エルフたちの定住と『快適すぎる土壁の家』
「うわぁ……!なんか一晩でたくさんの人が集まってきてる……!?」
翌朝。絶対要塞の門を開けたアルトは、目の前の光景に目を丸くした。
昨夜、アルトの【土いじり】によって急成長を遂げた『世界樹の若木』。
その黄金の光と圧倒的な聖気に引き寄せられ、【アルト農園】の周囲には、故郷を追われて世界中を彷徨っていたエルフたちが50人ほども集まっていたのだ。
「あ、アルト様……!その方々は、私の故郷で路頭に迷っていた同胞たちですわ……!」
駆け寄ってきたエルフ姫のルナリアが、涙を浮かべて声を震わせた。
群衆の中から、白髭を蓄えた老エルフ——長老のエレノアが進み出ると、アルトの前に深々と平伏した。
「おお……!あなた様が枯れ果てた世界樹様を蘇らせ、我らに安息を与えてくださったお方ですか……!何とお礼を申し上げればよいか……」
「えぇっ!?平伏しないでください!僕、ただの農夫ですから!」
慌てるアルトだったが、集まったエルフたちが長旅でボロボロになり、お腹を空かせていることに気づいた。
「ルナリアさん、マルクさん!みんな長旅で疲れてるみたいだから、温かいご飯を作ってあげよう!」
「承知いたしましたぞ!採れたて野菜の具だくさんスープと、炊き立ておにぎりを大量に仕込みます!」
シェフのマルクが大張り切りで腕を振るい、巨大な鍋で煮込んだ温かいスープとふっくらおにぎりが配られた。
「な、なんだこの美味しさは……!?身体の底から活力が満ち溢れてくる……!」「こんなに清らかなお米と野菜、見たこともないわ……!」
エルフたちは一口食べるなり涙を流して感動し、あっという間に胃袋を掴まれてしまった。
「ふぅ、お腹がいっぱいになったら、次は寝る場所だよね!」
満足そうにお腹をさするエルフたちを見渡し、アルトは愛用のクワを握りしめた。
「せっかく来てくれたんだし、雨風を凌げる素朴な土壁の家を作ってあげなきゃ!」
「えっ……?アルト様、いくらなんでも50人分の住居を一人で作るなんて……」
ルナリアが心配そうに声をかけた、次の瞬間だった。
アルトが「よしっ!」と気合を入れて、地面にクワを打ち下ろした。
カツン!
ズズズズズズズズズ……!!
「「「「な、何事じゃあぁぁぁぁぁ!!???」」」」
長老エレノアをはじめ、エルフたちが一斉に悲鳴を上げた!
アルトがクワを振るうたびに、黒土と粘土がまるで生き物のように盛り上がり、滑らかに形を変えていく。
ほんの十数分のうちに、温かみのある綺麗なデザインの「二階建て土壁集合住宅」が、整然と立ち並ぶ街並みとなって出現したのだ!
「よし!簡単だけど『みんなの家』ができたよ!中に入ってみてね!」
アルトが汗を拭って笑顔で言うと、おそるおそる中に入ったルナリアと長老が、目を見開いて硬直した。
「な……なんですのこの家は……!?外は肌寒いのに、中は春のようにぽかぽかと温かいですわ!?」
「お、おお……!土の壁からじんわりと温かな地熱が循環しておる……!それだけではない!壁自体に神聖な魔力が宿り、あらゆる外部からの物理攻撃や害虫を弾く『絶対防御結界』が常時張られておるぞぉぉぉ!!」
麦わら帽子をかぶった大賢者モーリスが、壁をさすりながら白目を剥いた。
「我が数十年の結界魔法の研究は何だったのじゃ……土を練っただけで国家防衛レベルの『地熱空調付き魔導邸宅』が完成しておる……!」
「王宮……!エルフの王宮よりはるかに快適で安全な住宅ですわぁぁぁ!!」
ルナリアが頭を抱えて叫び、エルフたちはあまりの快適さと安全さに感激した。
「神農アルト様ぁぁぁ!!我らエルフ一同、生涯をかけてあなた様にお仕えいたします!!」
長老エレノアを筆頭に、50人ほどのエルフたちが一斉にアルトに永遠の忠誠を誓った。
「えぇ〜!?ただの土壁の家ですよ〜!?」と首をかしげるアルトの横で、元Sランク冒険者のアリサが呆れ顔でお茶をすすった。
「諦めろ長老。このお方にとっては、すべて『ただの家庭菜園と日曜大工』なのだ」
「うむっ、これでここも、だいぶ賑やかになってきたので、ここを『アルト農園村』にするのはどうじゃろう?」
大賢者モーリスのその一言で、人類・エルフ・ドラゴン・神狼・大賢者が共に暮らす世界最強の集落『アルト農園村』が正式に発足したのだった。
エルフたちは「アルト様のために!」と勝手に張り切り、畑の区画整理や木工、村の防衛の見回りを自発的にスタート。
ポチやシロも、エルフたちから「神獣様」と崇められて頭を撫でられ、すっかりご満悦の様子だ。
こうして、平和で活気あふれる『アルト農園村』の素晴らしい日常が幕を開けた。
……数日後。
村の大食堂で採れたて野菜の天ぷらを美味しそうに頬張っていたアリサが、ふと贅沢な溜息をついた。
「ふぅ……野菜や肉、お米は至高なのだが……たまには新鮮な『海の魚(お刺身)』も食べたくなるな……」
アリサのその一言がきっかけとなり、アルトの常識はずれの開拓へと進展するとは、まだ誰も思っていなかったのであった。
長老エレノア
「(土壁住宅に抱きつきながら)おお……外は肌寒いのに中はぽかぽか……神農様は神か……!」
モーリス
「うむ、わしも最初は白目を剥いたぞ長老。だがこれが『師匠の日曜大工』なんじゃ。受け入れるんじゃ……」




