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『AGISS -対神機関-』  作者: 羽吹南瓜
HX争奪戦編
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第57話 『Genesis』

――ロッテルダム。


崩壊した市街地に、奇妙な静寂が広がっていた。


先ほどまで響いていた怪異の咆哮も、銃声も、金属が激突する音もない。


空には、巨大な白い光輪。


その中心に浮かぶのは――


HX-00 Genesis。


白とも銀ともつかない装甲。


ヴァルグレイヴにも、セラフィムにも似ている。


だが、どこか違う。


「……あれが、Genesis……」


透真はヴァルグレイヴの拳を握った。


隣ではエルがセラフィムを展開している。


「久城さん。警戒してください」


「ああ」


二人が構える。


しかし――


Genesisは動かなかった。


「……?」


透真が眉をひそめる。


「来ない……?」


その時。


Genesisの頭部が、ゆっくりと動いた。


こちらを見た。


――いや。


透真たちの背後を見ている。


そこには、戦闘で傷ついた街。


逃げ遅れた市民。


彼らを守るように展開されたAGISSの部隊。


そして――


仲間たち。


八重は結界を張りながら周囲を警戒し、レオンは怪異を斬り伏せる。


鳴海は大型銃器を構え、


「まだ湧いてきよるで!」


轟音。


怪異の群れが吹き飛ぶ。


「こっちは任せぇ!」


カズキもフレイムカリバーを構え、炎の軌跡を描く。


「この程度なら、僕たちで抑えられます!」


その光景を、


Genesisはただ見ていた。


「……何してんだ、あいつ」


透真の声が漏れる。


すると――


Genesisの装甲表面に、淡い光が走った。


エルが解析する。


「……エネルギー反応、上昇」


「攻撃か!?」


「いえ……違います」


エルが目を見開く。


「これは……」


Genesisの胸部から、一つの光が浮かび上がる。


それは小さな球体だった。


ゆっくりと空へ昇っていく。


そして――


パァンッ!


光が弾けた。


一瞬、世界が白く染まる。


「うわっ!?」


透真が腕で視界を覆う。


数秒後。


光が消えた。


Genesisも――


消えていた。


「……え?」


透真は呆然と空を見上げる。


そこには、もう何もない。


ただ雲だけが流れていた。


「逃げた……?」


鳴海が銃を下ろす。


レオンも周囲を見回す。


「気配がない」


八重が静かに言った。


「攻撃する意思が、最初からなかったのかもしれません」


「じゃあ何しに来たんだよ……」


透真は拳を握る。


その時。


「……観測だろうね。」


全員が振り返った。


そこにいたのは――


羽吹南瓜。


いつもの黒いコート。


いつものオレンジ色のパーカー。


だが、その表情だけは違った。


「羽吹?」


透真が声をかける。


南瓜は空を見上げたまま答える。


「Genesisは、僕たちを見てた」


「見てた?」


「うん」


南瓜は目を細める。


「戦うためじゃない」


「……じゃあ、何のために?」


しばらく沈黙。


そして南瓜は――


小さく首を振った。


「……分からない」


「お前でも?」


「僕でも」


南瓜は苦笑する。


「正確には――」


一瞬だけ、その顔から笑みが消えた。


「知ってるはずなんだけど、思い出せない。」


「……」


透真は言葉を失う。


「何だよ、それ……」


「僕がエージェント0だった頃の記憶には、Genesisって名前が何度か出てくる」


南瓜は自分の頭を指で叩く。


「でも、そこだけ綺麗に抜けてる」


――AGISS日本支部


数時間後。


ロッテルダムでの戦闘は終息した。


怪異は駆逐。


市民の避難も完了。


HX争奪戦――その異常な戦いも、ひとまず終わった。


特殊探索班は輸送機に乗り、日本へ帰還するこ

とになった。


機内。


透真は窓の外を眺めていた。


「……終わったんだよな」


八重が隣の席から答える。


「はい」


「なのに、全然終わった気がしない」


「そうですね」


向かいでは鳴海が座席に沈み込んでいる。


「いやぁ……今回はほんま疲れたわ」


レオンは黙って目を閉じている。


カズキはフレイムカリバーの整備をしていた。


そして――


南瓜だけが、一人離れた席に座っていた。


画面には一つの名前。


HX-00 Genesis


南瓜は、その文字をじっと見つめる。


「……」


指を伸ばす。


しかし――


その瞬間。


端末が暗転した。


『アクセス権限がありません』


「……え?」


南瓜が顔を上げる。


AGISS本部から送られてきたデータが、強制的に遮断された。


そして機内全体に、通信が入る。


『特殊探索班、聞こえるか』


全員が顔を上げる。


通信の声は、AGISS日本本部の司令部だった。


『ロッテルダムでの任務について、帰還後に報告を求める』


透真が答える。


「了解しました」


『……それと』


一拍。


『羽吹南瓜についても、確認事項がある』


空気が変わった。


「……僕?」


南瓜が顔を上げる。


『帰還後、羽吹南瓜は単独で本部へ出頭せよ』


透真が立ち上がる。


「なぜですか!!」


『これは正式命令だ』


「理由を――」


『久城透真』


通信越しの声が、冷たく響く。


『君たち特殊探索班についても、話がある』


「……」


『今回の一連の事件について、AGISS本部は重大な懸念を抱いている』


ブツッ。


通信が切れた。


機内に沈黙が落ちる。


鳴海がゆっくり顔を上げた。


「……なんや、嫌な予感してきたで」


レオンも目を開く。


八重は南瓜を見る。


カズキは不安そうにフレイムカリバーを握る。


そして透真は――


南瓜の隣に立った。


「一人で行くな」


「……透真」


「何があるのか知らないけど、俺たちは仲間だろ」


南瓜は少しだけ目を丸くする。


そして――


いつものように笑った。


「……そっか」


しかし、その笑顔の奥には。


誰にも見せない不安があった。


その頃。


AGISS日本本部。


地下深く。


一般職員には存在すら知られていない資料保管室。


一人の職員が古いファイルを取り出す。


表紙には――


PROJECT : GENESIS


その下に、さらに古い文字。


AGISS設立以前


職員はファイルを開く。


そこには、一枚の写真。


――幼い頃の羽吹南瓜。


そして、その隣に。


現在のGenesisとよく似た、白い装甲の影が写っていた。


職員は呟く。


「……やはり、現代に出現したか」


写真を裏返す。


そこには一行だけ書かれていた。


「彼をGenesisに近づけるな。」


――そして。


ファイルの最後のページだけが、


誰かによって意図的に切り取られていた。

次回予告


帰国した特殊探索班を待っていたのは、歓迎ではなかった。


羽吹南瓜への事情聴取。


特殊探索班への監視。


そしてAGISS内部に存在する、知られざる派閥。


「俺たちが……監視されてる?」


「AGISSが隠してることって、一体なんなんや……」


「僕は――何を忘れてるんだ?」


次回――


『AGISS――その正義の裏側』


HX争奪戦は終わった。


だが――


AGISSの物語は、ここから始まる。

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