『モフモフ牧場づくりと伝説の神狼(フェンリル)
「ふぅ〜!今朝のお味噌汁とおにぎりも美味しかったなぁ!」
大賢者モーリスが仲間(弟子)に加わった翌朝。
マイホームの庭で、アルトは満足そうにお腹をさすった。
隣では、雑用用の麦わら帽子をかぶった大賢者モーリスが「師匠!鉢植えへの水やりが完了いたしましたぞ!」と嬉々として報告しており、アリサやルナリアが「あの大賢者が完全に農作業員になっている……」と遠い目をしている。
「でもね、みんな」
アルトはぽんと手を叩いて微笑んだ。
「お米や果物も最高だけど……そろそろ朝ごはんに新鮮な『牛乳』や『バター』、それにサクサクの『焼き立てパン』や『チーズピザ』が食べたくならない?」
「ギ、牛乳にチーズだと……!?」
アリサとモーリスが同時に声を上げた。
「アルト様、乳製品を生み出す高貴な魔獣は大変希少で、王侯貴族すら滅多に口にできない高級品ですわ!」
「大丈夫ですよ!牧場(放牧地)を作って、動物さんたちが喜ぶふかふかの草を生やしてあげれば、きっと仲良くなれますから!」
アルトは愛用のクワを手に取ると、要塞の北側に広がる荒れ果てた岩場へと向かった。
「よし、美味しいミルクがたくさん採れる広場になぁれ!」
アルトが気合を込めて、乾いた大地にクワを打ち下ろした。
カツン!
次の瞬間——ザザザザザザザザッ!!
「な、何ぃぃぃ!?」
モーリスの悲鳴が上がった。
アルトがクワを振り抜いた瞬間、荒れ果てた岩場が一瞬で目にも鮮やかな極上の緑の絨毯——食べるだけで魔力を回復させ、毛並みをツヤツヤにする『神聖ハーブ草地(牧場)』へと変貌したのだ!
「よしよし、これでいつでも動物さんを迎えられるぞ〜!」
無邪気に喜ぶアルト。
(((((ガァァァァァァァァン!!)))))
その時、魔境の深部から大地を揺らす激しい遠吠えが響き渡った。
「くっ……!この凄まじい威圧感は……何かが来るぞ!全員構えろ!」
アリサが大剣を引き抜き、大賢者モーリスも緊張の面持ちで杖を構えた。
神聖な放牧地から溢れ出す圧倒的な聖気に引き寄せられ、森の奥から姿を現したのは——銀色に輝く美しい毛並みと、車ほどもある巨体を持った伝説の超危険生物『神狼フェンリル』であった。
一国を一夜で噛み殺すと言われる絶望の猛獣。
フェンリルは真っ赤な瞳でアルトたちを睨みつけ、凄まじい殺気を放ちながら忍び寄ってくる。
「アルト、下がるのだ!あれはフェンリル……一国を滅ぼす神話の凄惨な魔獣だ……!」
アリサが冷や汗を流して叫んだ、その時。
クンクン……クンクン……。
フェンリルの鼻先が、足元に茂る『神聖ハーブ』の甘く爽やかな香りを捉えた。
フェンリルは恐る恐る口をつけ、ハーブを一口食んだ。
((((ドカァァァァァァン!!!!))))
『んほぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??(美味い!なんだこの柔らかくて甘い草はぁぁぁ!?全身の疲労が一瞬で消えていくぅぅぅ!!)』
なんとフェンリルは、威圧感を一瞬で消し飛ばし、ハーブの美味さに目を輝かせて「はむはむ」と猛烈な勢いで草を食み始めたのだ!
さらに、アルトが作った土窯から、マルク特製の『焼き立てバターパン』と『とろけるチーズピザ』の芳醇な香りが漂ってくると、フェンリルは完全にノックアウトされた。
(ク〜ン……ク〜ン……)
あの一国を滅ぼす神狼フェンリルが、アルトの足元にポテポテと歩み寄ると、お腹をゴロンと見せて「もっと美味しいご飯をください」と言わんばかりに甘え声を上げたのだ!
「わあ、銀色の綺麗な狼さんだね!お腹が空いてたの?」
アルトはそう言うと、フェンリルのフワフワの頭を「よしよし」と優しく撫でてあげた。
フェンリルは「くぅ〜ん♪」とうっとり目を細め、幸せそうに長い尾をパタパタと振り回している。
「よし!この子は今日から牧場の番狼兼、モフモフ担当だね!名前は……『シロ』でいいかな!」
「神話のフェンリルがペット扱い!?しかも名前がシロぉぉぉ!!?」
アリサと大賢者モーリスの悲鳴のようなツッコミが、爽やかな牧場に響き渡った。
「ぐるぁっ!(我のライバルか!?)」
ポチ(赤竜)も「負けていられん」とばかりにアルトの逆側に割り込み、頭を擦り付けて甘えてくる。
「あはは、ポチもシロも仲良くしてね!さぁ、マルクさんが作ってくれた焼き立てパンとピザを食べよう!」
焼き立てのサクサクパンに濃厚な手作りバターを塗り、とろけるチーズピザをみんなで囲む至福の朝食。
「〜〜〜〜っ!このパンとピザ、美味しすぎますわぁ!」
「うむ、至高の朝食だな……!」と涙するルナリアとアリサ。
シロも特大のピザを「バクッ」と幸せそうに平らげ、ポチと一緒にゴロゴロと転がっている。
こうして、伝説の神狼シロが新たなモフモフ仲間として加わり、『アルト農園』はさらに賑やかで平和な神域へと発展していくのだった。
だがその頃——。
「死の魔境に怪しげな神域ができた」という噂を聞きつけた悪徳領主が、悪だくみを巡らせていることなど、アルトたちはまだ知る由もなかった。




