『極上フルーツジュースと神々の果実酒(神酒)』
昨日のアップルパイとブドウゼリーの余韻も冷めやらぬ、夕暮れ時。
「アルト様!この神聖ブドウのポテンシャルなら、間違いなく至高の『果実酒』が仕込めますぞ!」
神聖果樹園で摘んだばかりの完熟ブドウを抱え、専属シェフのマルクが髭を躍らせて熱弁をふるった。
「なるほど、果実酒ですか!大人の楽しみですね!」
アルトが目を輝かせると、マルクは腕を組んでうーんと唸った。
「うむ!通常、極上のワインを仕込むには数年から数十年という熟成期間が必要ですが……この神聖なブドウなら、若酒の段階でも十分な美味さになるはずです!」
「数年……そんなに待たなくても、僕の【土いじり】で作った土壺を使えばすぐできますよ?」
アルトはそう言うと、足元の黒土と粘土を手際よく捏ね、かぼちゃほどの大きさの「重厚な土壺」を作り上げた。
「土の中にいる良い菌(発酵菌)に『元気にブドウを美味しくしてね〜』って声をかけて、地脈の温かさを中に閉じめるんです!」
アルトが摘みたての神聖ブドウをぎゅっと絞って土壺へ注ぎ、ポンと木のフタを閉めた。
直後——ポカポカとした黄金の聖気が土壺を包み込み、壺の中から「コポコポ……」と心地よい熟成の音が響き始めた。
「な……ななな、何ですかその手品のような醸造は……!?熟成とは時間をかけて……って、えええ!?」
マルクが目を見開いた、わずか三分後。
「はい、できましたよ!熟成完了です!」
「三分でワインができるわけ……」
アルトがフタを開けた瞬間、ブワッ……と周囲一面に芳醇で甘く、脳が痺れるほど高貴な香りが広がった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!??!?!」
その場にいたアリサとルナリア、そしてマルクの三人が同時に息をのんだ。
たった一息吸い込んだだけで、全身の血行が良くなり、体中の魔力が幸福感とともに波打つのがわかる。
「こ、これは……ただのワインではない……!世界中の王侯貴族がいくら金を出しても手に入らない、神話に謳われる伝説の『神酒』ではないかぁぁぁ!!」
マルクが叫び、震える手で木製のカップに注がれた深紅の液体を一口含んだ。
((((ドカァァァァァァン!!!!))))
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!??!?」
口の中に広がったのは、芳醇なコクとフルーツの爽やかな甘み、そして五臓六腑に染み渡る極上の温もり!
「美味い……!美味すぎる……!熟成の深みが五十年間熟成させた最高級ヴィンテージを超えている……!なぜだ、なぜ三分でこんな奇跡の深みが出るのだぁぁぁ!!」
マルクは涙をボロボロと流しながら大歓喜した。
「どれどれ、私も一口……〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!??!はぁぁぁ……なにこれ……すごすぎる……全身の魔力が湧き上がって、心が天にも昇る気分だぞ……!」
元Sランク冒険者のアリサも、一口飲むやいなや頬を真っ赤に染め、至福の表情でうっとりと目を細めた。
「ちょっとお二人とも、お酒に呑まれすぎですわ……って、んんん〜〜〜〜っっ!!??美味しい……美味しすぎますわぁ……!故郷のエルフの森で飲んだ御神酒すら足元に及びませんわ……!」
ルナリアも杯を重ね、すっかり目をとろんとさせて頬を赤らめている。
「ふふ、喜んでもらえて良かった!あ、お酒が飲めないポチは、こっちね!」
アルトは、巨大な木樽になみなみと注いだ「砂糖一切不使用の神聖生搾りブドウジュース」を、ポチの前に置いてあげた。
ポチは大きな舌でジュースをペロペロと舐めとると——。
『んほぉぉぉぉぉぉ!!(濃厚!甘い!旨いぞぉぉぉ!)』
尾を千切れんばかりにぶんぶん振り回し、大喜びで特大樽に顔を突っ込んでジュースを豪快に飲み干した。
「マルクさんのおつまみ(神聖ナスのチーズ焼き)も美味しいし、最高のパーティーだね!」
「うむ……アルト、杯がお代わりだ……!」
「私もですわぁ〜!アルト様、もう一杯くだされ……!」
最高のジュースと至高の神酒、そして絶品のおつまみに囲まれ、全員で眩しい笑顔で杯を交わす賑やかな夜が更けていった。
だがその頃——。
アルトの農園から大気中へと漏れ出した「神酒」のあまりにも高貴で圧倒的な魔力の香りが、数十キロ離れた街道を歩いていた一人の老人に届いていた。
『……む、むむむっ!!??なんだこの至高の香りは!?』
長い白髭をなびかせ、豪華な杖を持った王国の『大賢者』が、目を剥いて大興奮で鼻をひくひくさせた。
『いかん!我が魔法の探求と酒の愛好家としての魂が叫んでいる!今すぐその場所へ向かわねばぁぁぁ!!』
あまりの香りの凄まじさに理性を吹き飛ばされた大賢者が、なりふり構わず爆風のような飛行魔法で『死の魔境』へと爆走し始めていることなど、アルトたちはまだ知る由もなかった。
アリサ
「(神酒でほろ酔い、頬を赤くして)ふふふ……アルトの農園は最高だな……」
ルナリア
「アリサ様、お酒が回りすぎですわぁ〜(とろん)」




