悪徳領主の強奪作戦と自滅
「う〜ん、今日も朝採れのキュウリとトマトが瑞々しくて最高だなぁ!」
朝食後、アルトはポチとシロを交互に撫でながら、庭の畑で収穫したばかりのキュウリをポリポリと心地よい音を立ててかじっていた。
隣ではアリサが「うむ、焼きたてパンとハーブチーズの余韻も素晴らしい……」と満足そうに頷き、ルナリアが食後のお茶を配り、麦わら帽子をかぶった大賢者モーリスが「師匠!本日の鉢植えの水やりと草むしりが完了いたしましたぞ!」と嬉々として報告している。
その時だった。
(((((ドバババババババッ!!)))))
魔境の入口から、静寂を破る荒々しい馬蹄の音と足音が響き渡った。
「おい!ゴミスキルのアルト!どこに隠れている、出てこい!」
武装した私設兵団五十名を率い、ギラギラとした下劣な目を光らせた男——この近隣を治める悪徳領主・バロンが乗り込んできたのだ。
バロンは「死の魔境に怪しげな神域ができた」という噂を聞きつけ、アルトが隠し持っていた秘宝を解放したに違いないと勘違いし、強奪しようとやってきたのである。
しかし、門を潜ったバロンたちは絶句した。
そこに広がっていたのは、黒銀に輝く巨大要塞、光り輝く広大な水田、宝石のような果実が実る果樹園、そして緑豊かなモフモフの牧場であった。
「な、なんだこの大建造物は……!?不毛の魔境にこのような神域が存在するはずがない!アルトめ、国宝級の秘宝を隠し持っていたな!冒険者ギルドと我が領地において、この土地と全施設を全量押収してやる!」
大威張りで剣を抜くバロン。
だが、その前に静かに立ちふさがった者がいた。
まず、要塞の門から悠々と歩み出たのは、元Sランク冒険者のアリサであった。
「……私の平穏な朝食と、アルト様の畑仕事を邪魔する不届き者は誰だ?」
「ひっ!?元最年少Sランク冒険者・アリサ殿!??な、なぜここに……!?」
バロンが顔を引きつらせた瞬間、要塞の影から「ぐるるぁっ!」と体長十メートルを超える伝説の赤竜ポチが顔を出し、続いて銀色の巨躯を持つ伝説の神狼シロが「ガアァァァン!」と天を突き破るような遠吠えを上げた。
神話級の超危険生物二頭が放つ圧巻の殺気に、五十名の兵士たちはその場でガタガタと震え出し、槍や剣をガラガラと落とした。
「ひ、ひぃぃぃっ!?ヴォルカニック・ドラゴンに……神狼フェンリルぅぅぅっ!??なぜ伝説の魔獣が二頭もいるのだぁぁっ!?」
そこへ、麦わら帽子をかぶって草刈り鎌を持った老人がひょっこり顔を出した。
「む?わしの農作業の邪魔をする愚か者は誰じゃ?この大賢者モーリスの極大消滅魔法でお掃除してやろうか?」
「だ、大賢者様ぁぁぁっ!??なぜ麦わら帽子で草刈り鎌を持っておられるのですかぁぁっ!?」
最強の騎士、二大神話級魔獣、そして人類最高峰の大賢者。
世界の均衡を覆す人類最強クラスの戦力が、ただの「農夫」であるアルトの後ろにズラリと勢揃いしていたのだ。
混乱と恐怖で泡を吹きそうになる悪徳領主バロン。
そこへ、アルトが畑からニコニコと満面の笑みで手を振りながら歩み寄ってきた。
「あ、遠くからようこそ!暑かったでしょう、採れたての冷やしキュウリでも食べますか?」
悪意ゼロの、完璧な親切心。
だが、バロンたちにとっては「圧倒的な余裕で自分たちを嘲笑い、一瞬で消し去ろうとしている神の威圧」にしか見えなかった。
「ひ、ひぃぃぃぃっ!!お、覚えてろぉぉぉぉっ!!」
バロンと兵団は、腰を抜かして悲鳴を上げながら、脱兎のごとく魔境の彼方へと逃げ去っていったのだった。
「あれ……?帰っちゃいましたね。せっかくキュウリをあげようと思ったのに」
ぽかんと首をかしげるアルトの横で、アリサやモーリス、ルナリアたちが真剣な表情で頷き合った。
「アルト様……今回のことで痛感いたしましたわ。アルト様の作られる至高の作物とこの神域を狙う愚か者は、今後も後を絶ちません」
「うむ。アルト様の平穏な日々を守るためにも、我々が防衛の体制を整えるべきだな!」
「左様! 我が知識と結界魔法で、全力で助力いたしますぞ!」
アルト本人は「え?みんな、ありがとね」と、相変わらず無自覚なまま笑顔で頷くのだった。
その時——水田と大豆畑の境目から、パァァァァァァン……! と黄金色のまばゆい光が溢れ出した。
「な、なんですの……!? きゃぁぁぁっ!?」
ルナリアが悲鳴を上げて振り返ると、アルトが「雑草」と間違えて抜こうとしていた【世界樹の芽】が、アルトの注ぐ神聖な魔力を吸い上げて一気に急成長し、見上げるような黄金の【世界樹の若木】へと変貌を遂げていたのだ!
「わぁ、すごく綺麗な大きな木になったねぇ!」と呑気に感心するアルト。 一方でルナリアは、溢れ出す圧倒的な生命力と聖気に涙を流し、ガクガクと膝を突いた。
「す、世界樹様が……息吹を吹き返した……!? ああ、神様……! これで故郷を追われ、世界中に散らばった同胞たちを救うことができますわ……!」
こうして、悪徳領主の強奪を退けたその日。 アルトが何気なく育てた一本の木から、聖気が溢れ出していることを察した集団がいたのだった。
アルト
「あれ?逃げて行った領主さんたち、また手紙(脅迫状)を届けてくれたよ。親切な人たちだなぁ」
ポチ
『ぐるるぅ〜(手紙を焚き火の焚き付け用に燃やしながら)』




