第59話『封印された記録』
――AGISS日本本部・会議室。
重い沈黙が続いていた。
大型モニターには、古いAGISSの記録が映し出されている。
その中央に表示されているのは――
HX-01 VALGRAVE
透真は画面を睨んでいた。
「……これ、どういうことだ?」
伊藤は答えない。
「ヴァルグレイヴの観測記録が、俺が生まれる前にあった?」
「その通りだ」
「じゃあ、俺が使ってるヴァルグレイブ…いや、アレは……何なんだよ」
「それについては、まだ断定できない」
「まだ?」
透真が机を叩く。
「なんでこんな資料を隠してた!」
「隠していたわけではない」
伊藤は冷静だった。
「封印されていた。」
「誰に?」
「AGISS上層部だ」
その言葉に、全員が黙った。
八重が資料を手に取る。
「この記録……かなり古いですね」
「AGISSが現在の組織になる以前のものだ」
伊藤が説明する。
「当時、世界各地で正体不明の兵器が発見された」
「兵器?」
レオンが聞き返す。
「そうだ。現在のHXと酷似しているが、当時はHXという名称すら存在しなかった」
画面が切り替わる。
古い写真。
荒野に倒れている巨大な機体。
白や黒、赤青黄色など多種多様な装甲。
そして――
赤い光を放つ漆黒の機体。
「……」
透真は言葉を失った。
「これ……」
見覚えがある。
形こそ違う。
だが、その雰囲気は――
ヴァルグレイヴに似ていた。
「当時の研究者たちは、これらを『異形兵器』と呼んでいた」
伊藤が続ける。
「そして研究の過程で、ある共通点が発見された」
モニターに一枚の文字が映る。
適合者
「HXは、誰でも使えるわけじゃない」
レオンが呟く。
「現在のHX適合者にも共通する現象だな?」
「そのとおりだ。」
伊藤が頷く。
「だが――」
画面が暗転する。
次に表示されたのは、
PROJECT GENESIS
「この計画は、他の研究とは目的が違った」
「……Genesisってあれか?」
透真が呟く。
「そうだ」
伊藤は言う。
「だが、ここで一つ訂正しておく」
「?」
「Genesisは、すべてのHXの始祖ではない。」
全員の視線が集まる。
透真が目を見開く。
「じゃあ……HX-00ってのは何なんだ?」
伊藤は少し間を置いて答えた。
「あれは一緒に掘り出された石板に描いていたものだ、内容は我々にもよく分からない」
「……は?」
鳴海が思わず声を上げる。
「いやいや、ちょい待ちぃや。分からんもんを研究してたんか?」
「そうだ」
「マジかい……」
伊藤は資料を一枚取り出した。
「Genesisという名称は、研究者が付けた仮称に過ぎない」
「じゃあ何を指してるんだ?」
「一つの機体ではない」
透真が眉をひそめる。
「……機体じゃない?」
「現象だ。」
部屋の空気が変わった。
伊藤は画面を切り替える。
そこには、いくつものHXの記録。
ヴァルグレイヴ。
セラフィム。
ビースト。
その他、現在確認されている各国のHX。
そのすべてに共通するデータが重なっていく。
「Genesisとは、特定のHXを指す言葉ではない」
「じゃあ何?」
八重が尋ねる。
「HXが生まれる過程で発生する――」
伊藤が言葉を選ぶ。
「未知の反応現象。」
「……」
「だから、先ほど君たちが見たGenesisが何者のものなのかも、まだ分かっていない」
透真は黙って考える。
「じゃあ、あいつは……」
「少なくとも、君たちが考えているような『HX-00という一体の敵』ではない可能性がある」
その時。
モニターが突然乱れた。
「?」
画面にノイズが走る。
そして一瞬だけ。
別の映像が表示された。
――白い部屋。
幼い南瓜。
その前に立つ、研究員。
『被験者AG-00。実験を開始します』
南瓜が――
振り返る。
「……!」
その映像を見た瞬間、透真が立ち上がった。
「羽吹……?」
映像はすぐに消える。
「今の……」
八重が息を呑む。
「南瓜さんでしたよね?」
「……ああ」
透真はモニターを見つめる。
伊藤の顔色が変わっていた。
「……これは」
「伊藤さん?」
「誰だ」
伊藤が通信設備へ叫ぶ。
「この映像を流したのは誰だ!」
返事はない。
ただ、画面の隅に一つだけ文字が浮かぶ。
AG-00
STATUS:ACTIVE
そして消えた。
――地下資料室
南瓜は、一人で資料を読んでいた。
「……AG-00」
指先でその文字をなぞる。
その時。
背後から声がした。
「やっと見つけた」
南瓜が振り返る。
そこに立っていたのは――
見知らぬ女性だった。
AGISSの制服。
だが、通常の隊員とは違う。
胸元には、見たことのない特殊な徽章。
「……誰?」
「私はAGISS研究部門所属」
女性は名乗る。
「神崎ミサキ」
南瓜は警戒する。
「僕に何の用?」
「あなたに伝えに来た」
「何を?」
神崎は、机の上の写真を見る。
幼い南瓜。
その隣の白い影。
「Genesisについて」
「……!」
「あなたが知るべきことは一つだけ」
神崎は静かに言った。
「Genesisは、あなたを狙っているわけじゃない」
「じゃあ――」
「あなたの中にあるものが、Genesisを引き寄せている。」
南瓜の表情が固まる。
「……僕の中?」
「そう」
神崎は一枚の古い記録を差し出した。
そこには、手書きでこう書かれていた。
世界の変容――World Relise
発現者:AG-00
HXとの関連性:極めて高い
備考:本人には絶対に知らせるな
南瓜はその文字を見つめる。
「……なんで」
神崎は答えない。
「なぜ僕には知らせるなって?」
「それは――」
神崎が口を開く。
その瞬間。
施設全体に警報が鳴り響いた。
『警告。地下第七区画に侵入者』
『繰り返します――』
神崎が振り返る。
「……そんな」
南瓜も立ち上がる。
「侵入者?」
次の瞬間。
地下通路の奥から、
ドンッ!
という衝撃音。
照明が一斉に消える。
真っ暗闇。
そして。
暗闇の向こうから――
人間の声が聞こえた。
「羽吹南瓜」
南瓜が息を呑む。
「……誰?」
「君に会いに来た」
足音が近づいてくる。
一歩。
また一歩。
そして暗闇から姿を現したのは――
AGISSの制服を着た男。
しかし、その顔を見た瞬間。
南瓜の記憶が――
また、途切れた。
「……え」
男は微笑む。
「久しぶりだな、AG-00」
南瓜の瞳が揺れる。
「……僕は」
頭の奥から、知らない声が響く。
『――先生』
『実験をやめて』
『お願い……』
「――っ!」
南瓜は頭を押さえる。
「誰……なんだ……!」
男は答えない。
ただ一言。
「君が忘れた八年前の事件を、そろそろ思い出してもらう」
――その瞬間。
男の背後で、何かが動いた。
金属音。
神崎が南瓜の前に出る。
「南瓜君、下がって!」
南瓜が構える。
地下施設に、緊張が走る。
そして――
最初の敵が姿を現す。
次回予告
八年前。
羽吹南瓜がAGISSから姿を消した理由。
そして、彼の「世界の変容」が生まれた本当の理由。
「僕は……何をしたんだ?」
迫る謎のAGISS隊員。
敵なのか、味方なのか。
次回――
『八年前の亡霊』
「――AG-00。君はまだ、実験の途中だ。」




