぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??

 (うんま!なんだこの甘くて瑞々しい食べ物はぁぁぁ!?)』


あまりの美味さにクラーケンは、その場でポチやシロ以上にデロデロに甘え始めたのだ!


「あはは、イカさん、気に入ってくれたんだね!

 ねぇイカさん、小さいイカさん(普通サイズのイカ)の足(ゲソ)を少しだけ分けてもらえるかな?

 みんなでお刺身が食べたくて」


アルトが優しく尋ねると、クラーケンは「どうぞどうぞ!」と言わんばかりに、周囲の海水と共にイカや魚を陸に打ち上げた。

極上のイカ・マグロ・サーモンなどが大漁となった。

さらには「池の掃除もやります!」と害魚駆除のポーズまで決めて見せたのだった。


「わぁ、イカだけじゃなくてマグロやサーモンまで!ありがとう」


「海の覇者が自ら漁をして差し出している……!?」とアリサが絶句する中、専属シェフのマルクが包丁を輝かせた。


「ふふふ……最高に新鮮な魚が大漁!

 料理人として血が騒ぎますぞー!」


マルクの見事な包丁さばきによって、透明感あふれる『極上イカ刺し』『極上マグロのさしみ』『極上サーモンのさしみ』と、特製土鍋で熟成させた『自家製醤油』がテーブルに並べられた。

さらに、七輪で香ばしく焼き上げた『イカのゲソ焼き(バター醤油味)』や『サーモンの塩焼き』などの甘く香ばしい匂いが広がる。


「ささ、アリサ様!

 採れたてのお刺身でございます!」


「う、うむ……いただきます……!」


アリサが震える箸でイカ刺しを醤油につけ、口へと運んだ。


コリッ……ジュワァァァン!


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!??!?!」


アリサの目がカッと見開かれた!


「な、なんだこの歯ごたえと甘みはぁぁぁぁぁ!!

 噛むほどに溢れるイカの旨味と、自家製醤油の深みが口の中で踊っている……!

 一口で全身の全魔力が完治して、溜まった疲労が一瞬で消え去っていくぞ……!!」


あまりの美味さに、騎士の威厳を忘れて夢中でお刺身を頬張るアリサ。


ルナリアも熱々のゲソ焼きを口にし、


「はふっ……香ばしい……!

 バターと醤油のコクがイカの弾力と絡み合って……

 美味しすぎますわぁぁぁ!!」


と涙目になって悶絶している。


「ぐるるぅ〜!(香ばしくて旨いぞ!)」

『ガアァン!(最高だ!)』


ポチもシロも並べられた料理を「バクバク」と大喜びで平らげ、クラーケンもアルトからもらった野菜を幸せそうに頬張っていた。


「ふふ、山奥で食べるお刺身も最高だね!」


満面の笑みを浮かべるアルトの横で、大賢者モーリスが呆れ顔でお茶をすすった。


「山奥で海産物を養殖し、海の覇者をペットにする農夫など……

 世界中を探しても師匠くらいじゃよ……」


こうして、『アルト農園村』に「海鮮グルメ」という新たな極上コンテンツが加わったのだった。

だがその頃——。


「海の覇者クラーケンが消えた!?」

「陸の誰かに手懐けられただと!?」


と『海の国』が大騒ぎになっていることなど、アルトたちはまだ知る由もなかった。

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