彼の大切なもの
『一体どういうつもりだ!?』
通信越しに響く父親の怒鳴り声に、部屋中はビリビリと震える。
通信音声ではなく、まるでその場に居合わせたかのような怒りの臨場感があった。
立体ホログラフ通信を無視し続けたが故の強制介入。
その状況に、レイリンは小さな溜息を吐いた。
「どうって言われてもそういう事だよ」
『何がそういう事だ今すぐ謝れ! 貴様は何をしたかわかっているのか!?』
「誰に」
『アメリア嬢に決まっているだろうが!?』
「嫌だよ。父さん俺がどんな目に遭ってたと思うんだ。あいついちいちうざいんだよやれ『この程度レイリン様なら出来ますよ』とか言ってやらんでも良い勉強押し付けてきたりちょっと手を抜くと『何故レイリン様はその様な事をなさるのですか?』とか。もうねちねちねちねち……」
一瞬たじろいだ様子だったが、考え直し息子の言葉と気持ちをかみ砕いて考えて……首を傾げた。
『……それ、正しい事を言っている様にしか聞こえんのだが?』
「正論ばかりで疲れるんだよ。ただでさえこんな立場なのにずっと気を使って……。心が病みそうだ」
『だ、だとしても。このままだと……』
「大体もう終わった話だ。既に話は出回っている。父さんの耳に入ってるのがその証拠。つまり、手遅れだ」
『何勝手な事を言っている! おい! わかっているのかお前! このままだとどうなるのか! 今すぐアメリア嬢に謝罪を――』
ブツっと音がして、会話が途切れる。
レイリンはふと足元の方に目を向ける。
そこには悪戯っ子の様な表情をした彼がいた。
「煩かったから切ったけど、良かったよねレイ?」
そう言いながら、彼は猫の様に体を伸ばしながら、レイリンに体をこすりつける。
レイリンもそれを嫌がるどころか受け入れ、彼の頭を撫でた。
「もちろんだとも。俺の意図を読んでくれて嬉しいよ。愛しのラオ」
ラオと呼ばれた彼は嬉しそうに、レイリンに頬ずりをする。
そして彼らは、熱い視線で互いを見つめ合った。
これが答え。
綺麗事でもなく建前でもない、本当の意味でレイリンが作戦を実行したその訳。
レイリンにとって婚約者という存在そのものが大きな足かせとなっていた。
彼には恋人がいた。
同性で、そして異種族の恋人が。
淡い緑色の髪に同様の瞳。
やたらと細くしなやかな四肢は例えレイリンの様な同性愛者でなくとも、倒錯的な何かを覚えてしまうだろう。
そして最も特徴的なのは、彼には耳と尻尾が付いていた。
やけに色気を感じさせる、猫の様な耳と尻尾が。
人類を含む三種族の内の一つ。
その種族の名は『ピタス』。
彼らピタスは皆、どこか獣の様な要素を体に含んでいる。
その獣性が、蠱惑的な瞳が、気ままに生きて居る自由が、レイリンの心を虜にした。
それは、一目ぼれであった。
そしておそらく、彼の方も。
彼らは熱い視線で見つめ合い、そしてどちらからともなく倒れ込み、その瞳を閉じた。
ありがとうございました。




