冤罪流罪の星流し
それは複雑な事象が絡み合った結果であると言える。
レイリンの自己中心的な愛が全てのきっかけではあるのだが、それはきっかけに過ぎず元凶と呼ぶ程ではない。
そもそも、複数事象の混合により混沌と化した現状において、元凶と呼ぶ様な定まった事象は存在しえない。
それはレイリンの思惑だけでなくアメリア自身の自業自得な積み重ねがあり、そして複数団体の政治的思惑も交わっている。
もはや正しく事象を把握する事は誰も出来ない程。
ただ、結論として言えば……このタイミングでアメリアはこれまでの自分の負債を全て払う事となった。
彼女は間違いなく、我儘放題をしてきた。
その溜まりに溜まったツケを清算する事となる。
アメリアは皇族に婚姻破棄を言い渡された。
貴族学園という退屈が過ぎる学園の中センセーショナルな事件が起こった。
そして噂が独り歩きをして無数の尾びれを生み……彼女は、学園に居られなくなってしまった。
学園側もまた、皇族という権力に忖度をし彼女を庇わなかった。
正しい証言があった。
正しい証拠があった。
彼女の我儘は事実ではあっても、彼女は学園を追放される程の事はしていなかった。
だが、気づけば彼女にはまるで物語の悪役令嬢という様な汚名が被せられ、そして彼女を排除せんとするその流れを止める事は出来なくなった。
レイリンとしてもそれは都合の良い物であった。
自分が悪者でなければ父親もグチグチ言わないだろう。
そんな短慮な思惑によって。
学園内の評判など外ではさほど価値もないのだが、そこまでは考えない。
レイリンは優秀ではあっても、まだ学園が世界の中心という子供でしかなかった。
かくしてアメリアは学園を追い出された訳だが……これで話は終わらない。
子供とは言えこちらは貴族であり、そしてあちら皇族での騒動である。
本人同士で終わる訳がない。
話はどんどん膨れ上がり、彼女の汚名は非礼し膨らむ。
元来の性格の激しさに加え、それを早期に修正出来なかった事が仇となり……そして、致命的な事が発生した。
その汚名によって、レーヴェル侯爵並びに保有する複数の惑星にまで及び風評被害がおき、決して少なくない損害が発生してしまった。
こを彼女の所為というのは酷な話である。
だが、誰かが責任を取らなければならない話ではあった。
アメリアは愚かで我儘である。
だが同時に、貴族であるということの意味を、領地惑星を幾つも抱えるという事の意味を、そして金銭だけが正しく領民を助けるという『お金』の本当の価値を知っている。
自分の我儘で父の領民に被害がいったという事の重みを、きっちりと理解している。
だけど、責任の取り方だけはわかっていなかった。
どう責任を取れば良いのか子供ではわからない程、事態は大きな物となっていた。
それ故に、彼女は悪い大人に騙され、取らなくても良い責任まで負わされる事になる。
悪役令嬢の末路らしい、最期を。
……これは、決して彼女だけの罪ではない。
丁度彼女の積み重なった負債が爆発したたその結果に過ぎ、過度な罪状や責任は本来また別の話である。
少なくとも、レーヴェル侯爵領が受けた風評被害による損害は彼女の所為ではなく、その周りの状況の所為だった。
彼女を庇わなかった学園。
面白がって彼女を悪者に仕立てた生徒。
そして男と愛を楽しむ為に彼女を皆の前でつるし上げ陥れたレイリン。
その全てが彼女同様罪を償う時が来るのだが……彼らはまだ、それさえ知らない。
自分のしでかした事の大きさを理解する時は、今の彼女の様に多くの物を失ってからである。
そして……今周りよりも一足早く罪を清算しているアメリアは……。
「ねぇ。もう少しこの揺れなんとかならないの?」
オンボロ宇宙船の中、そんな文句を口にしていた。
ヴォルフは心底アメリアに尊敬を覚えていた。
彼女は全てを失った。
学園を追放された。
自らの為の屋敷……いや惑星を失った。
宙船を失った。
今彼女が持つ物は着ている、彼女の持つ物の中では安物である服と、小物と着替えの入ったバッグ一つ。
それだけ。
それだけを持っての――島流しの刑。
そんな状況であるというのに、これだけ文句が言えるメンタルというのは本当に凄まじい。
普通の令嬢なら真っ青な顔で震える事しか出来ないだろうし、何なら全てを諦めて自害さえあり得た
これは嫌味でも何でもない。
ヴォルフは知っているからだ。
全てを失い、絶望の淵に追い詰められた時どんな風になるかを。
その時の事を考えると、アメリアのこの平然とした態度が本当に凄い事である。
とは言え、強がりな部分はあるだろう。
その証拠にヴォルフは見ていた。
彼女が手の震えを隠せない位悲しんでいて……いや、違う。
彼女の震えは、ただのイライラからの貧乏ゆすりだった。
驚く事に、イライラこそしていても彼女は絶望していない。
長年傍にいたヴォルフだからこそ、その真実に気が付いた。
「お嬢様は本当凄いですね」
「何? 嫌味? はっ! あんたも巻き添えなのよわかってんの? 私の従者はあんただけなんだから」
「ええ。そうですね」
「……今からまだ間に合うわよ? クビにしてあげようか?」
「私の事が不要ならどうぞ。一人で生活をしても困らないというのなら、私の卒業の時ですね」
「……ほんっと、こんな時まで嫌味とか、あんた性格悪いわよ」
「お嬢様と旦那様の薫陶の賜物です」
真顔でのヴォルフの言葉にアメリアは顔を真っ赤にしてぷいっとそっぽを向いた。
そう、皆性格が悪すぎる。
我儘放題で敵を増やしまくったアメリアも、娘の一大事に庇う事さえせず状況を利用しこうして娘を絶望に落とし込む侯爵も。
皆が皆好き放題する中巻き込まれる事しか出来ない。
そんなヴォルフはもう溜息位しか、この感情を表す術を知らなかった。
ありがとうございました。




